向けられたカメラ、ストロボの眩しい光が瞬き、スタジアムに響く歓声。
「チャンピオン!今年も防衛記録更新おめでとうございます!」
インタビュアーがマイクを向け、飽きるほど聴いた言葉を言っている。
「え、ええ、はい。ありがとうございます」
何もかもが他人事にしか思えなかった。言われなければ、持たされた優勝トロフィーにすら気が付かなかったかもしれない。
「若きジムチャレンジャーに向けて何か一言を!」
「……まだ年増になったつもりはないんだけどなぁ……」
思わず、口が滑る。
「す、すみません、マイクが声を拾えませんでしたもう一度お願い出来ますか?」
「早く、誰かが私の元に辿り着くのを待っています」
私は待っている、来るはずも無い相手をずっと。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ありがとうございました!スタジアムからは以上です!それでは来年の大会でお会い致しましょう!」
テレビの音で目が覚めた。
その音が二日酔いの悪夢から覚ましてくれたことを感謝しようとした……けれど画面を見て、寝ていた方がマシだったと後悔した。
暗い部屋、つけたまま寝たその画面に、数日前に去年となった年の映像が映っていた。チャンピオンと呼ばれた茶髪の少女は、物憂げな表情を浮かべている。
真っ白なマントの背中には唯一のスポンサーであるマクロコスモスのロゴ。胸に青い剣と赤い盾が描かれたユニフォームシャツ。
あまり趣味がいいとは言えない組み合わせも、チャンピオンという称号とスタジアムという条件が重なれば、絶対強者の装束へと変わる。
それを身に纏っているのが、例え中学生くらいの少女だったとしても。
「……くだらない」
"自分の姿"をこうして映像で見せられると、本当に変わっていないのがよく分かる。
テレビの光が仄かに照らす部屋の暗がりに、埃を被ったトロフィーが乱雑に転がっている。
新しい10個目の物も、早々にそのガラクタの仲間入りを果たし、磨かれることも無く置かれ続けることだろう。
トロフィーなんて見たくも無い。
私はもう、10年もこんなことをしているのだと、そしてその間、なんの進歩もなく子供のままなのだと、そう言われているようにしか思えないからだ。
この部屋には鏡はないのに、テレビの所為で見たくも無い"30年前に旅立った時と"全く変わらない自分の顔を、見る羽目になった。
自分の顔を見るたび、嫌でも思い知らされる。かつて憧れた無敗の青年が壮年になり、幼馴染の少年は今やいい歳した大人で、その子供はもう、"今年"のジムチャレンジャーだ。
"若く見えていいですね"
なんて、私からの気も知らないで世間は勝手に言う、でも私は置いて行かれた気分だ。留まり続け、成長していない私のこころが、時の止まったような私の姿を作っているのだろうか。
どうしてこうなってしまったのだろう。
一体何が間違ってしまったのだろう。
私には何が正解なのか、或いは正解だったのかまるで分からない。
ただ一つだけ確かなのは、私の時間は喪われてしまったということだけだった。