ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
高い高い石造りの塔の中、入り口以外に窓も無いが空気の淀みは存在しない。
内装に飾り気も見られず、首を痛める程に見上げても天井が見えない吹き抜けだ。
内壁に設置された螺旋階段と床に置かれた飾り気の無いベッドを始めとした僅かな生活感、そして床にも壁にも埋め込まれた無数の時計。
チクタクチクタクと針は止まる事無く時を刻み、古今東西大小の時計の中にある柱時計や鳩時計が一斉に鳴る以外は一切の音が鳴りはしない中、扉が軋む事無く開いた。
音も無く自動的に開いた木製の扉に続いて入って来たのは神々しいオーラを放つ生きる屍……ではなく、時の女神ノクスであった。
「ヴァアアアアアアア……」
腹の底から負の感情を絞り出したみたいな呻き声、艶のある髪は少しボサボサになっており、前髪で隠れていない方の目には生気が感じられず、夢遊病さながらの辿々しい歩みでフラフラとベッドへと向かっていた。
その姿はまるで社畜、更に例えるならば週休二日で明るいアットホームな職場という募集を見て採用された職場にて入社早々に有能振りを発揮、同期だけでなく上司や先輩からも頼りにされる
……結果、任された仕事をこなす為に電灯が明るく照らす職場で終電ギリギリまで働く事になり、日月の二連休を奇跡的に許された後、火曜から次の週の木曜の深夜まで働いた所で緊張の糸が切れて仕事机で寝落ち、通勤ラッシュの時間帯に眠気と疲れと変な姿勢で眠った事による痛みを抱えての満員電車を耐えきって漸く帰宅した、その様な感じだ。
「眠い、疲れた、眠い眠い眠い……彼奴は何時か殺す……」
歩きながら燕尾服を乱雑に脱ぎ捨てれば、捨てた側から宙で綺麗になった状態で畳まれ、独りでに開いたタンスの中に仕舞われて行くのだが、タンスの中には同じ燕尾服の上下と肌着、そしてブラジャーが幾つか有るのみ、パンツは一枚も入っておらず、服を脱ぎ捨てて残るは下着だけになった彼女は最初からパンツを穿いてはいなかった。
「お休……み……」
そのままベッドの上にうつ伏せに倒れ込む事数秒後、泥のように眠るノクスからスヤスヤと安らかな寝息が聞こえ、あれだけ塔の中に響いていた時計の奏でる音は一切消えて静寂が包み込む。
睡魔に身を任せ、ため込んだ疲労を捨てようとする塔の主を気遣うように、それとも時が止まってしまったかのように。
この場で聞こえるのは安らかな寝息と時折する身動ぎの音のみ……。
だった。
「ンーンン、ンーン、ンンンンンンーンン」
枕元に置かれたパンダの形の時計、それも周囲の時計どころかノクスを崇める世界には存在しない筈のデジタル式。
そこから録音されたと思しき少々音程の外れた国歌、具体的には米の国の国歌が音量を上下させ、まるで羽虫の羽音のような感じとなって枕元から響き渡った。
「……ん」
完全に眠りから覚めてはいないらしく目を閉じたまま腕を目覚まし時計に伸ばすも倒れ込むようにベッドで眠り始めた彼女の手は届かない。
這って枕元に向かう気力も無いのか動かず、体の下に敷いた毛布を頭から被ったり枕で耳を塞ぐもその様な行為で眠れる筈もなく、遂に我慢出来なくなったのかノクスは跳ね上がってパンダの頭を掴むなり腕を振り上げた。
「糞大熊猫擬きがっ!」
怒声と共に全力投球、壁にぶつかり床で跳ねてベッドの近くまで転がって漸く止まった目覚まし時計からは衝撃で何処かが壊れたのか音量の上下が激しくなり、同時にガラスを引っかく様な音質にまでなっている。
「うぅぅぅぅ……」
毛布を頭から被って丸まって唸るノクスだが鳴り続ける目覚まし時計の音声、無視しようにも無視できず……睨んだだけで相手を殺せそうな目つきで立ち上がると目覚まし時計をひっ掴み壁まで歩くと先程同様に投げつけて、跳ね返って来た所に拳を突き出した。
「おらぁっ!!」
普段の真面目でクールな彼女は何処へやら、殴る殴る殴る、怒濤のラッシュを叩き込み続けるも目覚まし時計は僅かに端が砕けるだけで音程が外れた鼻歌の再生は続くがラッシュも止まらず、逆に勢いを増して行く。
「これで最後だっ!」
雨垂れ石を穿つ、あれだけ強固だった目覚まし時計も全体に大きくヒビが入り、その一撃には最大の力が込められていた。
「デーダー・・・・・・グウ!」
謎の掛け声と共に振り抜かれる拳、石壁とノクスの拳に挟まれた目覚まし時計の全体に衝撃が伝わり遂に大破、パンダの首だけが床を転がる中、ノクスは膝からの崩れ落ちる。
「また仕事ですか。・・・・・・ウ゛ァアアアアアアアア」
再び搾り出されるうめき声、その直前の呟きを肯定するかの様に外から扉がノックされた。
神とは完全無欠にして困窮する人々を無償の愛で救う存在、その様な勘違いが人間共の間には広く浸透していますが……実に人間らしい愚かな妄想だと失笑してしまいそう。
ええ、他の種族よりも人間を贔屓する神は多いですが、それは単純に見た目が似ている程度、後は信仰という方法で自分達を誉めるから気分が良くなっただけ。
職場でおべっかを使う同郷の部下に少し優しくする人間と大して変わらないというのに。
私? 私は時の女神、時間は動植物だけでなく非生物にさえも等しい物、寧ろ愚かな人の子は関わりたくは無いですね。
手洗いで死滅する最近も人間の英雄も同等、信仰というお世辞も通じませんから。
