ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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10 同じドアをくぐれたら

 

「ユウリさん、貴方は一体、何を目指しているんですか?」

 

 ローズ元委員長はそんなことを聞いて来た。

 

「何ですか急に、進路相談ですか?」

 

「まあ、そうとも言えるでしょう。協力する以上、大人として問わねばならないことです」

 

「……私にはもう、バトルしか無いんです。私は勝つことでしか先に進めない。向かう先が何もない断崖絶壁だろうと……だから、また歩き出す為に、戦うんです」

 

──嘘が勝手に口を動かした。

 

──前なんかにはちっとも進んじゃいない。私が見ているのはいつだって過去でしかない。

 

──轍を辿らないと言いながら、やっていることは結局過去の再現に過ぎない。

 

 ……そんなことは分かってる、分かってるんだ。

 

「貴方には強力な……いや、かつてのポケモンは一匹も残っていない。戦う為の力すら無いのでは?」

 

「別に、手持ちがいなくなった程度、問題ないですよ。また捕まえて、鍛えれば良い」

 

「……そんなことをあっさり言い切る人は貴女くらいのものでしょうね」

 

「簡単です。ただ、捕まえて、鍛えて、勝つ、勝って、勝って、勝てば……」

 

──そうして一体、何処に行けるというのだろう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ジムチャレンジに再挑戦する前、私はパーティに相応しいポケモンを探し、アーマーガアの背に乗って飛び回っていた。

 

 歩いていれば、大人に捕まって家に返される。

 

 ローズ元委員長の勧めで訪れたヨロイ島の道場では、珍しい色のヒトカゲを譲ってもらった。私の記憶にはないけれど、どうやら事故以前にかなりの量のW……エネルギーを分けてあげたらしく、そのお礼だとか何とか。

 

 道場の写真には記憶にない笑顔の私。隣に写っている黒い熊のポケモンにも見覚えは無い。今は誰のポケモンなんだろう。

 

 道場主のマスタードさんは私のことを知っていたらしいけれど、もうすっかりボケてしまって、私が誰だか分からない様子。

 

 私にも記憶は無いからおあいこだと言ったら笑っていた。

 

 ……ダンデさんをローズ元委員長に紹介したのはマスタードさんらしい、彼もまたチャンピオンだったとか。もう、見る影も無い。

 

 今更バトルについて道場で教わることもなく、長く留まれば居場所が割れる。話も早々に私はヨロイ島を去った。

 

 必要なポケモンを捕まえるのも、すぐに実戦レベルまで鍛えることも難しくない。

 

 一つだけ問題があった。

 

 ベベノムはダイマックス出来ず、しかもムゲンダイナだった頃とは比べ物にならないほど弱くなってしまった。

 

 限界まで力を出し切っているけれど、その能力の上限が著しく低くなっている。

 

 そのままではそこら辺にいるポケモンにすら負けそうになる有様だった。

 

 連れていくなら、少しでも能力を元に近づけなければならない。

 

 その為に必要なのは、ムゲンダイナについての情報。勿論、ローズ元会長からは可能な限りの資料を吐き出させたけれど、それでもこうなってからの物は無い。

 

 心当たりはただ一つだけ。

 

 ホップの研究資料だ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 今頃私を探している大人達は、まさかブラッシータウンに戻って来てるなんて思わないだろう。

 

 研究所は案の定、喪抜けの空になっていたけれど、機械式のロックで施錠されていた。

 

 私には開けることが出来ない、鍵も暗証番号も知らない。

 

「……ロトム、私の古臭い携帯より、最新式のセキュリティの方が遊び甲斐があるでしょ?」

 

《でも、それって悪いことロト?》

 

「たまには悪戯もいいでしょ?」

 

《悪戯……!やるロト!》

 

 ロトムは私の旧式の携帯から研究所のシステムに侵入し──

 

 室内にあった扇風機に入ってフォルムチェンジすると、突撃して内側から扉を破壊した。

 

 警報が鳴り始めたが、ロトムの電撃ですぐに止まった。

 

《最新式にしては手答えがなかったロト!》

 

 この手に限る。

 

「ありがとう、じゃあ、ホップが内緒にしてる、ムゲンダイナの資料を探して来て、多分データで保管されてるから。見つけたら全部複製して私の携帯に保存して」

 

《了解ロトー》

 

 終わるまで私は本でも眺めることにした。

 

 ホップのものらしい研究資料の棚の一角に、何故か全然関係の無さそうな小説が並んでいる。

 

「何これ……スローターハウス5……?何の本だろ」

 

 その中でも、擦り切れた背表紙のものを取り出す。

 

 題名は……『夏への扉』。

 

「SFなんだ、ふーん。こんなの読むようになったんだ」

 

 読み始めようとした瞬間、また警報が鳴る。

 

《や、やばいロト!"気付かれた"ロト!誰か来るロト!まだ資料全部集め切って──》

 

 流石に携帯の中で20年も寝てたロトムじゃ限界か。

 

「もういい、戻ってロトム」

 

 近くにあった古臭いパソコンからロトムが飛び出して携帯に戻る。

 

《死ぬかと思ったロト──》

 

「ユウリ!探したぞ!」

 

 慌ただしい足音、息を切らしたホップの声。

 

「どうしたの?そんなに急いで」

 

 私は構わず、本を読み始める。

 

『ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる』

 

 何の猫ポケモンだろう。

 

「どうしたもこうしたもあるか、何をしていたんだ」

 

「本読んでた」

 

『家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ』

 

 変な猫だ。

 

『かくいう僕も、夏への扉を探していた』

 

 変な人だ。

 

「扉を壊してやることか?」

 

「悪戯だぞ」

 

『最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ』

 

 ……ああ、そういうことか。

 

「……まあ、何でもいい。いくらバトルしたいからって、まだリハビリも終わって──」

 

 本を閉じて、立ち上がった。

 

「この本、借りてくね」

 

「お、おいちょっと待て!何処にいくんだ!話はまだ終わって無い──」

 

「止めたいならポケモンバトルで私を倒せば良い」

 

「そういう話をしてるんじゃ無い!」

 

「そ、じゃあ。またね」

 

 戦ってすらくれなかった。

 

 私はアーマーガアに乗り込んですぐに逃げた。

 

 逃げて、逃げて、逃げた。

 

 私もまた、夏を探していた。

 

 気が付くと私はハロンを通り過ぎ、カンムリ雪原にいた。

 

 そこは真冬だった。

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