ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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 試合で名前が売れた私のジムチャレンジはもう、誰も止めることができなくなっていた。

 

 既にファンも付き、興行の一部となってしまったからだ。

 

 こうなるまで逃げ回る必要があった。けど、もう"大人"に連れ戻される事は無い。

 

 飛び回らせていたアーマーガアや急に訓練させて疲れているポケモン達を皆休ませた。

 

 久々に私も服を買い漁ったり、散財して羽を伸ばそうかとエンジンシティを歩いていると。

 

「いたぞ!」

「お、おい!こっちだ!」

 

「ん……?」

 

 私を指差して、何やら人が集まってくる。

 

 よく分からないけれど、関わっている暇はない──

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「やっと、追い詰めたぜユウリちゃんよぉ!」

 

 走れない私には逃げきれなかった。

 

 ゴミが散らばり、得体の知れない油のような液体が滴る、薄汚れた路地裏に追い込まれる。

 

 20年でこんなに治安悪くなったのか……世紀末は半世紀も前なのに、ガラルも終わりかな。

 

 センターにポケモン達をみんな預けてきたのは失策だった、いや──

 

「ごめん暇じゃないの」

 

「そりゃないぜぇ、なあみんな!お前らも会いたかったんだもんなぁ!」

 

 私の行手を阻む黒服に奇抜な髪型の男。

 

 どう見てもカタギじゃない連中がニヤニヤと笑う。

 

「何の用?」

 

 個性的な髪型の若者が多く、ちょっとガラの悪そうなタイプや、スパイクタウンにいそうな人達ばかり。

 

 ……スパイクタウンに失礼かな。

 

「ふ、ふひ、俺たちはよぉ〜、アーマーガアを休ませる"この瞬間"をずっと待ってたんだよぉ〜!ふひひ」

 

 私の肩を掴もうとして、男の手が伸びてくる。

 

「冗談は顔だけにしてくれないかな──ロトム」

 

 今まで位置情報を隠す為に切っていた携帯に電源を入れ、ロトムを起こす。

 

《何するロト?》

 

「──10万ボルト」

 

《了解ロト!》

 

「へ──あばばばば!?」

 

 ロトムが電撃を迸らせ携帯をスタンガン代わりに、チンピラを痺れさせて昏倒させる。

 

 持ってて良かったスマートフォン。

 

「や、やりやがった……!」

 

「一体何を……!?」

 

 何か物凄いものを見るような目で私を見る連中。

 

「悪戯だぞ?」

 

 余裕の笑みを見せつける。

 

 こちらが強いと思わせることだ、面倒な野生ポケモンにはハッタリを効かせて、戦わずして勝つ。

 

 これが理性、文明の力、テクノロジーだ。

 

「それ以上近づくと、私のスマートフォンが火を吹くぞ?」

 

「そ、それ炎も出んのかよヤベェ!?」

 

 違う。

 

「ひぃ!?」

 

 黙って向けると驚いて飛びのいた。よし、効いてる。

 

「どうだ、怖いか?」

 

 スマートフォンにビビるチンピラ。多分今の時代では見たこともない凶器にしか見えないんだろう。

 

「なんつーパンクだよ──!?」

 

「やべぇよ、マジかよ!?」

 

 ヤカラ共は猿のように顔を赤くして騒ぎ始める。

 

 何をしてこようと多分大丈夫だ、最悪、一人ずつ倒して行けば──

 

「きょあおおおぉぉおぉぉ!!」

 

「え……」

 

 しかし、奇声を上げ一斉に突撃してくる。

 

 これだから野生のポケモンは──!

 

「そんなに食らいたいなら、好きなだけ痺れさせてやるっ!」

 

 どうしよう……流石に対応しきれないかも。一気に放電させるにも、近過ぎて私が感電しそうだ。

 

「あっ」

 

 片手で掴んでいた杖が滑ってしまった。足元の油の所為だった。

 

 精一杯、踏ん張っていた足から、力が抜けてへたり込む。

 

「おいおい、どうしたんだ。ユウリちゃんよぉ?お楽しみはこれからだぜぇ──」

 

 腕を掴まれる。

 

 何もかもが失ってこんなところで……?嘘でしょ、まだ始まったばかりなのに──

 

「さぁ、ユウリちゃん、観念して俺たちの望みを叶えてもらおうかぁ?」

 

「……仕方ない……」

 

 この際、身を守る為なら甘んじるしかないか。過去を改変さえすれば今なんて結局は……

 

「イェぁぁぁ!!」

 

 男達はまた奇声を発する。まあいい、後は野となれ山となれ。

 

「じゃあ、先ずはしてもらおうか──その可愛らしいお手で……」

 

 クソ下衆の望みなんて大体想像が付く、そんなの──

 

 

 

 

 

 

「サインをしてくれぇ!後は俺にも電気を浴びせて、「悪戯だぞ」って、してくれぇ!!」

 