寧ろ届きもしないし、届いても困る生け贄を捧げて不老不死を得ようとする連中に嫌悪すら……。
故に個人的には関わりたくはないのです。
『ねぇ、私の不始末の解決のお手伝いをお願い出来ないかしら? ノクスにしか頼めないのよ』
……そう、あの子に関わったのは尊敬する御方に頼まれたから、それだけ。
少しだけあの日々が楽しかったのは認めますが、私の知るあの子は既に存在しません、それはそれに関わった私が知っている事ですので。
そして完全無欠でもない……ええ、人間と比べるならば全知全能ですが言葉の意味通りに考えるのならばそうでないのは認めましょう。
そも、司る物が違う時点でそうではないと分からないとは。
神とは自己の存在を知覚した時点から神という存在であり、その時点で存在しなかった物や概念を司る神もそれと同じ。
獣人族が吸血鬼族になれないように、神も司る物を変える事は……。
『今日から僕が大熊猫も司る~! 自由と悪戯と大熊猫の神だーい!』
存在の開始と共に決まっていた自らが司る物だけでなく、他の神の物まで変えられる存在は……。
「……うん、存在しませんね、存在したら駄目な存在です、そんなのは」
だから何処かの誰かが獣を司る神から大熊猫以外の獣を司る神にされてなんかいませんし、急に役割が変わった事で神獣の手を借りても調整に追われる筈もなく、だから私が義理で手伝いに行って過労で倒れそうになんかならないのです。
「……ふぅ。早くリュキ様の刑期が終われば良いのですが。まあ、あの子……あの人間に期待しましょうか。……よりにもよって全裸を見られてしまいましたが……あの馬鹿」
……とまあ、こんな風に色々と悩みながら服を素早く来て扉を開けてやれば灰色のウサギのキグルミが入り口で立っていました。
「許可します。入りなさい」
「失礼致します、ノクス様」
私の許可を得て目の前の女は足を踏み入れる、勝手に入って居たのならば不敬者として神罰を与えていた所だ。
「擬獣師団キグルミーズ三羽烏が一人、グレイシア参りました」
「御託は良いわ。わざわざこんな物で予め来訪を伝えたのだし、何か用事が有るのでしょう? 早く伝えて直ぐに消えなさい。私は貴女がこの世で四番目に嫌いだと伝えた筈です」
意識せずとも言葉に棘が乗る。
これは八つ当たり、この世で最も嫌いな性悪神の神獣である事は(それ程)関係無く、理不尽な理由で私は目の前の愚かな女が嫌いだった。
「アンノウン様からの伝言です。”僕達はこれ以上世界に干渉出来ないから、ガンダーラで動いているサマエルの様子見をお願いね!”、との事です」
「あの愚か者、何をやる気なのかしら? 神獣将の中ではマトモな方だったけれど……仕方無いわね。……それにしてもアンノウンの命令に忠実に動くだなんて、自分の子供達が幼い頃にどうして同じ様に出来なかったのかしら?」
「……」
私の問いかけにグレイシアは答えず、代わりに拳を強く握りしめ奥歯を噛みしめる。
分かっているのでしょうね、誰よりも。
「後悔しているのでしょう? でも、残念ね。時を巻いて戻すだなんて禁忌、時の女神の私の力に加えて上位の神が犠牲を払わなくては成し遂げられない。貴女にやり直させるなんて大博打を選ぶ価値は無かったわ」
もし、あの時に貴女が大人しく父親に従っていればあんな結末は向かえなかったかも知れないのに、そんな意味も無い話を私も貴女も何度もしたのでしょうから。
「じゃあ消えなさい。何度でも言うわ。私は貴女が嫌いなの。さっさと居なくなって頂戴」
あの子はもう居ない、だから目の前の女が嫌い、理不尽だとは分かっているけれど。
さて、業腹だけれどもサマエルの見張りの準備をしなくては駄目ね。
……シスターの振りでもしましょうか、何かあって去る時には腹痛の演技でもすれば良いし。
この選択を私は後悔する事になる、連徹明けのテンションは怖い……。
因みに嫌いな存在の二番目は性悪二号のハシビロコウ、三位はパンツ着用をしつこく言って来る相手。
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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ポチ
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レキア
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夜鶴
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ネーシャ
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ハティ
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レナ
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パンドラ
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サマエル
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シロノ
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アリア