ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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怒りの矛先

 妖刀である夜鶴の能力は自らを振るう肉体と、その分体の創造が主だ。

 分体とは記憶の同期が必要な他、五感の共有だって可能、プライバシーなんて在ったもんじゃないけれど、基本的に自分だって認識だから気にはならないらしい。

 

 戦闘に関しては本体の肉体が最も強く、分体は個性が見受けられない量産品……最近では個性が芽生えているんだけどね。

 しかも創り出したのを一旦回収しても再び出せば消す前の続きになっていて、本人も自分の仕様に驚いていたっけ。

 普段は寡黙でクールなだけに可愛かったな。……本人に言ったら驚いて蒸せたけど。

 

 そんな夜鶴だけれども本体の肉体を出すには全体の内の半分以上のリソースを必要としていて、分体を出し過ぎれば本体が出せない。

 要するに他の誰かが振るう必要が生じるって訳だ。それは分体だったり……主である僕だったりね。

 

 

 夜鶴は刀身だけで三メートル程、大昔の記録では三メートル越えの太刀の記録があったと何処かで知った覚えはあるけれど、これはそれ以上の長さ、通常だったら長さと重さから来る取り扱い辛さに振り回され、折角の切れ味も無駄に終わる程に本来は扱える筈のない能力のオマケみたいな存在だ。

 

「はっ!」

 

 だけど、僕の師匠は化け物みたいな強さの乳母だ。恐らく現世界最強はレナス、同率であの人だ。

 彼女が鍛える以上は普通の範疇で居る事なんて許されず、マトモに扱えないなら扱えるまで鍛え上げられた。

 何より、あの人に鍛えて貰いながら通常は扱えない程度の武器を扱えなくてどうする!

 

 振り下ろした刃は黄金の大蛇の一部を大きく切り飛ばし、散らばりそうになったそれをポチの操る風が吹き飛ばし、融解するほどの高熱の金に寄ってもネーシャの魔法による冷気が熱を和らげて接近戦を可能にする。

 

 巨大が激しくうねって僕を叩き潰そうとするけれど、空中を自由に駆ける僕には当たらず、大きい隙を晒すだけだ。

 ポチが吹き飛ばせる量にも限度があるから見極めながら斬り続け、大蛇は確実に体積を減らし続ける。

 

 

 いい加減やられ続ける事に怒りが限界なのか今度はポチとネーシャを狙うけれども雑な動きじゃポチには当たらない。乗り慣れていないネーシャがしんぱいだけれども、このまま一気に押し切れそうだ。

 

「ロノス様! 下ですわ!」

 

 ネーシャの声に反応し、咄嗟に飛び退けば足元にはサマエルが突っ込んで崩れた建物で、その瓦礫が真上に向かって吹き飛ばされる。

 おいおい、あの程度で死ぬんだったら封印じゃなくて討伐されていると思ったけれど、多少ダメージを受けて服も汚れてはいるとは言っても大きなダメージを受けた様子のないサマエルが姿を現し此方を見ている。

 

「助かったよ、ネーシャ」

 

「いえいえ、この程度はお気になさらずに。……それにしても半信半疑でしたが、あの様子じゃ本物らしいですわね」

 

「うん、最悪な事にね」

 

 嫌そうな顔をサマエルに向けるネーシャだけれど、多分封印が解けたばかりで万全の状態じゃないって知ったらどんな反応を示すだろう?

 

「……私様相手に此処までのダメージを与えるとは評価に値するのじゃ。褒美に地獄を見せてやろうぞ」

 

「キュイ?」

 

 うん、確かに殆ど自爆だって思うけれど気が抜けるから指摘したら駄目だよ、ポチ。

 今も大物って感じで振る舞っているけれど、実際は連れて来たモンスターの攻撃に割り込んで吹っ飛ばされて、飛んだ先で弾かれただけだし誉められても嬉しくない。

 

「ああ、先に言っておくが見逃す気は無いのじゃ。神獣将の一員として神に仇なせる者も、それを止められる力を持ちながら私様達に味方せぬ者も、それ以外の人の子も一切合切完殺するのが役目であるからな」

 

 サマエルに先程までの間抜けなギャグ担当の気の抜ける空気は見られず、正しく人を殲滅する為に生み出された神の下僕という感じだ。

 

 これは一切油断出来ないし、見逃す気が無いのは僕も同じだ。

 敵が本調子じゃないのなら本調子を取り戻す前に始末するのが鉄則で、確かに強い相手との戦いはワクワクしても他に優先事項が在るのなら話は別だ。

 

「僕も君を此処で倒したいな。僕と、僕の大切な人達の平穏の為にもさ」

 

 黄金の大蛇が口を大きく開いて僕に迫るも僕は其方を見ず、無造作に刀を振るう。但し、魔法によって限界まで振りの速度を高めてだ。

 剣閃煌めき、大蛇は上下に両断されて地に落ちる。直ぐにくっついて動き出すんだろうけれど、今はこれで十分。

 再生には少し時間が必要で、その再生する過程も目にしたし、これで十分だ。

 

