ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
神の徒
”聖地”と呼ばれ、例え高位の神官であっても立ち入る事を禁じられた場所が在る。
日が沈み、夜の帳が降りて日の光が消え去って尚、その場所だけは常に昼間の如く照らされ、外側から見れば空を支える光の柱に見える事だろう。
”アトラス諸島”、人々を救う為に神が舞い降りる地とされ、あらゆる国が周囲一帯を永久不可侵にすべしと条約で定められている。
その諸島の中央に存在する島の内部は広大な面積を誇る神殿になっていると伝説に残ってはいるものの、近付く事は許されない地故に確かめる術もなく、人々は各国が条約で定められた範囲ギリギリの地に建造した神殿から光の柱に向かって祈るのが慣わしだ。
……故に悪党が隠れ家を作るケースも存在し、それを察しても被害の出る海域を治める国の軍は討伐隊を差し向けるにも条約が邪魔をし、逃げ込まれる前に討伐しようにも後手後手に周りがちだ。
だが、そんな彼等でも諸島の中央に向かって其処を根城にしようとはしない。
正確には出来やしないのだ。海辺に住処を作って群れで生活する”シードラゴン”を筆頭に、一定の場所から急激に凶暴さと強さが上がる。
それを命辛々抜けてでも古代の宝を夢見る冒険心と愚かさ溢れる者も居たのだろうが、一人も帰って来ていない。
……記録に依れば一切戦闘痕の見られず、今その瞬間まで普通に過ごしていたかの様な痕跡だけ残して船だけが諸島の外に流れ出たとされている。
神の怒りに触れた、それがその伝説を知る者達の意見であり、そして神殿は本当に実在する。
それも長い年月を一切感じさせず、純白の石造りの神殿は今完成したかの姿を保ち続けていたのだ。
立ち入る所か近寄っただけで聖人君子さえも己の心の汚さを恥じ、神殿を直視するのを躊躇う程に美しく神聖な空気に満ち溢れる場所。
その場所に似付かわしくない悪意に満ちた声が響いている等、誰が思い浮かべるだろうか……。
「アヒャヒャヒャヒャ! 見て下さいよ、この金銀財宝を! ”神聖な地故に近付けない”、それを律儀に守るのは真っ当な方々だけで、狡賢い上に自分達が外道だと自覚している方々には神罰など今更なのでしょうねぇ!」
神殿の地下深く、最も神聖であり汚す事が許されぬ筈の場所。光の神リュキの像が奉られた祭壇に無造作に置かれた金銀財宝、無論真っ当な物ではなく、悪逆非道な賊が無辜の民から略奪した物。
本来ならば汚い欲望の為か、更なる悪逆に使われる筈だったそれを前にして、私欲で略奪を繰り返す下劣外道の輩以上に悪意に満ちた嘲笑が響いていた。
古代の時代、リュキが人を滅ぼすべく創造した神獣を束ねる三体の将の一人にして、思い直したリュキによって切り離した己の悪心共々封印された存在。シアバーンが長い手を折り曲げて腹を抱えながらの大笑い。最後には床をゴロゴロと転げ回って品のない笑い声を上げる。
「……こーんな金銀財宝を集めた所で何になるのじゃ? 私様達が滅ぼすべき人に対価を払うとでも言うのではなかろうな?」
そんな彼に変人に向ける瞳を向けるのも神獣将が一人サマエル。
相変わらず室内にも関わらずリンゴの日傘を差し、価値は高いはずの財宝を石ころでも蹴飛ばす時みたいに無造作な動きで蹴り飛ばし、最後の言葉には少々トゲが感じられる。
目の前の仲間が行っている事へ賛同も理解も不可能だと言いたいのが瞳を見れば明らかだが、それを悟っている筈のシアバーンは一向に止める気が無いらしい。
「アヒャヒャヒャヒャ! その海賊達には強制的に戦って貰っていますよぉ? 我等が主の支配なされる地を悪行の報いを受けるのを避ける為の拠点にするとは不届き千万! 私としては悲しくて悔しくて腹立たしく、それ以上に神獣将であるにも関わらず役目を果たせぬ自分が情けなくって、なぁのぉでぇ……戦い合って贄になって貰ったのですよぉ」
「嘘じゃ」
