ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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閑話 とある商会の(腹黒)令嬢

 後悔とは後から悔やむから後悔といって、その”後から”というのは失敗に気が付いても取り返しが付かなくなった”後”な場合が多いですわ。

 

 ……私も今までの人生において大きな後悔が幾つか存在し、それは取り返しの付かない事ばかり。

 

 例えば、幼い頃、一族の掟で双子の妹と共に預けられた先で出会った歳の近い伯父に優しくした事。

 妹は少し要領が悪く、伯父は老いてもお盛んだったお祖父様が低い身分の者に産ませた子なのもあって冷遇されていましたわ。

 同情か、優しくする事での優越感か、その両方だったのかは今となっては思い出せませんが、私は伯父と妹と共に過ごし、何かと面倒を見て来ましたの。

 何時か余所に貰われて行く妹と、このまま厄介者扱いが続く伯父、優しくしない理由が当時の私には思い付かず、二人から向けられる尊敬や信頼の眼差し心地良かった。

 

 ”もっと私を誉めて”、”もっと良い所を見せたい”、そんな想いは日々日々膨れ上がり、私は少し無茶をした。……してしまった。

 

「あの花って確か絵本に出て来た奴だよね? お願いが叶うっていう奴。僕、知ってるよ」

 

「……良いなあ」

 

 それは三人揃って出掛け、退屈だからと抜け出した園遊会の日の事、伯父が崖際に生えていた花を見つけ、それに纏わるお話を得意そうに話しました。

 何時も頼りにしている私に良い所を見せたかったのか関わる伝説についてペラペラと口にして、妹はそれに目を輝かせる。

 

 だけど狭くて高い崖の突き出した先に生えている花を手にする勇気は二人には無く、普通だったら此処で諦めるか大人に頼んで困らせて終わりだったのでしょうが、二人にとっての私は何でも出来る凄い英雄の様な存在で、伯父が私になら取りに行けると口にして、妹も取って来て欲しいと目を輝かせた。

 

 ……結果はどうなったか、敢えて口にする必要は無いですわね?

 

 大怪我の後遺症で不自由になった右足を見詰め、杖を握りしめて深く溜め息を吐き出す。

 今まさに私は後悔の真っ最中であり、それは取り返しが付かない物。

 

「……オーガ。絶体絶命ですわね。お金と時間を惜しんで命もお金も失うなんて、私は相変わらず馬鹿のまま。良い格好をしたいと見栄を張り、こうして繰り返すのですもの」

 

 伯父を周囲の大人と同じ様に扱っていれば、妹を立場を巡って争う敵だと認識していれば、あの時に見栄を張らずにいれば、そして、帝国にて需要が急に伸びた金製品の素材となる金を他の商会に先んじて一刻も早く大量に手に入れる為に危険な最短経路を選ばなければならず、選んだのが危険な道を一気に進む事。

 

 全て悔やんだ所で意味は無く、今すべき事は一つだけ。

 馬車を囲むオーガの牙に目を向け、”彼処まで口から飛び出す程に大きい牙なら食事の邪魔になりそうですわね”、そんな無駄な事を考えつつも短剣を取り出す。

 

 撃退も逃走も不可能で、捕まれば苦痛の果ての死が待っているだけなら、せめて自分の手で人生を終わらせる。

 

 鞘から刃を引き抜き震える手で切っ先を喉元に向ける。

 大丈夫、切っ先に塗った毒が痛みに苦しむ時間を減らしてくれる。オーガに生きたまま身体を食われる事に比べれば誇りも保たれる上に苦しむ時間だって短い筈。

 

「……くない。死にたくない。こんな所で死ぬなんて……」

 

 どれだけ理論で自分を納得させようとしても手の震えも溢れ出す恐怖も収まってくれません。

 だって私は未だ何も大きな事を成し遂げていないし、恋だって未だしていないし、妹や伯父なんかよりずっと上に行くって目標だって……。

 

「誰か助けて下さいまし……」

 

 目を瞑って願っても、こんなタイミングで助けが入る奇跡なんて起きはしない。

 

 その筈でした……。

 

