ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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抱いた期待

 ……私の人生は蔑みと恐れの視線を浴び続ける物だった。

 

 綺麗な赤い髪をしていた母とは違う、忌むべき物とされる黒髪を持った私を祖父母でさえ嫌い、数少ない味方は母を除けば毛の色で人間を区別しない森の動物達。

 

「私もいっその事、動物に生まれたら良かったのに……」

 

 小さな領地を持つ田舎の子爵家の跡継ぎ娘として生まれた私だけれど、父親の顔も名前も知らない。

 唯一知っている筈の母は口を噤み、病気で死ぬ間際に赤い宝石が埋め込まれたペンダントを父が私の十歳の誕生日に贈ってくれた物で、何時か渡して欲しいと頼まれたと言って与えてくれたけれど、血の繋がっているだけの他人に興味は無かった。

 

「父親なら、どうして私の傍に居てくれないの? 私の味方をしてくれる人はお母様だけなのに」

 

 黒い髪に黒い瞳は禁忌とされる闇の力を持つ証だって言われ、恐れられているけれど、別に教会がそう定めている訳でもない、要するに只の言い伝えに過ぎない。

 

 なのに皆が私を怖がり、魔女だの悪魔憑きだって後ろ指を指し、父親は召喚された悪魔なんだと母さえも侮辱する。

 

 なら、ずっと閉じ込めて居てくれたら良かったのに、いっそ赤ん坊の時に殺してくれたら良かったのに、私は生かされて、蔑まれ恐れられる日々を送らなければならないなんて地獄なのに。

 

 それとも魔女や悪魔憑きは地獄に堕ちろって事なのかしら?

 

 生まれ変わりが本当に有るなら、私の前世は余程神様に嫌われる事をしたのね……。

 

「貴女の人生は辛いものだけれど、きっと受け入れてくれる運命の相手と出会うから。だから強く生きて。私の愛するアリア……」

 

 母が最期にしたお願いさえなければ命を絶っていたかも知れないわ。

 

 忌み嫌う存在でも、跡継ぎは跡継ぎだし、法で闇の属性は罪だと決まってもいないからか、血縁上の祖父母は私をアザエル学園に入学させる事にした。

 

 要するに寮に入れて屋敷から追い出し、継ぐ領地も無い名誉職だけの貴族や跡取りの予備の予備の三男坊でも婿にさせる気なのだろう。

 闇以外の属性を持って生まれた子供さえ生まれれば用無しだと処分されるのかも知れないけれど、もう生きる事に大して興味なんか無い。

 

 母の願いだから死ぬまでは生きる気だけれど、私の黒髪を受け入れてくれる人なんて存在する筈がないのだから……。

 

 

 

 

「えっと、学園まで行くにはどうしたら良いんでしたっけ?」

 

 その顔を隠せと与えられたのは古びたフード付きのローブで、どうも隣国の街が急に発展した影響が出て領地に入る筈だったお金が入らなくなった影響らしいが、元々私に与えるお金なんて大した事がなかったのだから変わらないだろう。

 

 削れる所は削れば良いし、下手に増税をしてまでお金を使われた結果、領民達の不満が無関係な事まで私に向かうのはごめん被るもの。

 

 母の言葉があるので、精々使い易い道具として直ぐに処分されるのを防ぐ為に猫を被ったままで居るのも随分と慣れた気がする。

 

「まるで普通の女の子みたいです。……なんちゃって」

 

 この王都レイアに到着するなり馬車から降ろされ、今はこうして大荷物を背負って学園の寮に向く道中、私の人生はあっさりと終わりそうになった。

 

 階段の手すりから落ちて、このまま死ぬのかと思うと自然と意識が遠のく。

 

 ああ、呆気ないし、約束も破る事になるけれど……。

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 意識を取り戻した時、私は見知らぬ男にお姫様抱っこをされていて、体は何処も痛くはない。

 相手の顔を見れば銀の髪を整えた碧眼の中性的な顔立ちで、絵本に出て来る王子様みたいな彼が私を助けたのに気が付き、直ぐにフードが外れているのにも気が付いた。

 

 何を分も弁えずにときめいて期待している?

