ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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後片付けをして帰るまでが遠足です

「……来い。早く来い……ロノス・クヴァイル! お前を……お前さえ倒せば僕は……」

 

 暗く深い穴の中、万全の罠を用意して僕は待ち構える。

 今までの僕じゃ生涯辿り着けない領域の力で創り出したゴーレムはやられてしまったけれど、この中なら勝つのは僕だ。

 話を盗み聞きして準備して待ちかまえ、見落としが無い様にと目立つ大穴を用意したから入って来るのは時間の問題で、奴さえ倒せば彼女だって僕の力を認めて……。

 

「僕の力……?」 自分の手に填められた黄金の腕輪に目を向ければ罵倒の声が聞こえて来る。

 

 ”思い上がるな出来損ないが”、”所詮は腕輪の力で、お前はオマケにすらならない”、それを顔を左右に振って追い払った。

 

 そうだ、生まれ持った才能が自分の物なら、こうして後から運良く手に入れた物の力だって自分の物じゃないか。

 この腕輪は一度着ければ外せないけれど、外せないという事は奪われる事も無いから生涯この力は僕の物だという事になる。

 

 先程まで聞こえていた罵倒が一瞬で消え失せ、代わりに賞賛の声が聞こえて来た。

 

 

「はは、はははははっ! そうだ! 僕が生涯世界一の力の持ち主だ!」

 

 込み上がって来るのは歓喜の笑いであり、優越感が心を満たす。

 ああ、成る程、他の連中が僕を馬鹿にするのも頷ける。

 誰かが下に居るって此処まで気持ち良い物だったんだ。

 

「もう誰も僕を馬鹿に出来やしない。姿を消した見張りも連中も! 皇帝も! 僕は世界一の魔法使いだって教えてやれば平伏して従うんだ。そうだ、そうに違いない。そうすれば彼女……リアス・クヴァイルだって、このアイザック・アマーラの物になるんだ!」

 

 アレだけの規模の魔法を使っても未だに疲れを感じないし、どうやら僕に怯えているのか幾ら待っても穴の中に僕を追って入っても来ない。

 

「あはははは! 一部じゃ”聖騎士”だなんて称されてるそうだけど、とんだ雑魚じゃないか! この勝負、僕の勝ちだ!」

 

 僕と違って散々もてはやされる男に勝った事が僕に自信を付けさせ、万能感を与えてくれる。

 そうだ、このまま王国に攻め込んで王になって、その後で帝国も聖王国も共和国だって支配するのも面白いんじゃないか?

 この大陸を支配する絶対的な王、そんな自分の姿がハッキリと浮かぶ。

 

「不思議だなこの腕輪を手に入れる前の僕なら想像すら出来なかったのに。そうか、この腕輪が僕を変えてくれて……ん?」

 

 穴の中に何かが落ちて来る。

 岩壁にぶつかって跳ね返りながら底までたどり着き、何度か跳ねた後で僕の直ぐ側までカラカラと音を立てながら転がって来たそれを、何だろうと思って拾い上げれば小さい水筒位の筒状の物体で今まで見た事が無い物だ。

 ただ、どうやら随分な魔力が込められていると感じた時、僕の目の前が光で満たされ、凄まじい衝撃と熱が叩き付けられた。

 

 

 

 

「……うわ。安全装置をうっかり外しまったから慌てて穴に投げ込んだが、

まさか此処までの威力だなんて」

 

「いや、君が引いてどうするのさ。引くのは僕だよ、僕」

 

 エンシャントドラゴンゴーレムに投げようとしていたアンリの新作爆弾だけれど、勝手に自滅した姿に手が滑って安全装置が外れたから、さあ大変。

 咄嗟に穴に投げ込めば分厚い岩盤が吹き飛ばされて周囲一体が崩壊している。

 

 友達だ、友達だけれど……こんな威力の爆弾を作り出して持ち歩くアンリは僕の中では超一級の危険人物になってしまったよ。

 

「安心しろ。あれは偶然の産物で、同じ物は作れない。……僕が新作の設計をする時は理性が飛ぶから設計書が解読不可能の場合が有るのは知っているだろう?」

 

 一度だけ見た事がある。

 如何にも悪役って感じの高笑いを上げ、部屋中を走り回りながら一心不乱に爆弾を作る姿は狂気そのものだった。

 

 偶に悪夢に出るんだよね、アレってさ。

 

「それでも怖いって。まあ、君だけは敵に回さないよ、絶対にね」

 

