ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい   作:ケツアゴ

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捕食者と獲物

 無数のペンギン(ドラゴンだけれど)が寝そべった姿で滑って向かって来る。僕みたいな鳥派でなくても可愛さに胸が締め付けられる事だろう。

 

 その突撃がこっちの命を狙っての物でなければ、の話だけれど。

 

「ポチ! 防御!」

 

 空から滑空、嘴を突き刺そうと勢いを増し続けるチャイルドドラゴンの突進だけれど、相手は超小型であってもドラゴンはドラゴン。その尽力は侮れないし、氷の上を滑る訳じゃないから自由に軌道を変えられる。

 数は多く、回避は面倒なら防御するのが一番だ。

 

「キュキューイ!」

 

 鳴き声と共に広げられた大きな翼。舞起こる風は渦を巻き、球状になってポチと僕を包み込み、其処に軌道を変えて四方八方からチャイルドドラゴンが殺到した。

 

「ピー!」

 

 次々に風に突撃を阻まれ弾き返されるけれど、体勢を崩しても必死に翼をバタバタと動かして、再び上空へと昇って行く。

 いや、ポチが凄く可愛いし、満足だってしているよ?

 きっと叶えば相手をする時間が分散されて寂しい想いをさせちゃうだろうし、何代にも渡って人と過ごさないと無理だって分かっているけれど……ドラゴンをちょっと飼ってみたいって思ってしまった。

 

「……キュイ?」

 

 ポチ、何かを疑う眼差し。

 

「な、なんでもないよ?」

 

「キュ~イ?」

 

 あ、これは信じてないな。嫉妬して疑うなんて凄く可愛い!

 僕がポチの可愛さを再確認する間もチャイルドドラゴン達は突撃しては弾き飛ばされるのを繰り返すけれど、それでも諦める様子は見せない。

 きっと長い間獲物を満足に仕留めておらず、雛の為に頑張る親なんだろうね。

 

 風の防壁にぶつかる度に衝突音が鳴り響き、それは回数を重ねる毎に更に勢いを増して行く。

 衝突の度にダメージを受けているのか嘴がボロボロの個体だって居るし、中には気絶したのか弾き返されたまま墜落するのまで。

 これが本当に凶暴な見た目のドラゴンだったら此処まで心は痛まなかったし、僕やリアスだって前世の記憶が戻る前にこのドラゴンを実際に目にして価値観を固めていたら感じ方も違ったんだろうけれど、絵で見ていただけの今の人生と違い、前世ではテレビや写真、水族館でペンギンを目にし、可愛い物だって認識してしまっている。

 

 この齟齬が前世の僕が混じった弊害で、前世では受け入れられない事を今の僕が受け入れている事を唐突に疑問視してしまう事が起きる理由だ。

 要するに今を今と何処かで見れて居ないんだよな。

 

「ピー!」

 

 ペンギンの羽毛は絡み合って頑丈になる構造になっている。空気を含みモコモコに見えるチャイルドドラゴン達も実際は強固になっているらしく、その証拠が大きくなる衝突音。何十回と続く衝突によって風の防壁も徐々に押し込まれ始めた。

 

 逃がす訳には行かないけれど、心の何処かで手を出すのを躊躇っている僕が居る

 馬鹿か? 目の前にいるのはペンギンじゃなくて肉食のドラゴン、それも本来の住処を追われ、普通なら襲わない相手さえ襲う程に気が立っている群れだ。

 

 街に居ればモンスターが出て来ないのはゲームだけだって、ロノスとしての十六年の人生で知っているじゃないか。

 

「ポチ、大きく弾き飛ばして」

 

 再びチャイルドドラゴン達が殺到した時、風の障壁が弾け飛んで今までよりも大きく跳ね返す。これで墜落するのが数匹で、残りが再び殺到する中、僕は刀の柄に手を掛ける。

 

「……じゃあね」

 

 ああ、もう少しちゃんとしなくちゃ。だって僕は貴族、大勢の領民の人生を背負う身なんだから。

 

 カチャッ、そんな風に鍔が鳴り……蒼天に雷鳴が広く轟いた。

 

 

「さて、後で巣を捜索するように指示しないとね」

 

「キューイ?」

 

「……ドラゴンの死体は食べちゃ駄目。最近間食が多いから少し太ったでしょ?」

 

 僕だけじゃなくコックやメイド達まで甘やかすんだからなぁ……。

 

