ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
”戦場で最も避けるべきなのは何か”とと問われれば僕はこう答えるだろう。”敵の前で頭と体の動きが停止する事だ”と。
ミスが有れば挽回すれば良い。裏切りが有れば敵と見なせば良い。だが、致命的な隙を晒すのは有ってはならない。
「くっ!」
背後に何物かと気配を感じ取った瞬間、僕の体は咄嗟に右に動いていた。動く寸前まで僕の胸があった場所を何かが通り過ぎて袖を掠める。いや、僅かにだが掠ってしまったのか血が流れている。
何者かは分からないが、これで敵なのは決定だな。
地面を転がって背後の敵との距離を開け、ハンマーに繋がる鎖を掴んで振り抜く。遠心力を乗せた速度も威力もそこそこの一撃、避けられたとしても空中に居る相手ならば翼でも持っていなければ追撃の魔法は避けられない筈。
「ちっ!」
結果、相手は避けなかったが、腕に伝わって来たのは強い弾力に弾き返された感触。打撃とは随分と相性の良い相手らしいと内心で舌を打ちながら敵を視認する。
今回の任務は何処からか移り住んで来たモンスターの討伐だったが、偵察部隊は何をしていたんだ?
「全滅したとは聞いていないし仕事が雑なのか、此奴が後から来たのか。……これなら既知の強い相手の方が良かったかも知れないな」
「キュクルルルルルルル?」
目の前で不愉快な鳴き声を上げるのは全くの未知の相手。似た造形のモンスターの知識は僕には無く、突然変異の類とも思えない。
丸く膨らんだ巨大でルビーみたいな真っ赤な瞳に、水滴型の頭と胴体が繋がっていて首は無い。クリーム色の体は細長く、四本の脚の先端は一切何かを掴めないのが一目瞭然な程に鋭利で、まるで馬上槍だ。尻尾も先端以外は胴体との境が分からない太さで、僕の腕に傷を付けたのは口の先からチラチラ見えている青白く細長い舌だろう。
此方を見て頭を九十度捻る姿には生理的嫌悪すら覚えさせられた。
謎のモンスターの瞳には黒目が無く、何処を見ているのか分からない。つまりは視線を読むのが難しいという事だ。
そのまま僕の方に口の先を向けた此奴は右足を前に踏み出し、僕に向かって飛び掛かって来た。一秒にも満たない時間で自分の身長の数倍の長さの距離を詰めたと思うと鋭い足先を僕の顔に向かって突き出す。
この近距離で見た事で分かったのだが、此奴に爪は存在せずまるで彫刻か何かの様だ。
アラクネを仕留めたのと同じであろう一撃に対し僕が取った選択肢は前進。僅かに顔を横に逸らし、触れるか触れないかの距離を通り抜ける中、僕は袖口に仕込んであったナイフを取り出して振り抜いた。
「クキュルッ!?」
弾力が強く刃先が食い込む時に抵抗が強く、肉を完全には断ち切れないが中心にまで刃は達している。
「……抜けないか」
擦れ違い様に抜こうとするも肉に食い込んでナイフが抜けず、今度は尻尾の先端が前方から迫って来たのを前転で回避、前髪を幾らか持って行かれたが傷は無い。
その代償として僕の手の中のナイフには柄から先が存在していなかった。根本から先は全て目の前の奴の前足に突き刺さった状態で残っており、片方の脚で何とか引く抜こうとしている所だ。
「傷口が広がるだけだが、その程度の知能も無いのか? まあ、刺さったままでも傷は広がるが」
カツカツと音を立てながらナイフの刃を取り出そうとする謎のモンスターだが、その刃が急に熱を持った事で異変に気が付いたのだろう。肉を抉ってでも取り出そうと先端を肉に突き出すが、刃は取り出されるより前に爆発を起こした。
肉に焼ける匂いが漂い、続いて吹き飛んだ脚の先端が宙を舞って地面に落ちる音が耳に届く。ナイフを刺した方の脚は先端部分が完全に欠損し、肉を抉っていた方もボロボロだ。
痛みが強いのか高い声で鳴いているが、僕も冷静さを少し失いそうだ。何せ足の先が欠損したにも関わらず血が一滴も流れ出ていなかったのだから。