 自分が普通の女の子みたいに恋をして、好きになって貰えるとでも未だに思い込んでいたのか?

 

 自分が忌み子だと忘れるな。

 ほら、彼も私の目と髪の色に気が付いたし、これで余計な期待なんて……。

 

「綺麗な髪だな」

 

「へや!?」

 

 思わず変な声が出てしまう。

 

「今、私の髪が綺麗だと言いました?」

 

「ええ、とても素敵な髪だったからね。つい口に出したけど、不愉快なら謝罪しよう。その前に嫁入り前の女の子をずっと抱っこしているのも問題か」

 

 聞き間違いに決まっているのに聞き返した私は肯定の言葉を耳にして、彼の瞳に今まで何度も目にした蔑みや恐れの感情が込められていない事に気が付いた。

 

 止めて、期待させないで……。

 

「あ、あの! 用事があるので……ありがとうございました!」

 

 胸が高鳴り、体温が上がるのを私は感じて思わずその場から走り去っていた。

 

 相手が何処の誰なのか尋ねず、自分が何処の誰なのか名乗りもせずに。

 でも、これで良いし、これが一番だ。

 ほんの僅かな間でも夢を見せて貰って、女の子として扱って貰えて本当に幸せだったから、私みたいな存在と深く関わったら駄目な彼に、せめてもとお礼だけ伝えて………。

 

 

 

 

 

「……あれぇ? リアス、今の子って……」

 

「黒髪……つまりは闇の属性持ちって事でしょう」

 

 去って行った女の子を見送り、流石に不躾だったかなって思っていたら、まさかの凄く呆れた表情を向けられて、その理由を考える。

 

 えっと、ゲームでの設定では周辺四カ国に黒髪で黒い瞳の女の子の確認は一人しかされていないってなっていた筈だし、もしかして……。

 

「確かルメス子爵家の令嬢が闇属性持ちだった筈ですね。名前はアリア……だったかと。それにしては随分と粗末な服装……いえ、そう言う事ですか」

 

「え? レナ、何か心当たりが有るの?」

 

 僕達の知識ではアリア……原作主人公は家族との折り合いが悪いけれど、あんな古ぼけたローブを着る程の貧乏ではなかった筈だし、レナも最初は疑問視している様子だけれど、僕達二人を見たら合点が行った様子だ。

 

 僕達が何をしたんだろう?

 

「確か四年程前、新しい街作りを任されましたよね」

 

「有ったわね。私達の案を元にお祖父様の部下が殆ど進めて成功した奴」

 

 そうそう。補佐官だって名乗る二人に案を求められたし、僕は海外ドラマで知ったラスベガスみたいに劇場とかカジノとかの娯楽施設が豊富な街の案を出して、リアスは少女マンガで知ったパリみたいに芸術の都が欲しいって言ったんだよね。

 

 その程度の現代知識なんて本当は役に立たない筈だけれど、ロノスやリアスの知能なら多少はマシな修正が出来るし、お祖父様は人材育成に力を入れているから予想外に成功して形だけの功績を貰ったんだ。

 

「悔しいし、思い出したくないわよ、あんな事。それで、それがどうかしたの?」

 

 案の定プライドが高いリアスは気に入らなかったし、思い出させるなって態度だ。

 

 

「いや、それですよ。何処かに富が集まれば影響で富む所と貧しくなる所が生まれるというだけです。これでスッキリしました。では早くお茶にしましょうか」

 

 精々喉に刺さった小骨が取れた程度な感じのレナだけれど、僕とリアスは違う。

 

「……えっと、失敗した?」

 

「不味いわね……」

 

 計画ではアリアに頑張って貰いつつ僕達は安全な場所から支援する予定だった。

 でも、どうやら思わぬ理由で難易度ハードにしちゃったらしい……。

 

 

 ……どうしよう?




ヒロインじゃなければ多分私の作品では死ぬタイプ

ヤンデレ……にはならない?


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