もう、寒いのは嫌だった。でも、戻る場所もなかった。
位置を変え、大きく真っ赤な木のある丘をキャンプ地にしたら、見たことのない鳥ポケモンが三匹も襲ってきた。
適当に倒して、キャンプの見張りにした。
ポケモンも、人も寄ってこない環境が出来た──筈だった。
少し離れた隙に、私のキャンプは破壊され、見張りの鳥ポケモン達は伸びていたのだ。
「なにが……?」
そこら辺にいたポケモンとは言え、ここらのヌシっぽい感じだったのに。
「なんや、まだ残っとったか」
妙な訛りのある声。
「……誰」
誰だろうと敵なら叩き潰す、憂さ晴らしには丁度いい。
「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるのが世の情け」
周囲に人の姿は無い。
「なんで……」
赤い木の影から誰かが現れる。
「世界の破壊を防ぐ為そして──」
「……は?」
「ヨクバリスによるガラル支配──」
それは。
「ヨクバリス王朝の樹立を告げるためや……」
人の言葉を喋るヨクバリスだった。
「王の前に立っとるんやぞ、ひれ伏さんかい」
「……」
私は無言で鳥ポケモン達に元気の塊とけいけんアメ、ドーピングアイテムを与える。
「無視すんなや、よし、もう一回解らせたるわ!」
喋るヨクバリスは自力でダイマックスする。
「ふ、ふはは、余の力を思い知──」
「……やれ、燃え上がる怒り、雷鳴蹴り、凍てつく視線、後は──」
回復して強化した鳥達が一斉に攻撃を開始する。
巨大化させたボールを投げる。現れるのは赤黒い光を纏ったアーマーガア。
「キョダイフウゲキ」
「なんやて──!?」
ヨクバリスは爆散した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「四体同時使役とは、やるやんか、嬢ちゃん、でも負けんで……勝負はこれからや……」
ダイマックスは解けたものの、未だに抗う意志を見せるヨクバリス。
「それ、一方的に負けた奴のセリフ?」
「地元じゃ負け無しや!死に晒せぇ!」
勢いよく飛びかかってくるけれど、私には止まって見える。不意打ちにもならない。
「ファイヤー、あくのはどう」
「たわばっ!」
黒々とした力の波に吹き飛ばされるヨクバリス。
「ヨクバリスが無双できる場所なんてないでしょ……」
まあ、自力でダイマックスできるって言うのを考えれば相当珍しいのは間違いないけれど。
「くっ、キョダイダイマックスさえ出来れば….…」
何言ってんだこいつ。
「ヨクバリスはキョダイマックスできないよ」
「な、なんやと……だったら一体何のためにダイキノコを食いまくったんや……」
相当ショックだったらしく項垂れる。
「何それ関係あるの?」
「そんなことも知らんのか?ダイキノコ使うてダイスープっちゅうのを作れば、誰でもキョダイマックスや!なら余の胃袋の中でも同じやろ!」
「何処で聞いた?」
「ヨロイ島に行ったときやな。妙な格好したガキ共が修行だ何だとぬかしてダイキノコを探しとってな」
「……そう。で、何でガラルを支配したいの?できると思ってんの?」
ローズ元委員長が勧めた理由はそれだったのか……ダイスープ……それと同じような物を作れば或いは……いや、ホップがそれを知らない訳が無い……だけど……願い星にそれを応用すれば……
「支配の何が悪いんや、地位、名声、力、この世の全てが欲しい!さぁ!余の力の前に──」
勢いをつけて、体当たりしようとしてくる。
鳥達は何か技を放とうと構えるけれど、私はそれを手で制した。
「それでどうなるの?」
私はゆっくりと最小限の動きでそれを避ける。
「なっ!?」
ヨクバリスはつんのめって転がった。
「ぐっ……なんもならん。とにかく欲しい、なんでも欲しい、全部欲しい」
這い蹲っているのに、未だ反抗的な目をやめない。
「何にもならないのに?大体、できるかどうかも分からない」
「意味なんて知らん。できるかどうかも知らん。やりたいことをやる。望むこと、欲することに逆らわん。これが余の生き方や──!」
殴りかかって来るヨクバリスの腕を躱し、杖で足を引っ掛けて転ばせる。
「ぐ、なんや嬢ちゃん、化け物か」
「え?喋る化け物がなんて?というか、普通に暗君じゃん」
「知ったことかい、お前らと違ってこちとら獣やからな」
「………できるかどうかは知らない。だけどやる……か」
私からすれば、この喋る珍獣の言うことは愚かにも程がある。
私が選ばない愚行。
最適解しか選んで来なかった私では、その発想は絶対に浮かばなかった。
最適解ではなくとも、正解ではなくても、それをしてはならない訳ではない……のか。
過ちを犯す権利がある。
言うなれば愚行権とでも言えるような。
今、一つ馬鹿げた考えが浮かんだ。
夏への扉は何処にもない。
なら──
「ヨクバリス、お前には二つの道がある。今ここで鳥の餌になるか、或いは私に従うか」
「答えは──どちらもノーや!」
「ははは!正解だよ!そうじゃなくちゃ──!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
…
……
………
「簡単です。ただ、捕まえて、鍛えて、勝つ、勝って、勝って、勝てば──私は最強になれる」
私はローズ元委員長に告げる。
何処にも行けなくたって構いやしない、私は先に進む必要なんて、もうない。
私は後ろに戻りたいだけだ、その願いの為にそうするだけ。叶うかどうかは知ったことじゃない。
「最強……ですか。そうですね、貴女の仮説を証明するのには、以前のダンデ君以上の絶対的な存在になって貰わないとならない。その為にはジムチャレンジ程度で立ち止まって貰っては困ります。……さて、行きますか」
「はい、よろしくお願いします」
エレベーターの階数表示が、99階を示す。
扉が私達を迎え入れるように開く。
光の先には、かつてチャンピオンだった男。
今は中年男性となったダンデさん、その人。
「ユウリ……!?それにローズ元委員長!?」
目を丸くしてこちらを見る。"商談"の場にまさか私が現れるとは思わなかったのだろう。
「タワーを買い取ったのが私だと思わなかった?」
「一体どうやって……」
「……マクロコスモス、バトルタワー、それにジムチャレンジに関わる企業で株を保有して経営権を保持していたのでしょう。簡単です、全体の3分の2を買い取りました」
ローズ元委員長が朗々と説明する。
「そんな馬鹿な、何の得があって!それに、株はそれぞれ社員達が……まさか」
「はい、私が戻ることを話し、十分な金額で譲っていただきました、それに……オリーヴさん」
ローズ元委員長の後ろで黙っていたオリーヴさんが資料を受け渡す。
「はい、現状バトルタワーに関する債権は全てこちらが回収済みです。つまり、現バトルタワーの土地並びに建造物の所有者はこちらの──ユウリ様です」
「……もう、何が何だか分からないな、何でユウリが二人を従えているのかも分からないし……」
「分からなくても大丈夫ですよ、ダンデさん。正直、細かいことは私も全然分かりません。重要なのは、経営者は変わるけれど、これからもよろしくってことです」
「……えぇ……」
「大丈夫です。私が──全て上手くいくようにしますから」
病は根本から断たねばならない、それが取り返しのつかない過去にあるのならば。
──あの小説と同じことをすれば良い。
その為なら、何だってしてやる。
それが例え、誰の夢を犠牲にすることだとしても。
全部ぶち壊したとしても。