 風を操作してこんがり焼けたチャイルドドラゴンの死骸を浮かたポチは僕の方をジッと見て来る。

 どうしても食べたいって気持ちが伝わって来て、ちょっとだけなら良いんじゃないかって思う自分を制する。

 

「キュイ……」

 

「駄目な物は駄目。大体、ドラゴンの肉は脂がたっぷりなんだから。今日だって厨房の窓からオヤツをねだってクッキーを沢山貰ったって知ってるんだからね」

 

 レナスと再会した時、ポチを随分と甘やかしているって怒られたんだから、これからは少しは厳しくする予定だ。

 甘やかすだけじゃ愛じゃないもの。

 

「キュイキュイ!」

 

「”食べた分動いたら良いだけ”だって?」

 

「キュイィィ……」

 

「……一匹だけだからね。それと晩御飯は少し減らすから!」

 

「キューイ! キューイ!」

 

 僕が許可するなりポチは一番大きなのに齧り付き、骨ごとバリバリと食べ始める。

 まあ、この位だったら良いか。……ちゃんと運動させればね。

 

 残りの死体は時間を操作して急速に腐らせて行く。

 死体を食べるのは勝者の特権って訳じゃないけれど、このまま地面に落ちてグチャグチャになったのを更に食い荒らされるのはちょっとね。

 

 この後で巣を探して駆除する予定を立てた僕が何を自己満足な行動をって思うんだけどさ。

 

「ポチの脳天気さが救いだよ。君を見ていたら癒されるからさ」

 

 そっと首筋を撫でながら呟く。お祖父様が待つ屋敷が遠くに小さく見えて来た。

 

 

 

 

「キュ?」

 

「あ、確かにリアスの方が脳天気だね。これは一本取られた」

 

 ポチは凄く賢くて可愛い良い子だよね!

 

 

 

 

 

「へ~っぶし! ……風邪でも引いたかしら?」

 

「いえ、姫様は馬……頑丈なので簡単には風邪を引かないでしょう」

 

 姫様の思い付きでお供した山への道中、私しか周囲に居ないとはいえ思いっきりクシャミをする彼女にハンカチを差し出す。

 急な話で驚きましたが、メイド長に怒られそうな時だったので助かったかも知れません。

 戻ったら再開される可能性からは全力で逃避しましょう。

 

「今、”馬鹿”って言わなかった?」

 

「言っていませんよ? ……相変わらず勘は良いですね」

 

「まあ、レナがそう言うなら別に良いわ。さっさと行きましょうか。……にしても、この花って凄く咲いてるわね」

 

 街から山へと向かう道中、山に近付く程に例の花が増えているのを見付け、姫様は一輪摘んで匂いをかいでいますが異変は見られませんね。

 私とどうも相性が悪いパンドラが妙に大胆となって若様に迫っていたのもこの花が理由だろうとレキア様が出掛けに教えて下さったのに不用意に顔を近付けるなんて、姫様は昔から相変わらず……。

 

「……あれは惜しかった。後少し進めば若様と彼女は関係を持ち、私も今晩辺りに……」

 

 非常に面倒な話ですが、パンドラは将来クヴァイル家の政務を担うという地位を使い、私よりも先に自分に手を出すという約束を取り付けている。

 だったらさっさと誘惑でもすれば良いのに面倒な程に純情で、何時になるやら。

 

 このまま焦らすのなら薬でも盛って密室に監禁しようかしら? その後で私が若様を存分に抱かせて貰うけれども。

 想像するだけでゾクゾクして来る。”鬼”の本能として強い男を求めますが、若様の潜在能力も現在の能力も非常に惹かれ、更には長い付き合いで気心も知れていますし、力以外の面もそれなりに好み。

 

 これ、食べちゃいたいと思わない方が変でしょう?

 

「レナー! さっさと行くわよ!」

 

「はいはい、お待ち下さい、姫様」

 

 急かして来る姫様に置いて行かれない様に歩を進める。

 

 姫様も若様も私にとっては乳母兄弟であり大切な存在。でも、二人に向ける感情はそれぞれ別の物。

 

 姫様に関しては世話の焼ける妹を相手するみたいな感じ。疲れもしますが、その疲れも楽しいと思う。

 

 若様に関しては……時々押し倒して犯したい獲物ですね。

 

 

 

 

 

 

アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません

  • ポチ
  • レキア
  • 夜鶴
  • ネーシャ
  • ハティ
  • レナ
  • パンドラ
  • サマエル
  • シロノ
  • アリア

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