ラスボス転生 逆境から始まる乙女ゲームの最強兄妹になったので家族の為に運命を変えたい 作:ケツアゴ
「こ、こうなったら少し本気で行くっすよ!」
コートに付着した土埃を払ったラドゥーンは私を指さして叫ぶなり高く飛び上がったわ。進行方向上に存在する枝は当たるなりへし折れて地面に落ちて行き、そろそろ西の山に沈みそうな太陽をバックにして私に向かって落ちて来る。
両手を組み合わせて頭上に上げた状態で私を睨み、落下の勢いを込めて振り下ろした。
「ていっ!」
「ひゃわっ!?」
その真横から繰り出されたのはレナによるドロップキック。腕を振り下ろして顔の横を通り過ぎた瞬間に放たれた蹴りを咄嗟に腕で防げる筈もなく、私に攻撃を当てる事だけに集中していたから認識外だったレナにも事前まで気が付けて居なかったわ。
てか、不意打ちなのにわざと掛け声を出したわね。私から視線を外して声のした方向を見た瞬間が蹴りが命中した瞬間だったもの。
急に顔面に蹴りを食らったラドゥーンは真下から斜め下に落下方向を急に変えて地面に落下、咄嗟に組んだ状態のままの腕を地面に叩き付けて受け身を取ろうとしたけれど、今度は地面から無数の黒い腕が伸びて鋭い爪で引っ掻いた。
「んなっ!?」
「……今ので肌の表面を僅かに傷付けただけですか。出の早い初級魔法ではそれ程の威力は出ないのですね」
プルートの呟きの通りに鋭い爪で引っ掻いたのにラドゥーンの体には僅かに血が滲んだ程度の軽い傷が有るだけ。レナの蹴りだって顔に足跡が残っているけれど鼻が折れてさえいない。
「随分と頑丈ですね。それに本当に異様な重さ。スタイルは姫様と同じで貧相ですのに……」
「誰のスタイルが貧相だって? アンタの給料袋を暫く貧相な中身にしてあげましょうか?」
「それは困りますね。そうなれば若様に迫って愛人契約を結び、別途手当を頂戴しなければ」
「アンタ達ふざけてるんっすかぁああああっ! 自分を馬鹿にしてるっすねぇええええええっ!」
口元に人差し指を当てて満更でも無さそうに呟くレナの言葉が気に入らなかったのか立ち上がって叫ぶラドゥーンの声は耳を塞ぎたくなる位の大きさで、まるで上位ドラゴンの咆哮ね。……普通のドラゴンは見た目通りに鳥の鳴き声なのに上位ドラゴンは鳴き声が本当にドラゴンっぽいのは喉の構造の違いなのかしら?
「特に其処! こんな時に愛人がどうとかやる気有るんっすか!」
ラドゥーンの怒りが向かったのはレナ。まあ、スタイルが貧相だとか言われちゃったし、発言だって味方である私にもフォロー出来ない。
でもね……。
「いえ、私は本気で言っています。一年十二ヶ月どんな時も色事について考えるのが私らしい生き方ですので」
レナってこんな感じなのよ。
「でも、貴女を馬鹿にしているのは正解ですよ? 何ですか、その全く成長していないお子様体型は? 切り株の仮装かと思いました」
「「殺す」」
あっ、敵と言葉が重なっちゃったわ。でも、アンタが悪いのよ、レナ。さっきラドゥーンと私のスタイルが同じって言ったじゃないの。その言葉、私にも刺さるからね? あー、何か敵なのに親近感覚えちゃうわ。
ちょっと仲良くなれるかもって思えた私は改めて彼女に視線を向けるんだけれど、その時に気が付いちゃったわ。教えた方が良いわよね?
でも、戦いの最中だし……。
「大体! この戦いは自分と其処の貧乳との一騎打ちじゃないっすか! それを横から攻撃とか恥を知れっす!」
前言撤回。此奴とは絶対に仲良くなれないわ。貧乳が貧乳を貧乳って呼ぶんじゃないわよ。大体、私の方がスタイルが良い方じゃない? 多分微妙に勝ってるわ。
実際に比べる必要? 必要性を感じないわ。
「おや、部下をけしかけて、倒された瞬間に不意打ちをしておいて何を言いますか。胸だけでなく頭の中も姫様と同じとは失笑物です。……ぷっ」
レナは両腕で自分の胸を押さえる事で存在をアピールしながらラドゥーンの胸を見て鼻で笑う。……敵じゃないわよね? レナって本当に私の味方よね?