「ゴーレムか? いや、違うか。どちらにしろ此処で仕留めるだけだが」
先程使った爆弾仕込みのナイフは残り一本、普通の切れ味が良い物も一本。メイン武器が効果薄めなのは面倒だが倒せない相手ではないな。
「キュクルル!!」
大きく傷付いているにも関わらず謎のモンスターは前脚を力任せに地面に叩き付けながら激しく跳ねる。
そして一番大きく跳ね上がり、僕の身長の数倍の高さまで跳ねた瞬間、舌が高速で伸びて来た。
飛び掛かった時の速度なんて比べものにならず、直撃を避けるだけで精一杯。無事な脚と尻尾を突き刺した木に体を固定して次々に舌を突き出す謎のモンスター。
咄嗟に防ごうと構えたナイフさえ貫通する。……強いな。
「キュクル!」
頬や腕、脚にまで傷を負って行く僕を見て嗤った様に鳴いた時、僕は目の前の相手に初めて知性を感じた。
「助けを呼ぶべきか? ……いや、これは僕の戦いだ。助けに入ったら友達であろうと怒る」
ハンマーに繋がった鎖を腕に巻き付け、木に掴まったままの敵へと跳躍、伸びて来た舌に向かって左手を突き出した。
「ぐっ! 舐め……るなぁ……!!」
手の甲を貫いて頬を深く切り裂く不気味な色の舌。それは傷を広げる為なのか左右に動きながら縮み、僕はそれが手の甲より抜ける前に掴み取った。
「捕まえたぞ。……そしてこれは避けられないだろう? ”アイスバインド”」
無事な手から飛んだ水色の魔力は木に直撃して脚諸共凍り付かせ、どれだけ引き抜こうと暴れても抜けはしない。
僕はそのまま跳躍の勢いで迫るが、唯一動かせる頭を僕に向ければ大きく口が開いた。
人間でいう所の上下の唇の辺りが垂直になる程に開いた口内には牙は無く、それどころか彫刻でも両断したかの様に中まで表面と同じ色でみっちりと詰まり、舌の根は唯一開いた喉の奥の穴深くに繋がっているらしい。
此奴、本当に生物なのか? ゴーレムの類の疑惑が深まる中、口の中の上下に黒い魔法陣が出現する。
「……させない」
何か切り札でも使う様子だが、敵の前で不用意に口を開くのは悪手だと知らないらしい。
既に爆弾仕込みのナイフは投擲済みだ。痛みを持って教訓にしろ。
「尤も次に生かす事は有り得ないのだがな」
魔法が放たれるよりも前にナイフは喉の奥に届き、爆発を起こす。腕よりも頑丈なのか頭が吹き飛びはしなかったがダメージは大きい。放っていても死ぬだろう。あくまでも普通の生物だったらの話だし、それでも必死に暴れる余力が有るらしいが……。
「僕への警戒が疎かだ」
そのままハンマーを投擲するも効かないと分かっているのか反応は薄い。今の状態でも無駄だと思っているのだろう。ああ、そうだ。打撃は効果が薄いんだろう。……でも、狙いは別だ。
「キュッ!?」
ハンマーはモンスターへの攻撃ではなく、拘束の為に投げた物。鎖が頭と木に絡み、これでお前は何も出来ない。
「さらばだ」
そのまま僕は切れ味重視のナイフをモンスターの頭に深々と突き刺し、そのまま首に向かって切り裂いてから引き抜く。
断末魔すら上げずモンスターは絶命……その場でチリになって消え去った。
「矢張り普通の生物では無かったか。……ならばロノスの魔法で少し戻して調べられるか?」
だが、そんな余裕は今の僕には無い。着地と同時に茂みを睨めば倒したばかりのモンスターの同種が三体、未だ居る可能性すら有る。
この連中が本当に生き物なのか、生き物でないのならば誰が何の目的で放ったのか、考える事は多いが、考えるべき時は今ではない。
「さっさと掛かって来い。片っ端から倒してやろう」
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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