ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
ポチに跨がり空を行く。グリフォンの飛行速度は短時間ならドラゴン以上、そしてポチは結構タフガイ。
故に国境で軽く手続きをした時以外は地上に降りず、最高速度を維持したまま目的地に向かって飛び続けていた。
「キュキュキュイキュイキューイ!」
数日前にアンリとタマのコンビとレースをしたばかりだけれど、レース故に最短距離を無駄を省いて飛ぶ事ばかりを優先し、ポチの大好きな曲芸飛行はやっていないし、こんな長距離を一緒に飛ぶのも久し振りだ。
錐揉み回転をしながら急角度で地上に向かい、地面が近付けば今度は急上昇からの左右上下のジグザグ飛行。
「ポチ殿は随分とご機嫌ですね」
そんなポチの背中には僕以外に夜鶴の姿もあった。
何か起きた時に瞬時に動く為にと実体化し、こんな変則的に飛ぶポチの背中に平然と乗っているんだ、直立不動で。
確かにポチはお利口さんで優しい子で才能豊かだから周囲に風を纏って防風壁にしてくれるけれど、激しく飛ぶその身体に乗り続けるにはそれなりの技術が必要で、僕だって散々練習したし、その練習としてレナスと一緒に乗せて貰ったポチの母親の背中から何度落ちたか数え切れない。
うーん、流石は忍者……ちょっとジェラシー。
「って、相変わらずポチに”殿”って付けるんだね」
「私は道具ですが、ポチ殿はペット。であれば格上はどちら側かは考えるまでも無いでしょう」
僕としては君は配下的な立ち位置なんだけれど、それを口にしたら誇りを傷付けるんだよね? 夜鶴。
元々彼女は妖刀で、本人からすれば人の肉体は偽りの姿、能力の一つでしかなく、刀である事が夜鶴の誇り。
例えるならば特技の一つでしか相手の事を判断しないのと同じで、それは見て欲しい面とは別物だって分かっているのに其処しか見ようとしないのは、夜鶴の働きに対して報いる事にはならないんだ。
まあ、本当に道具の彼女を人扱いするのは例外的なパターンとして失礼に当たるって事だね。
「所で主、今から向かうのはどの様な所なのでしょうか? ゴブリンが多く住む金鉱の街だとは聞いていますが……」
「ああ、僕も何度か行った事が有るんだけれど、百五十年前に建てられたらしい随分と古い教会があって、歴史的価値が高いんだけれど流石に老朽化が進んで補修工事じゃ間に合わないから、新しくなり過ぎない程度に時を戻して来いってさ」
「新しくなり過ぎない程度? 古びたのが問題ならば、建築当時にまで戻せば良いのでは? それにしてもゴブリンの多い街ですか……夕食は屋敷で食べますよね?」
「新しいと都合が悪い時も有るんだよ。特に歴史がある事に価値がある場合はさ。昔の建築様式による建築物ってだけじゃね」
「はあ……」
どうやら夜鶴には歴史のロマンとかは分からないらしいけれど、考えてみれば夜鶴が打たれたのは随分と昔の事みたいだし、百年二百年程度じゃそれ程昔に思えないって事か。
「夜鶴にはその辺が分からないか。それが人と意志を持つ妖刀の感覚の違いだろうね。古めかしい事に価値を見出す事も有るのさ」
「そうですか。では、私に巻いている布もその考えから換えないのですか?」
夜鶴が本体の柄を持って軽く揺らせば柄に巻かれたボロボロの布も軽く揺れる。所々擦り切れたボロボロの布で、如何にも妖刀って感じだったし、打たれた時から巻かれていたらしいから僕もそのままにしていたんだけれど……。
「もしかして新しいのが良いのかい?」
「い、いえっ! 主に何か物をねだる等、刀にあるまじき振る舞いですので……」
「でも、そんな欲求は有るよね? 分体である夜のメンバーだって偶に食べ物とかご褒美を欲しがるし、君だって何か要求しても良いんだよ。いや、命令しようか。何か要求するようにってね。僕の気が済まないからさ」
こんな方法は少し卑怯だけれど、こうでもしないと何も要らないと言い張るのが夜鶴だ。
どうも欲とかその手の物は分体に押し付けて居るらしくてね。
でも、布がボロボロで嫌だったなら早く言ってくれたら良かったのに、遠慮するにも程があるよ。
僕の言葉に夜鶴は困った様子で唸り、遠慮がちに震えた声で最初に謝って来た。