好きだけれど! 家族同然だけれど! 本当に言葉を慎まないと……。
「メイド長に告げ口するわよ?」
「申し訳御座いません、偉大なるセクシー姫様」
「白々しいから言わなくて結構。……てか、ラドゥーン。アンタ、何を言ってるの? 私は貴族令嬢だし、これでも聖女の子孫で再来としての教育を受けて来たわ。まあ、鍛えるのも戦いも好きなのはらしくないって言われるけれど……」
「ええ、色々おかしいですね」
「黙りなさい、レナ。大体、レナスの教育の影響でしょ? ……まあ、何が言いたいか説明するなら……個人的な敵は兎も角、人間滅ぼそうって連中相手にするのにタイマンに拘るのは毎回じゃないって話だわ」
「あっ、其処は偶には良いんっすね? ……言われてみればタイマンだって言ってもないし、複数居るなら複数で来るのが当然っすね。今の言葉は勝手な意見の押し付けだと認めて謝罪するっす。言い訳じゃないけれど、性悪と大馬鹿へのストレスと長い封印で頭が鈍っていたっすね」
さっきまでのお間抜けな空気が消えたわね。これが本来の彼女。仲間について言えない程度には馬鹿だけれど、生真面目な性格なのね。
……ゲームでは殆ど出番が無かったから忘れていたわ。元から三人の出番は少なくってお兄ちゃんなんか存在すら朧気だってのに、此奴は他の二人に比べて出番が少なかったのよね。
確か戦いも一回だけで、主人公の前に現れるのも片手の指で数えられる回数の地味キャラ。服装が奇抜でも忘れられやすい登場人物ではモブと大差なかったわ。
「それじゃあ行くっすよー!」
ラドゥーンについて私は殆ど情報を持っていない。そりゃ出会う敵全部の情報を入手済みだなんて都合の良い展開は攻略本(安いのじゃなくて値が張る分厚い奴)を準備したゲーム位だけれど、それでも未知の敵なんて出来れば相手をしたくない。
でも、しない訳にはいかない状況ってのは頻繁に遭遇するし、だからレナスからは相手を観察する術を学んだわ。
先ず今の所だけれど、ラドゥーンの格闘技術はそれ程高くないわ。
腕をグルグル振り回しながら体の軸が上下左右にブレッブレの雑な足運び。最初から武術の技術を与えられなかったのか喧嘩慣れしていない子供の戦い方ね。
……それで強いんだから本当に面倒よ。
腰が入っている筈もない拳を真正面から迎え撃つ。ラドゥーンと違って私のは腕だけでなく、全身の力を込めた拳。何度も何度も同じ型を繰り返して体に馴染ませ、実戦で使い続ける事で無意識にでも放てる。
拳と拳がぶつかり合い、押し勝ったのは私。腕を真上に弾かれたラドゥーンは体勢を更に崩して、私は顎狙いの右フックを繰り出した。
人間じゃなくても人間の姿をしてるなら弱点は同じでしょ? 無理に跳んで避けようとした足を踏んでその場に縫い付け、右フックを叩き込んで追撃の左アッパー。
続いて足元を払い、倒れ掛けた所に体重を乗せた肘鉄叩き込んだ所で私の体は真上に吹き飛ばされる。腹部に結構な痛みがあって、ラドゥーンは崩れた体勢で片足を上げているし、あの体勢から強引に放った蹴りを食らったって所ね。
「これでお終いっす」
大きく開けた口が私に向けられ、喉の奥の方で発生した光が強さを増して行く。させじと左右からレナが蹴りを仕掛け、プルートが闇の刃を放ったんだけれど私の方を向いたまま飛び起きたラドゥーンの両腕に阻まれた。
動きは雑で素人丸出し。なのに強いって言えるだけの身体能力。見た目を遙かに超える体重だって厄介だし、タフさだって尋常じゃない。
「……そうね。この戦いもさっさと終わらせて夕食にしたいわ」
でっ、それがどうしたのって話よ。神獣を率いる将軍? 人間を滅ぼす為に神様が生み出した?
ああ、そうね。確かに強いんでしょうけれど……私には劣るわ。だって私とお兄ちゃんって最強だもの。
「食らえっす!」
「”ホーリートルネード”!」
特大のドラゴンブレスと渦を巻いて直進する光が正面からぶつかり、一瞬だけ拮抗。即座にブレスが四散してラドゥーンの体を飲み込んだ光の竜巻は地面を深く削って漸く消え去った。
「……逃げられたわね。それと流石に持たなかったか」
大きく抉れた地面には血飛沫と水着の残骸だけでラドゥーンの姿は無い。あの魔法って私も視界も覆うし無理に抜け出したみたい。
当然無傷じゃないし、さっき言おうか迷ったんだけれど私達との攻防で水着の紐が切れかけていたし、最後にトドメになったのね。
「あれ? 彼奴って今は裸コート? ……うわぁ」
コートの残骸も結構残っているし、凄い格好になってるラドゥーンを想像して同情した所でお腹が鳴った。……もう帰りましょう。
「どっと疲れたし、帰ったらご飯食べて風呂入ってさっさと寝ましょう。……レナ、今回の事の報告書は任せるわ」
「いえ、この場合は一番地位が上の姫様のお仕事ですよ?」
ぐぬぬ! レナの分際で正論を。それ言われたら押し付けるとか無理に決まってるじゃない。
「……やるわよ。やれば良いんでしょ」
あ~、面倒臭い! 力任せに暴れるのは好きだけれど、書類仕事とか大嫌い!
アリアの影が薄い気が こっちの方がヒロインっぽいってキャラに投票してみて 尚、ゴリラは妹なので入りません
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ポチ
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