ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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感想が来なかった……だと?


兄が見たのは途中まで 成人指定の所は知らない

「……有りました。シアバーン……毛むくじゃらの一本腕……一つ目の怪物……全て符合しますね」

 

 ロノスがシアバーンと戦った日の深夜、一人の女性が古い文献に目を通していた。

 本棚に囲まれた椅子に座る彼女の傍らに置かれたのはロノスが夕方に彼女宛に出した手紙であり、それが彼女の手元に届く時間を加味すればものの数時間で目当ての情報に辿り着いた事になる。

 

 希少な文献ばかりが揃い、中には権力者の都合で歪められた歴史の真実を示す物さえ納められた資料室にてページを捲る音だけが静かに響いた。

 

 前分けにした赤紫の髪を腰まで伸ばした彼女の年の頃は十代半ばであり、冷静さと知性を感じさせる整った面立ちは多くの異性を虜にする事だろう。

 どの様な豪奢なドレスでも着こなせそうなスラリとした長身に見合った長くしなやかな手足すらも美しく、本を読む姿には優雅ささえ感じさせる。

 

 何処かの貴族の令嬢か、はたまた司書等ではないかと見た人に印象付かせる彼女は古ぼけたページを丁寧にめくり、読み飛ばし無く、それでも常人の数倍の速度で読み進め、途中で栞を挟んで本を閉じた。

 

「どうやら随分と面倒な事に首を突っ込んでいるのでしょうね。……ふぅ。これは久々の再会早々に小言となりそうです。若様ももう少し自覚して下されば良いのですが……」

 

 軽く溜め息を吐いた後、彼女は読んでいた本と他数冊を手にしてたちあがり、そのまま資料室を後にした。

 

 

「さてと、夜更かしは美容の大敵ですし、若様がご所望になるであろう資料は朝一で制作するとして一眠りしましょうか。美を保つ事も若様の妻という業務に必要な事ですからね」

 

 少しだけ楽しそうに微笑んだ彼女はそのまま資料室の直ぐ近くに用意された自室へと入って行く。

 政務に関する大量の書類が置かれた執務机や各国の情勢の報告書を纏めた棚を横切り、手早くシャワー室で汗を流して寝間着に着替えた彼女はベッドへと潜り込み、明かりを消す前に枕元に置かれた首飾りを手に取り、軽くキスをして眠りにつく。

 

「さて、良い夢がみれますように。お休みなさいませ、若様」

 

 その首飾りに添えられたのはバースデーカード。送り主はロノスであり、宛先には彼女の名が書かれていた。

 

 ”パンドラへ”と……。

 

 

 

 

 

 

 ……私には昔から特技とはとても言いたくない特技が有る。

 それは夢の内容をはっきりと覚えている事で、だからと言って夢の中で好き放題に動ける訳でもない中途半端な物だから、理屈も何も有ったものではないグチャグチャで理解不能の行動をした事や、時に嫌な思い出を夢で見たのをハッキリと覚えている日は気が沈んでしまう。

 

 でも……。

 

「今日の夢は良かったな……。まさか本当にお香が効いた?」

 

 長年被り続けて来たからか一人の時でも表の顔での口調になる中、私は珍しく良い夢だった事で特技に感謝する。

 机の上に置いてあったのは既に煙が出ていないお香で、昨日の帰り道に胡散臭い占い師に呼び止められて手渡された物だ。

 

「貴女、中々面白い運命ね。これはサービスよ。好きな相手が夢に出て来るお香なの。……もし効果があったらご贔屓にして頂戴な」

 

 半信半疑……いや、九割以上は疑っていたけれど燃やす前から良い香りがしたから使ってみたが、まさか本当にロノスさんが夢に出て来て、その上で寝る前に読んだ小説と同じ事をして貰えるだなんて思っても見なかった。

 

 夢の中では二人は恋人で、肩を抱き寄せられてキスをして、更には青空の下で服を……。

 

「……あっ」

 

 あの占い師が去り際に追加した言葉は確か”注意してね”だったけれど、お気に入りの下着の状態にその理由を知らされた。

 私が生活している寮では洗濯カゴに入れておけば洗濯した状態で戻って来るけれど、流石にこれは出せない。

 

「……シャドーボール」

 

 この後、ゴキブリが出たからと手加減したとはいえ魔法を室内で使った事で反省文を書かされる事になる上に、その時にお気に入りの下着まで巻き込んでしまったのは凄く残念だ。

 

 そして懸念が一つ……。

 

「どうしよう。ロノスさんと顔を合わせるのが恥ずかしい……」

 