 何かが空から降り立つ音に目を向ければ金髪の男性が見慣れぬ剣を抜いた状態でオーガに背を向けていて、オーガ達はピクリとも動かない。

 そして彼が鞘に刃を収めた瞬間、血飛沫を上げながらオーガ達は崩れ落ちました。

 

 起こる筈のない奇跡は私の目の前で起きました……。

 

 

 これが私とロノス様との初会合の瞬間で、生涯忘れられない思い出となったのです。

 

 

「……ああ、なんて素敵なのでしょう。間違い無くこれは運命の出会いですわね……」

 

 商売に運は必要ですが、運命に委ねるのは三流の仕事。経験とコネと財力が最も必要ですが、私、この時だけは運に感謝しましたの。

 

 ああ、本当になんて……。

 

 

 

「なんて利用価値のある方なのでしょう。私は未だ運に見放されてはいないのですね」

 

 オーガ襲われ、もう終わりかと思った所を助けて下さった殿方を私は知って居ました。お会いした事は無いけれど、情報だけは手に入れていた相手ですもの。

 聖王国で最も力を持つクヴァイル家の次期当主であり、祖父は戦場で”魔王”と呼ばれ恐れられた上に現在は国の実質的なトップである宰相ゼース・クヴァイル。

 妹は国を興した聖女と同じ光を扱えるリアス・クヴァイルであり、この時点でお近付きになるだけの利用価値があったけれど、他国の商人が近寄っても相手にされないのは分かっていました。

 

 ですが、こうして助けて頂いた事で近寄る口実は手に入れる事が出来ましたわ。

 前代未聞の時を操る力を持って生まれたロノス・クヴァイル、このチャンスを逃す手は有りませんわよね。

 

 間違い無くこれは運命の出会いであり、私が上を目指す為の最大のチャンスに決まっています。

 

 

「危ない所を助けて頂き誠に有り難う御座います。どれだけ感謝しても仕切れませんわ。その金の髪に飼い慣らしたグリフォン……ロノス・クヴァイル様ですわね? お初にお目に掛かります。私は”ネーシャ・ヴァティ”。帝国にて商売をさせて頂いていますヴァティ商会の長女ですわ」

 

 助けて貰ったならば馬車から出てお礼を言うのは当然で、それが上級貴族相手ならば当然の事ですし、馬車から降りた私はスカートの端を摘まんで丁寧にお辞儀、当然ですが愛想笑いも忘れませんわ。

 

 本来なら妹が出される筈だった商会で身に付けた営業スマイルは我ながら完璧、馬鹿な男なら顔を赤らめる程ですが、ロノス様には通じていないらしい。

 

 あら、残念ですわね。

 

「ヴァティ商会……皇室御用達の所だっけ?」

 

「ええ! 良くご存じで。”聖騎士”と名高いロノス様に名を知って頂けていただなんて光栄ですわ」

 

「そ、そう……」

 

 ……あら、ちょっと反応が悪いですし、聖騎士の異名はお好みでは無かった様子。今後の参考にしておきましょう。

 

「それで大丈夫かい? 馬車は……大丈夫だね」

 

「ロノス様のお陰ですわ。でも、此処から先に進むのは不安ですわね。……どういたしましょうか」

 

 これ以上のおべっかは逆効果だと判断した私は次の手に出る。

 オーガに襲われたばかりで大きな怪我をしている者は居ませんが、襲われていた見知らぬ他人を助けるお人好しならば”後は自分達だけで進んで”なんて言えませんよね。

 

「えっと、この道を進んでるって事は”ノックス”に行くのかな?」

 

「ええ、その通りですわよ。もしかしてロノス様も?」

 

 此方も護衛をして欲しいだなんて言えませんが、向こうから提案して来るならば話は別で、私は不安そうな令嬢を演じます。

 不安そうにしている(美)少女、それも帝国随一の商会の令嬢とも有れば向こうだって繋がりが欲しい筈。少なくても損は有りませんわ。

 

 ロノス様の問い掛けに首を傾げて質問で返し、向こうが望む答えを口にするのを待てば……。

 

「まあ、このまま見捨てるのは僕としても嫌だし、時間に余裕があるから先行してあげるよ」

 

 ……期待通り。

 

 

 

 

「それと気を使って演技をする必要は無いよ」

 

 あら、見抜かれていましたのね。評価をあげておきましょう。

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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