ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
「遂にこの時がやって来た。いや、来てしまった……」
チャイルドドラゴンの襲撃を担当者に伝え、そのまま山に向かって任務をこなして後は直帰ってのが理想だったんだけれども、人生そんなに甘くないって事で僕は山に一番近い街の代官の屋敷の執務室の前に立っていた。
と言っても別に代官の執務室って訳じゃなく、出向いた際に仕事をする為に予め用意させた客用の執務室だ。
誰が用意させたかって? この中で僕を待つ……いや、別に待ってはいないか。形式上は会っておくべきだから顔を見せに来たけれど、本人からすれば時間の無駄でしかないからね。
僕の祖父であるゼース・クヴァイルとはそんな男だ。何せ十歳の時までに会話らしい会話をした回数が記憶の中では十回に満たない程だったんだから。
家族の情とかを家族相手に利用するけれど自分はその辺が皆無で、重要なのは祖国の為だって人だもの。
貴族としては、宰相としては正しいんだけれども、僕はそんなお祖父様が苦手であり、凄く怖い。……例え相手の命を半分ほど握っている状態だとしても、向こうからすれば自分が居ない場合の僕に対するデメリットを分かっているし、精々の所としてリアスに関しての事を譲歩に見せかけた飴として条件を飲む位だ。
「一番警戒しないと駄目なのが身内って。……ゲームでは幼い頃に刺客まで差し向ける人だからなぁ。多分今でも必要なら差し向ける筈」
そんな状況にならない為に何をすべきか考えながらノックをして入室許可を待てば世界で一番苦手な声が扉を挟んで聞こえて来た。
「入れ」
「し、失礼します……」
軽く深呼吸をしてからの入室をすれば一番先に目に入ったのは書類が積まれた執務机。結構な大きさにも関わらず、プレッシャーからか座って腕を動かし続け、一切僕に視線を向けない強面の老人に比べれば小さく見えた。
威圧感で相手が大きく見えるとか前世では有り得なかっただろうなあ……。
生え際の後退を見せない白髪や深く刻まれたシワは確かに老人である事の証明だけれど、一切衰えを見せない伸びた腰に逞しい肉体。眼光鋭い三白眼と漲る生命力は未だに戦士としても現役だと見る者に伝える。
これが”魔王”だなんて呼ばれた人だってのは納得でしかない。
「お久し……」
「来たか。では早速山に向かえ」
ほら、相変わらず愛想の欠片も無く、お祖父様は書類から目を離さず声にも抑揚の見られない事務的な遣り取り。
本当だったら怖いってだけじゃなくて嫌いになるんだろうけれど、離れた此処から覗き見た書類の内容は新設される孤児院について。
孤児を集めるだけでなく、貧困家庭の子供と共に教育を受けさせて将来に備えさせるって内容だ。
「お祖父様、お体の方に異変は有りませんか?」
「何かあれば直ぐに連絡を寄越す。そもそもお前の魔法に何か起きれば分かるだろう。時間の無駄だ。早く行け」
お祖父様の行動理念は祖国の発展であり、それは国民の幸せに繋がる。”最大多数に最大の幸福を与え、漏れた者にも次善の幸福を”、そんな風に行動しているお祖父様を僕は尊敬しているんだ。
祖父じゃなくて宰相として見れば良いのだろうね。
だから僕はこの人とは色々な意味で敵対したくないし、例え自分の力が制限されたとしても力になりたいって思っている。
……可愛い妹のリアスに変な手出しさえしなければ、だけれども。
「じゃあ、今から行きますけれど……くれぐれもリアスの扱いは慎重に。汚れるのは僕の仕事で、あの子は汚れずに笑って居てくれればそれで良い」
「ならば励む事だな。私の死期が早まったとしてもリュボス聖王国への利が多いと見なせば躊躇はしない。全ては貴様次第だ。……ああ、それとついでに言っておくが”明烏”の力は人前では使わず、悟られる事を防ぐ為に多用も禁じるのを忘れるな」
……これは見抜かれてるな。
内心ヒヤヒヤしながらも素知らぬ振りで部屋を後にする。扉を閉める際に背中に視線は一切感じずペンを動かす音が聞こえたから既に僕に意識を一切向けていないのだろう。
「祖父として見ない方が良いのは確かだけれど、向こうも孫としてでなくって国の為の道具として見ているよね。それが正しいのだろうけれど……」
基本的に前世での八年間で身に付いた価値観の多くは貴族として生きる十六年間によって殆ど塗り潰されてはいる。
でも一部の価値観は残っているし、家や国の為に貴族が自分や家族さえも犠牲にするべきだってのには染まり切れない。
リアス、前世から続く兄妹関係によって強い絆で結ばれた僕の宝物。
「何に変えてもあの子だけは守り抜く。どれだけ傷付いても、どんなに汚れても、あの子には笑っていて欲しいから」