 

 

 そう、僕の役目としてはね……。

 

「囮、ご苦労。此奴の相手は妾に任せよ」

 

 僕に注目していたサマエルの背後から声が響き、咄嗟に背後を向いた彼女の足下が爆発した。

 

「なっ!?」

 

「阿呆が。不意打ちで不用意に声を掛けるか」

 

 これが背後なら対処出来たかも知れないし、声が無ければ足下に反応したことだろう

 

 そう、さっきから僕はサマエルが大きなダメージを受けていないのは分かっていた。だから派手に動いて意識を向けていたんだ。

 

「ぐぬぬ! 妖精が何故邪魔をするのじゃ!」

 

「そうだな。……貴様の仲間にコケにされた腹立ち紛れ、とでも言っておこうか」

 

 腕を組んで真顔で告げるレキアだけれど、サマエルにもかなり怒っているのが伝わったらしく、ついでに誰の事なのか馬鹿な彼女でも速攻で思い当たったらしい。

 

 味方にまでその認識って、

どれだけ性格が悪いのさ。

 

「シアバーンの奴じゃな! あの性悪女が余計な遊びでも入れたに決まっておる! ええい! 今度会ったらお仕置き、じゃっ!?」

 

 シアバーンが余計な事をしたからレキアの怒りが自分に向けられたと思ったのか憤るサマエルの足元が再び爆発、今度は咄嗟に飛び退いて躱したけれど風圧でスカートが捲れている。

 僕の居る場所からじゃ角度の問題で見えないし、元々十歳程度の見た目の子のスカートの中身なんてリアスのスカートの中身と同じ位に僕は無関心だ。

 

 まあ、他の連中に見られそうならリアスのは無関心では居られないんだけれど。

 

「貴様に”今度”が有れば存分に言うが良かろう。ああ、あの世で存分に言うのでも構わん」

 

「のじゃ!? にょほっ!? ちょ、ちょっと待つのじゃっ!?」

 

 話しながらもサマエルの四方八方で爆発を起こさせるレキア。

 うん、本当にシアバーンに接触を受けて騙されてたっぽいのが屈辱だったみたいだ。

 

 でも、ちょっと心配だ。

 

 

「レキア! 後で手助けに行くから無理はしないで! 君が怪我でもすれば僕は悲しい!」

 

「……ふん。まあ、気を付けるさ。ああ、傷が残れば貴様に責任を取って貰おうか?」

 

「分かった!」

 

「……ほへ?」

 

「慰謝料はちゃんと払うし、お祖父様の許可を得てあの魔法を一旦解除させて貰うから安心して!」

 

「死ねっ!」

 

 ……あれぇ? 何故か罵倒されたぞ。

 

「っと、今は集中集中。ネーシャ。君は大丈夫かい?」

 

「ええ、ロノス様のお陰ですわ。すっかりお世話になってしまいましたし……私をお礼に差し上げるべきかしら?」

 

「あははは。ちょっと貰い過ぎかな? こうやって一緒に戦うのは楽しいし、悪い話ではないけどさ」

 

「お釣りは不要でしてよ? ……それにしても本気にさせたいのかしら?」

 

「ロノス! 貴様は本当に死んでおけ!」

 

 冗談返しに照れるネーシャと再び僕を罵倒するレキア。戦闘中に気楽だけれど、黄金の大蛇は既に三割は削ったし……目星は付いた!

 

「このまま一気に攻めて、サマエルもぶっ倒そう! ポチ! もっと活躍したら大好物の羊をあげちゃうよ!」

 

「キュイ!!」

 

 僕の言葉にポチは喜び勇み、真上からの強風で大蛇の動きを阻害しつつ、僕が通る場所だけは風が止む。

 このまま一気に決めようとした時、大蛇の胴体が急激に萎み、頭に体積の殆どが移動する。

 

「此奴、街に向かって全部放つ気だっ!」

 

 流石にこの量はポチでも防ぎきれないし、僕だって漏らす可能性が有る。

 ちょっと不味い事になったぞ!

 

 黄金の大蛇が見据えるのは町の中心部。今は住民の避難が済んで居るけれど、彼処に融解した金を吐かれたら一気に火の手が上がっちゃう。

 

「……こうなったら」

 

 ネーシャが居るけれど”明烏”の能力を……。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、若様。此処は私にお任せを」

 

 少し焦ったその瞬間、クヴァイル家の未来を担う才女が不敵で素敵な笑みを浮かべて現れた。

 

「さて、クヴァイル家の敵は文字通りに地の底まで落として差し上げましょうか」

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

  • ポチ
  • レキア
  • 夜鶴
  • ネーシャ
  • ハティ
  • レナ
  • パンドラ
  • サマエル
  • シロノ
  • アリア

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