「私の分体達が無礼な真似をして申し訳御座いません。どうも自制心やら刀である事の誇りが欠如しているらしく。ああ、そう言えば定例会議を分体達が開いている頃合いですし、暇潰しに聞いてみましょうか」
「あっ、そうだね。ちょっと気になってたんだ」
夜鶴の提案に僕が頷けば空中に投げ出された巻物が開き、宙に浮いた状態で真っ白い紙の表面にテレビ画面みたいなのが映し出される。
暗い部屋の中、無数の夜鶴が席に着き、上座の一人が咳払いと共に口を開いた。
「では、第五百三十二回夜の定例会議を始めます。最初の議題ですが……主と本体がウブ過ぎる気がする件について。意見は挙手にてお願いします」
「はい! 鍛錬中におっぱい見ただけで動きが鈍るのはどうかと思います!」
「はい。仕方無いわよ、主って女の裸を見慣れていないのですから。本体に関しては……”自分は道具だから余計な物は要らない”って私達分体に何かと押し付けた結果です」
「それで私達に個性が芽生え、記憶の共有の際に影響が出ているのですからね。もう訓練だの何だのと言いくるめて主に迫らせたらどうですか? 丁度薬が手に入って……見られていますね、本体に」
画面に向かって手裏剣が投げられ、向こう側から画面が割れる。巻物は一瞬で燃えて灰になった。
そして僕達は……。
「えっと、布を新調したいなら構わないし、他にも要る物が有れば言って」
全力で無かった事にした!
「では、新しい布と……おや? 若様、彼方をご覧下さい」
顔の横に伸ばされた指先を見れば、森の中を舗装した道で止まった馬車と、それを守る様に立つ武装した数人の姿、そしてそれを取り囲む”オーガ”の群れだった。
やれやれ、あの道は危ないから、腕に覚えがなかったら遠回りでも安全な道を選べって勧告しているのに。
馬車の様子からして商人で、時間や費用を惜しんだ結果がこれだ。
「ワリィゴハイネェガァアアアアアアッ!」
「ナグゴハイネェガァアアアアアアッ!」
まるで言葉を話しているみたいな独特の鳴き声に出刃包丁みたいな石の剣、鬼みたいな二本の角を持ち、藁みたいな植物を編んだ物を着込んでいる。
……前世でお母さんの実家に泊まった時に兄妹揃って怖くて泣いた”ナマハゲ”にそっくりだなぁ……。
まあ、オーガは石を削って短剣にしたり植物を編んだ防寒着を作る知能は有るけれど、基本的には凶暴で脳筋的なモンスターだ。
ゴブリンは人種でオーガはモンスターな事に前世の僕が疑問符を浮かべているけれど、ちゃんと知性があって交流可能なゴブリン達と知り合っているから行動に支障は出ない。
「皮膚の色は青が三匹に……赤が一匹。”オーガメイジ”、魔法を使う個体ですか」
「面倒だね。魔法を使う知能は有るけれど、火を森の中で使ったら火災になるって想像が出来ないんだからさ」
オーガの中に偶に発生する魔法を使える個体を発見したし、そもそも自国でモンスターに人が襲われているんだから迷う理由は見当たらない。
まあ、あれが実はスパイだったら話は別だけれど……。
「夜鶴」
「はっ!」
細かい指示を出す必要は無く、名前を呼べば夜鶴は全て理解して姿を消して大太刀のみになる。
眼下では強靭な肉体の持ち主であるオーガになすすべ無くやられて行く護衛らしき人達の姿があり、あれがやられたら一気に崩れるだろうからさっさと終わらせるか。
「ポチ」
手綱で急降下をお願いし、夜鶴の柄に手を添えると高度とタイミングを見計らって飛び降りる。
空中で抜刀、オーガ達の前を通過する前に切り裂き、地面に降り立った。
急に空から現れた僕に護衛の人達は慌て、背後のオーガ達を指さすけれど、納刀の音が響くと同時に僕の背後で崩れ落ちる。
「ワリィゴハ……」
「キュイ!」
残ったオーガメイジもポチが爪で頭を掴んで踏み潰して仕留める。
「あっ、こら! 食べちゃ駄目だって」
……もー! 庭師やメイドが甘やかしてオヤツを与えるから最近太って来たんだからさ。
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アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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