 国は違えども友達は友達で、聖王国と共和国の仲は良好で、第一王女と陛下の婚約も決まっている。

 王国には叔母上様が嫁いだし、帝国との政略的な婚姻は此処暫く無いけれど、だからアイザックも可能性を見いだしてリアスに求婚したんだろうね。

 

 彼奴の場合、皇族の一員だってのが余計に話をややこしくしているから非常に低い可能性だけどさ。

 

「さて、そろそろ帰る時間だが、流石にこれを放置しては駄目だな。しかし、随分と派手に周囲を破壊したな……ゴーレムが!」

 

「そうだね、ゴーレムが随分と被害を出したし、起こった事の証明の為に少しは痕跡を残すけれど、周辺の住人の生活に支障が出ない為に少し戻しておくよ。”タイムリターン”」

 

 崩壊した谷底の時間が巻き戻り、指定範囲から外した場所を除いて元通りになって行く。

 残したのは大穴とエンシャントドラゴンゴーレムの残骸の一部で、後で解析に回す為に拳大のを一つポケットに忍ばせた。

 

「これで大丈夫。周辺に影響は出ないね。……近くに町や村がなくて良かったよ。絶対パニックになるからさ」

 

 あの巨体だから少し位離れていても目撃はされていそうだし、そうでなくとも二度目の爆発は土砂を高く舞い上げたし爆発音も凄まじかった。

 タマなんて全身の毛が膨らんでモコモコになっているし、ポチだって少しソワソワしているから首筋を撫でて落ち着かせる。

 

 ほ~ら、ほら、大丈夫だからね~。

 

 これだけの騒ぎになったのだから妄想や狂言だとは言われないだろうけれど、僕達が暴れただの騒ぎを他国から持ち込んだだの、反王妃派の貴族が騒ぐ口実になりかねないし、ゲームでの設定を考えればその可能性も高い。

 

 ”エンシャントドラゴン”は負け確定のイベントバトルだったけれど、”エンシャントドラゴンゴーレム”は特定の攻略キャラの好感度がマイナスの状態で終盤まで辿り着けば起きるイベントボスだ。

 

 大富豪の息子やらアイザックやらをリアスがけしかけ、シアバーンの与えた腕輪の力で創り出して、その頃には英雄視されていた主人公一行に襲い掛かる……と言うのがゲームでの話。

 

 ゲームとは違って学園外の人間かも知れないけれど、シアバーン達”神獣将”が関わっているだろうし、僕達兄妹やアリアさんに目を付けてるみたいだから狙われたのは多分僕だ。

 

 ……まあ、友人だけれどアンリは他国の名門貴族だし、説明し辛い部分も有るから隙を見せない為にも黙っておこうっと。

 

「……ロノス、ちょっと問題が発生した。一旦地上に降りよう」

 

「問題? まあ、良いけどさ」

 

 急に真剣な顔になったアンリに言われるがままに地上に降りればアンリはタマの背中から降り、慌てた足取りで木の陰に駆け込んだ。

 

 

「サラシがほどけた! 悪いが誰か来ないか見張っていてくれ!」

 

「……まあ、見られたら都合が悪いか。王国の誰かが様子を見に来るだろうし、僕が此処で見張っているよ」

 

 木で遮られた向こう側で慌てて服を脱ぐのを音で理解した僕は一応背を向ける。

 親しき仲にも礼儀あり、友達だからって着替えている方をジロジロ見てたら流石に悪い。

 

 

「にしても大変だよね、一族の掟でも……女の子なのに男の子だって偽って生きるんだからさ」

 

「僕だって綺麗な服で着飾って街を歩きたいが、昔から決まった事だからな。言っておくが絶対に覗くな! 何かあってこっちに来ざるを得ない時は先に言え! ……上手く巻けない。胸なんて大きくならなければ良いのに」

 

「あー、はいはい。誰かが近寄ったら先にポチ達が気が付くだろうから安心しなよ。……最後のはリアスの前では絶対に言わないで」

 

 直ぐ側で女の子が服を脱ぎ、胸をサラシで潰そうと四苦八苦していると思うとドキドキしそうだけど、アンリだと思うと自然と落ち着いて来るのは友達だからだろうか?

 

 

 

「タマ、手伝ってくれ!」

 

「ピー!?」

 

 いや、幾ら慌てていてもペンギン……いや、ドラゴンのタマに何をどうやって手伝わせる気なんだろう。

 アンリ、相当焦ってるな、これは……。

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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