この想いだけは絶対に変わらない。生まれ変わっても妹でいてくれたあの子の為なら僕は何だって出来るんだ。
扉を挟んでお祖父様に意識を向ける。尊敬に値する立派な人だけれど、リアスを害するのなら、その時は……。
拳を握り締め、軽く頷いて決意を新たにする。
「さあ、行こうか。早く終わらせてリアスと一緒に遊びたいからね」
頭に浮かぶのは無邪気に笑うリアスの顔。それだけで僕はどんな事にも耐えられる気がするんだ。
「……今度こそ守り抜く。……今度? あれ? 前世の事かな?」
無意識に口から出た言葉。自分の言葉なのにそれが何を意味するのか何故か分からなかった。
この前も似た事があったし、本当に僕はどうしたんだろうか……?
「しかし宰相閣下は凄いな。あの歳で現役なのに別に地位にしがみついてる訳でなく、後進の育成にも熱心と聞くぞ」
「未だ”魔王”のネームバリューが必要とされているが、後継者達に経験を積ませたら引退するとは口にしているよな。まあ、あの方の跡を継ぐのは大変だから暫く先だろうけど」
曲がり角の先から聞こえて来た会話に思わず立ち止まって聞き耳を立てる。
殆ど接点が無くって他人同然な関係だけれど身内が誉められるのは嬉しい。
比べられるとちょっと劣等感を覚えるけれど、比べる事自体が烏滸がましい事なんだよな。
さて、祖父が誉められている所に孫がノコノコ出ていくのはちょっと気恥ずかしいし、どうも僕の存在を察してのおべっかって訳でもなさそうだから少しだけ聞き続けようかな?
……お祖父様に知られたら時間の無駄遣いを叱られそうだけれど、立ち話をしている彼等も同罪って事で。
「でも、戦士としても現役級だって聞いたけれど、確か一時期体を壊して寝込んだって噂がなかったか? 暫く側近ばっかし表に出てたし」
「いや、直ぐに出て来たし、凄く元気だろ。病気とか嘘だって。あの宰相閣下だぞ? 何年も前から老けたり衰えたりしてないから不老不死の噂だって存在するだろ」
「流石に不老不死は無いだろ、不老不死は」
……まあ、確かに不老不死ではないんだ、不老不死ではね。
別に死なない訳じゃないんだよ。
噂話をしていた二人が向こうに行く気配がしたので角を曲がり、そのまま入り口から屋敷の外に出れば寝転がって僕を待っていたポチがムクって起き上がると頭を擦り寄せて来た。
「キュイ~」
「あははは。くすぐったいよ、ポチ。遊んで欲しいの? ちょっと今はお仕事だからさ」
拳ぐらいの大きさの石ころを咥えて差し出し、”これを投げて”っておねだりして来るポチの希望は叶えてあげたいけれど、今回ばかりは駄目だ。
その代わりに首筋の羽毛を指先で小刻みに掻いてやり、そのままポチの背中に飛び乗れば、ポチは大きな翼を広げて空高く舞い上がった。
「キューイ!」
「はいはい、終わったら屋敷で遊んであげるからね。あっ、一応麓から入ろう」
何せ今から目指すのはリュボス聖王国、アース王国、エワーダ共和国の三国の国境線で三つに分けられた”アイエー山”だ。
物流において結構重宝する場所だし、さっさと住み着いたモンスターを倒して解決しないと。
「キュイ!」
早く終わらせて遊びたいのかポチは全速力で飛び、瞬く間に目的地へと向かって行った。
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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ポチ
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レキア
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夜鶴
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ネーシャ
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ハティ
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レナ
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パンドラ
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サマエル
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シロノ
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アリア