ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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自覚無しにも程がある

 信者にとっては信仰を捧げるべき由緒有る場所であり、それ以外にとっては観光客を呼び込む為にも必要であった教会が修復され、ミノスは少しばかり平時よりも賑やかになっていた。

 

 気分が上がり財布の紐が弛む隙を逃してなるものかと酒場は割引を行い、普段はこの時期には開かれない夜店まで軒を連ねて客を呼び込む。

 この景気を盛り上げるべくお祭りの日でもないのに教会の修繕を祝し、ロノスへの感謝を込めるといった口実で打ち上げられた花火が夜空で開いて道行く人が足を止める中、余所者なのか普段は街では見掛けない少女の姿があった。

 

「にゅふふふふ~。暫く眠っている間に随分と発展したものじゃなぁ。もぐもぐ……美味い」

 

 既に日が沈んで夜だというのにリンゴを模した日傘を差し、空いた手には串焼き肉を持って上機嫌な様子で人の間を軽やかな動きで歩き回っている。

 朱色のゴスロリファッションを着た彼女の年の頃は十歳程度、少しお調子者な印象を与えるが、成長すれば嘸や美人になるであろう整った顔立ちにすれ違った者の幾人かが振り返るも空の上で開いた巨大な花火に視線を奪われ、その間に少女は人混みの中に消えて行く。

 

 少し変わった事に蛇の形をしたリボンをツインテールにした髪に巻いており、その髪の色は月明かりを思わせる金色であった……。

 

 

 

 

「では私は今後の金相場の調整や街の運営に関しての話し合いがありますので残りますが、若様はあまり遅くならない様にお願い致しますね? 寝坊で遅刻などあるまじき失態ですから」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 食事も終わり、後はポチに乗って帰るだけなんだけれど、此処に来て少し問題が起きた。ポチ、晩御飯食べたら眠くなっちゃったらしくって、このままじゃ飛んで帰れないし、少し眠ったら大丈夫そうだからミノスに少し残る事にしたんだ。

 

 ……遅くなり過ぎると明日の学校が大変だよねぇ。でも、こうして普段は来ない街を観て回れる機会は滅多にないし、パンドラに頼んで視察という名目で散策を許された。

 

「若様、それでは確認させて頂きます。1・食べ歩きはしない。2・居酒屋や食堂で食事はしない。但し喫茶店等でのお茶は許可する。3・……エ、エッチな本等は買わない。他数点を守って下さいね」

 

 まあ、こんな感じで次期当主に相応しくない行動に対して制限が掛かっちゃったんだけどさ。

 まっ、パンドラの言いつけだから仕方無いさ。

 

「どうせなら君と見て回りたかったんだけどさ。ほら、二人だけで出掛けたのって一度も無かったからね」

 

「……では、今後のお仕事では視察に同行致しますので、楽しみにしています」

 

「僕と一緒に出掛けるのが楽しみなんだ。嬉しいなあ」

 

「だから……そういう所ですよ」

 

 ……あ、今不覚にもドキッとさせられた。不意打ちであんな笑顔を見せるんだからパンドラは卑怯だよ……。

 

「おや、どうかなされましたか?」

 

「パンドラに見惚れちゃってね。凄く素敵に見えたからさ。じゃあ、出掛けて来るよ」

 

 僕の事を見透かした表情の彼女から顔を背け、多分真っ赤になってるだろう顔を見られない様に歩き出せばレナに渡された荷物が目に入った。

 ポチの背中に括り付けて運んできたけれど、結局開けなかったよね。何か必要な物でも入ってたのかな?

 

「ちょっと開けてみるか……」

 

 これでパンドラの着替えが入ってて下着とか入ってたら……。

 そんな事を考えていたら頭に浮かんだのはパンドラの下着姿で、あの時は演技で余裕綽々の様子を見せていたけれど、実は羞恥心でギリギリだった事を気が付いていて、それを思い出したら留め具に伸びた手が止まる。

 

 あの時も昨日も言っていたけれど、僕は色仕掛けへの耐性が低くって、だから訓練をするって言ってたよね?

 えっと、訓練って事は……だよねぇ。

 

 頭に浮かぶのは邪な考えで、多分相手をするのはパンドラ自身か、忠義心から身を捧げようとするであろう夜鶴。

 ちょっと秘蔵の本の登場人物を二人に置き換えて妄想してしまい、慌てて顔を左右に振った。

 

 忘れろ! ”お背中を流します”とか言いながらサラシと褌だけの夜鶴がお風呂場に入って来たり、ボンデージ姿で女豹のポーズを取るパンドラの姿の妄想とか忘れろ!