「──え?……え、えぇ?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……何処に書いたら良いですか?」

 

「はいはい!次は俺!ユウリ様シャツを作ったんだ!コレにサインしてくれ!」

 

 解像度の悪い私の顔がデカデカと印刷されたシャツを見せてくるので、適当にサインする。

 

「え、あ、はい、これでいいですか?」

 

「ヤベェ、ヤベェよ!俺ダイマックスしてるわ!ダイマックスヤベェ!ヤベェ!」

 

 ダイマックスしたらしい。そっとしておこう。

 

「つ、次は俺だ!お、お兄様って言ってくれ!」

 

「それは嫌」

 

「ぬぉぉん!!なんつーパンクだよ!嫌がるユウリちゃんの目線も最高だぜぇぇ!!」

 

 なんだこいつら。

 

「私たちはユウリ様の試合を見て惚れたのよ!貴女の中にあるロックとパンクに!」

 

「ロッケンローッ!」

 

 よく見たら髪型と体型でわからなかっただけで、女の人も割といた。

 

 これが私のファンの姿か……?エール団よりも、もっとガラ悪そうなのは何故……?

 

「俺らはよぉ!ジムリーダーとか、エリートの推薦ばかりのリーグに飽き飽きしてたんだ!」

 

「願い星売らないでも生活できる奴らしか出来ないからね、負けたら金も無くなるし。エリートばっかりで見てて面白くなかったのよ!」

 

「そうなんだ」

 

 どうやら本当に世の中があまり良い状況じゃないらしい。私が知らなかっただけかな。

 

 私は彼らの思っているようなトレーナーじゃない。マクロコスモスに好きなだけ金品を要求できるし、その上賞金まで手に入れている。

 

 その陰にはこう言う人達がいるんだと思うと、散財して羽を伸ばそうとしていた自分に少し嫌気がしてしまう。

 

「だから俺たちの希望の星なんだぜ!ユウリちゃんの試合を見て、俺たちにも願い星が落ちてくるくらいだ!」

 

「ま、皆売っちまうんだけどな。まぁ、勉強も出来ねぇ、バトルも弱え俺たちみたいなのでも、マシな暮らしが出来るんだから、ユウリ様にゃ、感謝しかねぇ!」

 

「俺なんてこないだ初めて本物のステーキ食ったんだぜ!培養肉じゃなくてさ!あぁ、でも俺ジムチャレンジもやりたかったなぁ」

 

「そんな金ねーだろ、あとバカだし」

 

「わかってらぁ!」

 

「……そっか」

 

 買取先がリーグに参加したいトレーナーだろうが、マクロコスモスだろうが、私の目論見は上手くいっているのに、あまり嬉しく無かった。

 

「私のことがそんなに?」

 

「そりゃあ、ロックだからな」

 

「パンクっしょ」

 

「ごめん、よく分からない」

 

「あー、ほら、エリートの達のジムリーダーを挑発したり、ボコにしてるの見るとスカっとするぜ!良い子ちゃんのチャレンジャーばっかだからな!」

 

「俺たちのヒーロー、ヒロイン?わかんねーけど、クソったれな世の中に中指立ててるみたいでよ、かっこいいじゃねぇかよ!」

 

「誰にも屈しないロックな姿勢がパンクなのよ!」

 

 ロックだかパンクだか知らないけど、この人たちは自分たちの鬱憤を私が晴らしてくれるとでも思ってるんだ。

 

「だから、頑張って最後までチャンピオン倒してくれよ!」

 

 ……もう頑張ってるのに、これ以上頑張れってこと?どうやって?

 

「……私がマリィを?マリィはロックじゃないの?」

 

「今のマリィは半分ロックだな、気に食わねー」

 

「ダメね、パンクじゃないわ」

 

 勝手なことを言うもんだ。

 

「マリィのこと悪く言わないでよ」

 

 思いの外、声が低くなってしまった。

 

「ご、ごめんよ!ユウリちゃんを怒らせるつもりは無かった!」

 

「私のことを褒めるのも貶すのもいい、だけど、代わりに他の人を下げたりしないで、いい?」

 

「じょ、女王様……かしこまりました!」

 

 ……何が女王様だ、パンクとか言っておきながら、結局は誰かを偶像にして従っているだけか。

 

 勝手に崇めて、理想を押し付けないでほしい、私はただ自分がやりたいことをしたいだけ。期待なんて背負わせないでほしい。

 

「ユウリちゃん!」「ユウリ様!」「女王様!」「ロッケンローッ!」「俺たちの星!」

「大好きだ!」「愛してる!」「最高!」

 

 褒めて欲しくて私はこんなことをしてるわけじゃ……媚びる為じゃない。

 

 表面しか見てないのに、そんな、軽く。

 

「うん……ありがとう、頑張るね」

 

 嘘はいつだって上手に口を動かしてくれる。私の目的の為に。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 でも、私に向けられる好意というものは、どうしてか気持ち悪くて仕方なかった。

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