演技過剰な態度からの故意だと丸分かりな大根役者な泣き真似、余程のお人好しでもない限りは信じはせず、サマエルは馬鹿だがお人好しではない。
仲間であっても……いや、仲間であるが故にシアバーンを信用せずに理解して彼の本心を見抜いていた。
ツカツカとシアバーンに歩み寄り、その腹を分厚いブーツの底で踏んづける。小柄な彼女の体重は軽いのだろうがシアバーンの下の床にヒビが広がっている事から相当の力が込められているらしい。
シアバーンからもミシミシと骨の軋む音がした。
「ぐぇっ! つ、潰れますのでご勘弁をぉ!」
だが、そんな状況であっても、例えそのまま日傘の先端を首に存在する口の中に突っ込まれても、シアバーンはふざけた態度を崩す事なく、寧ろ伸ばした手を振るわせて更に大袈裟に動いていた。
「大体、生け贄にするにしても我等が主に捧げるのならばそれなりの品格と資格が必要じゃろうて。……具体的なのは全く思い付かぬがな!」
平らな胸を張って言い放つが、威張って言う事でもない。
「いやいや、其処は”汚れ無き処女”とか”敬虔な聖職者”とか”無垢なる子供”とか有るでしょう? 貴女は相変わらずですねぇ。アヒャヒャヒャヒャ!」
「お主もな。封印する数年前から遊びの要素を入れていたが、少々目に余るのじゃ。今後は私様を見習うのじゃぞ!」
「任務内容を途中で忘れて昼寝してたり、重要な”黄金のリンゴ”を味見と言いつつ全部食べた馬鹿が言いますかねぇ。……私を殺すには武器など不要、貴女に馬鹿と言われたらショックと屈辱で憤死してしまいそうです」
「ふん……し? のぉ、シアバーンよ。”ふんし”って何じゃ? 美味いのか?」
「美味くはないですねぇ。他人がするのは蜜の味ですが」
全く理解出来ていないって態度で首を傾げるサマエルに今度はシアバーンは呆れつつも日傘を手で退かし、勢い良く飛び上がって空中で三回転の後に机の上に降り立った。
そのまま皿に載せた三つのリンゴの一つを手に取り一口で頬張ると、残った二つの内の片方を無造作にサマエルに向かって投げると一つを残したまま皿を丁寧に机に置くとソファーに座って長い手足を折り曲げる。
「このリンゴは中々蜜が豊富じゃな。……”奴”が私様達の前から姿を消したのも封印の少し前じゃったか?」
「ええ、確か”貴方達と組むのは精神と胃袋の限界です”って置き手紙を残し、主とのみ遣り取りをしていましたよねぇ。アヒャヒャヒャヒャ! あの頃の彼の顔と言ったら最っ高!」
小さな口でリンゴを少しずつ齧るサマエルは味がお気に召したのか笑みを浮かべ、今この場に居ない仲間らしい者の事を思い出しながら僅かに首を傾げ、シアバーンは腹を抱えての大爆笑。
「所で別に嫌いな物が出る食事に誘う頻度が多かったり、重い食事ばかり勧めたりはしとらんじゃろ?」
「ええ、私も遊びに付き合って貰いはしましたが、”精神と胃袋の限界”って何があったのか一切検討も付きませんねぇ」
「じゃろ? 私様も奴には世話になっていたんじゃがなぁ。さては貴様が何かやらかしたのじゃろ?」
「いや、貴女が余計な仕事を増やしたからでしょう」
互いに相手に責任を押し付けた後、居なくなった仲間の事をもう一度思い浮かべる。任されていた仕事や性格についてだ。
「主に私達の補助でしたよね? 最初の頃は兎も角、途中から単独での仕事は極端に少なくなった筈。……承認欲求から不満が溜まって居たのでしょうかねぇ?」
「まあ、真面目故に現状に不満が有ったとか」
「「まあ、こっちには関係無いでしょう(じゃろう)」
結果、二人揃って自分達は無関係との結論だ。……居なくなった”彼”とやらの苦労はどれ程の物だったのだろうか。
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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