 

 ……あー、不味い。早く夜風に当たって冷まさないと。

 でも、その前に何が入っているのか見てみよう……。

 

 留め具を外して鞄を開き……僕は思わず固まった。

 

 

「……あれぇ?」

 

「ふん。顔が真っ赤だが酒でも飲み過ぎたか? それならば情けない事だな」

 

 だって、鞄を開ければ内部はお人形の家みたいになっていて、優雅な仕草でワインを飲んでいるレキアが居たから当然さ。

 幾らレキアが小さくても鞄の中じゃ窮屈だし、結構揺らしたのに鞄の中の部屋に一切影響が出ていない風に見えるけど、妖精の魔法かな?

 

 持ち運べるプライベートルームとか秘密基地みたいで羨ましい……じゃない!

 

「何で居るのさ?」

 

「……妾は妖精の姫であり、母からは最も信頼厚き長女だ」

 

 その妖精の姫が僕に黙って同行してやって来たのは敵対関係が続いたゴブリンの多く住む街で、だから僕が抱いた疑問は尤もな筈だ。

 いや、待てよ? ああ、成る程ね……。

 

「レキアは凄いね。ちゃんと前に向かって進もうとしててさ。植え付けられた偏見を捨てる為にゴブリンの暮らしをちゃんと見ようだなんて」

 

 幼い頃から下等なモンスターだと教わって、女王が少し強引に代替わりしてからは和平に向かって歩き出した妖精とゴブリンだけれど、レキアの中には未だに残っているんだ、偏見がさ。

 

 同時にそれをどうにかしたいとも思っている。

 

「百聞は一見にしかず、という奴さ。頭で分かるだけでは不足。ちゃんと自らの目で見て耳で聞いて知らねばならぬ。……しかし、分かると思っていたが直ぐに理解するとは誉めてやろう。流石はロノスだ。まあ、それと……照れ臭くて貴様には言い出せず、レナに命じて勝手に同行した事を詫びよう」

 

「……レキアが僕に謝った!?」

 

「茶化すな、貴様。まあ、良いさ。迷惑は掛けんから暫し付き合え。妾も視察に同行させて貰うぞ」

 

 少し不機嫌そうにした後で軽く笑ったレキアは僕の肩に乗り、姿を消した。肩には確かに乗って居るんだけれど、鏡にも映っていない。

 

「妖精の妾が姿を見せれば反感を覚える者も出よう。貴様に迷惑を掛けるのも不本意だ。後で礼はするから同行させよ」

 

「君が相手ならこの程度で謝礼は要求しないんだけれど、君の気が済まないならそれで良いさ。じゃあ、視察に付き合って貰おうか。……何だかデートみたいだね」

 

「いや、だからそういう所ですよ、若様」

 

「貴様、本当に自覚が無いのか?」

 

「お言葉ですが、無自覚に乙女心を刺激するのは如何かと……」

 

 ……あれぇ? 何故か三人揃って呆れている?

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

 まあ、気にしていても仕方が無いし、詳しい事は帰り道にレキアから教えて貰う事にしてラキアとの散歩に行こうっと。

 

「夜鶴、陰からの護衛と不審者の見張りをお願い。君への贈り物も出店で探してあげるし、何か惹かれる物が有れば教えてよ」

 

「……あの、今回はレキア様のエスコートにお徹し下さい。私への贈り物は……次の機会に主が選んで下さった物を頂戴したく願います」

 

「そう、分かったよ。じゃあ、パンドラにも何か贈りたいし、二人とも何かの機会に二人きりで出掛け……レキア、どうして耳を引っ張るのさ」

 

「五月蝿い。早く行け」

 

 あーもう、勝手なんだからさ。

 急に不機嫌になったレキアに溜め息を吐きつつも僕は外に出て、夜鶴も夜闇に紛れて僕の後ろからついて来る。

 

 外に出れば出店が沢山あって街は活気に満ちている。

 あ、花火が凄いや。

 

「平和だなぁ。今日はもう変な事も起きずにゆっくりしたいよ……」

 

 




アリア  マンガの設定画より


【挿絵表示】


活動報告かツイッター モミアゲ三世 で漫画公開中

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

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  • レキア
  • 夜鶴
  • ネーシャ
  • ハティ
  • レナ
  • パンドラ
  • サマエル
  • シロノ
  • アリア

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