 登校の準備をしながらも夢の余韻に浸り、恐らく夢に影響したであろう本に視線を向け、気が付けば手に取っていた。

 私は恋愛小説だと思っていたけれど、母が遺したこの本は官能小説らしい。

 ……ちょっと驚き。

 

「もう少し見ていたかったのに……」

 

 この小説の登場人物の二人を私とロノスさんに置き換えていた夢は本当に素晴らしくて、いよいよ純潔を散らす寸前に起こされた。

 ……そう、起こされたのだ。

 

 本を机に置いて天井を睨む。この上の部屋に居るのはクルス殿下を後押しする派閥の末端で、あの眼鏡の……確かアルフレッド(だったと思う)に随分とお熱らしく、寮に入った初日から随分と嫌がらせを受けた。

 

 まあ、家の格は王国の貴族なのに学園周辺に住む場所を用意出来ない時点でお察しだ。

 体型は随分とご立派だが。夜中にされていた足踏みからも感じた重量感的な意味で。

 

「何があったのでしょう? 朝早くから凄い悲鳴だったけど……」

 

 生首がどうとかこうとか叫んでいたけれど、まさか朝起きたら枕元に生首でも並んでいた?

 

 いや、流石にそれはないだろうし、ついでに言えば遅刻になる時間まで少ししか猶予が無い。

 馬車で行ければ間に合うだろうけれど私の実家は貧乏だから用意なんか出来やしないので無駄な話だ。

 

「もし夢の中と同じでロノスさんと恋人になったら迎えに来て貰えるのでしょうか……」

 

「アリアさん! お迎えにあがりましたので一緒に登校しましょう!」

 

 そんな想像に更けて余計に時間を浪費した報いなのか本当に迎えがやって来てしまう。

 最悪な事にロノスさんではなくて眼鏡だけれど。

 

「嫌だなぁ……」

 

 決闘後、謝られたが実際はどうでも良かった。

 あの様な事を言われるのは幼い頃に慣れてしまった私には少し耳障りな程度で、寧ろロノスさん達と近付けたのだから僅かながら感謝しても良いのだけれど、どうも私が謎のモンスターと戦う姿に好意を抱いた等と鬱陶しい事を言って来た。

 

 私じゃなくリアスの方に向けていれば良いのに……。

 

 

「あの、本当に迎えに来て頂くなんてご迷惑ですし……」

 

 まさか裏口から抜け出して学園に向かう訳にも行かず、大いに目立つ真似をしたアルフレッドの所に向かう。

 ああ、本当に面倒臭いから迷惑だ。

 

「何を言いますか。貴女の為ならばこの程度は迷惑になりません」

 

 この場で”私が迷惑なんです”と伝えられたら楽だけれど、本人は兎も角として御者やら同乗している人やらも一緒だから口にはせず、まさか辺境伯の次男がわざわざ迎えに来たのに貧乏子爵家の娘が断る訳にも行かず、有り難迷惑ながら送って貰うしかない。

 

 ……寮に入っている人からの視線が注がれるし、嬉しそうに手を取って乗る手伝いをして来るアルフレッドは本当に嫌だ。

 

 ああ、早く学園でロノスさん達に会いたい。

 あの人と一緒なら今の嫌な思いを上書きして貰えるから……。

 

 決闘に勝ったご褒美でデートをお願いする予定だし、早く着いて欲しいと思う中、対面に座るアルフレッドから向けられる会話に愛想笑いと適当な相槌を向ける中、時間がゆっくり過ぎる気がした。

 

 

「そうだ! アリアさんは舞踏会のパートナーは決まっていますか? もし未だなら……」

 

「実はロノスさんと既に……」

 

 嘘だが、ご褒美の内容をそれにすれば良い。

 何だ、勇気を出して誘う口実が出来たし、この男は私の恋のキューピットなのだろうか?

 

 色々と迷惑な男だけれど、その点だけ少しは感謝しても良いだろう。

 

「そ、そうだ。興味深い話を聞いたのだが……」

 

 ロノスさんに先を越されたと感じたのか少し気まずそうな彼は急に話題を変えにきた。

 どうも感性が違う気がするので恐らく私には興味深くない話だろうが、まさか正直に言う訳にも行かないので聞く事にしよう。

 

 

 

「陛下がお忍びで舞踏会にいらっしゃるそうだ。……君に会いに来るのかも知れないな」

 

「陛下がですか!? でも、私に会いたいだなんて有り得ませんよ……」

 

 ……ほら、全然興味が湧かない話だった。

 もし本当に私の父親だとしても今更な話なのだから。

 今更会いたいと言われても、私からすれば有り得ない話としか言えない。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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