ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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16 アリアと新世界

 あの日、俺達の旅が始まったあの日のこと。

 

「鍛えあって、二人でチャンピオンを目指すぞ!」

 

「……いっしょに?」

 

 聞き返すユウリ。親子二人でハロンに引っ越してきた時と比べると、大分明るい表情をするようになっていた。

 

「だってユウリは俺のライバルだぞ!当然だろ!」

 

「……うん!分かった!」

 

 兄貴に会った時よりも、その時、何故か嬉しそうだったような気がした。

 

 その時、願い星は落ちてきた。

 

 一つが俺のもの、もう一つをユウリに渡した。

 

 願い星は強い願いを持つ者のところへ落ちてくる。

 

 俺とユウリの誓いが、本気のものだと証明されたような気がして、無邪気に喜んでいた。

 

 俺は最強のトレーナーになりたいと、三度唱えた。

 

 願いは叶うと信じて。

 

 ユウリも何か言っていたような気がする。無口なのに珍しく、何か言っていたような気が。

 

 多分、俺と同じだろう。

 

 開会式、熱気が満ちるスタジアムに立った瞬間から、戦いは始まった。

 

 だが、それは同時に試練の幕開けでもあった。

 

 "諦めなければ、いつかはたどり着く"

 

 そんなことばかり考えていたような気がする。

 

 俺は負けまくっていたからだ、トレーナーにも、ジムリーダーにも。

 

 特にユウリには一度も勝てなかった。

 

 どんなに考えてパーティーに組もうと、技を覚えさせようとも、常にユウリは俺の何歩も先を進んでいた。

 

 俺が育てる速さと、ユウリが育てる速さはまるで違った。

 

 俺は一つのパーティーを作るのに精一杯だったのに、ユウリはジム戦の度に組み直したり出来るほどだった。

 

 俺は育てたり、訓練するのに必死で他の事に手が回らないくらいなのに、会う度に違う服を着てたり、髪型が変わってたり、余裕そうに旅をしていたのが衝撃的だった。

 

 服のことは褒めたら良いのかちょっと迷ったけど、やめておく事にした、ユウリはいつだってユウリだし、似合ってるなんて、そんな当たり前のことを言って何になるか分からなかった。

 

 今思うと気が利かなかったかも知れない。髪の毛切ったのに、反応無かったなんか嫌だろう。とはいえ、その時は俺も子供。

 

 言おうとしても、多分気恥ずかしさから正直に話せなかっただろう。

 

 それはともかく、ユウリはポケモン達への指示も的確で、まるで全ての動きや未来が見えているようだった。

 

 俺だって動体視力やポケモンの知識には自信はあったけど、流石にそこまでじゃないし、そんな何手も先のことなんて見えちゃいなかった。

 

 そしてユウリは俺に一切容赦しなかった。お陰で何度折れそうになったか分からない。それでも手を抜かれるよりはマシだ。

 

 負けて悔しくて、何度も泣いたことを覚えている。そんな姿、カッコ悪くてユウリには見せられなかった。

 

 そんな女々しい姿を見せたくなかった。ライバルだから、対等でいたかった。

 

 まあ、男だったら、女の子の前でカッコつけるなんて普通の事だ。逆を言えばソニアのことは殆ど姉のようなもので、そんな意識をしてなかったから、よく相談することになった。

 

 ソニアも、兄貴や同期のトレーナー達と旅をしてた時、同じような経験をしていた先輩でもあったから。

 

 お陰で、なんとか乗り越えて、その度に俺は強くなった。

 

 ユウリは挫けた俺とだって、いつだって全力で向かい合ってくれた。

 

 俺たちが願い星に誓った願いの通りに。

 

 だから、俺は戦い続けることが出来た。

 

 何度も、勝っては負けてを繰り返して、俺は進んだ。

 

 ただ、ユウリは何があっても絶対に負けなかった。

 

 負けなかったのはバトルだけじゃない。俺の覚えているユウリはいつだって笑っていた。どんな苦しい場面でも。追い込まれても。

 

 そんなユウリに負けない為に、何とかほんの少しだけ先へ行けるように、食らいついていた。

 

 ユウリと共に歩み続ける為に。

 

 だから、俺にとって……いや、俺たちにとって、ユウリは常に目指すべき場所で、越えるべき壁で、絶対に負けないヒーローだった。

 

 二人ならなんでも出来る気がしていた。

 

 だけど、それはいつまでも続くものじゃない。どんな物語にだって終わりがあるのと同じだ。

 

 ハロンタウンから始まった二人のジムチャレンジの終わり……終わらせなければならない時が来た。

 

「ハロンタウンでのことが、頭によぎったんだ。兄貴とポケモンを貰ったユウリと共に、ここに立つとはな」

 

「……うん」

 

 ユウリは相変わらずこういう時は無口だった。

 

「あの日の約束を果たす!」

 

「……そうだね、約束したもんね」

 

「いいか!勝つのは俺だぞ!」

 

「勝って見せてよ。できるものならね!」

 

 俺達は笑った。

 

 その時間は、人生の中でも二番目に最高の時間だったと、嘘偽りなく言える。

 

 結果から言えば、俺はいつも通り負けてしまったし、負けた後は悔やみ切れないほど悔しかったし、全然笑えなかった。だが約束は果たされたのだ。

 

 その代わり、俺は目標を無くして自分すら見失った。だけど、その時もユウリは相変わらず俺と向き合ってくれた。

 

 何も出来ないまま変わらず、置き去りになっていたと思い込んでいた俺に、ずっと手を差し伸べてくれていた。

 

 そうして、伝説を追って、やっと俺達は……俺は旅立った場所へ戻ることが出来た。

 

 俺達の願い星に誓った願いは、ずっと叶え続けることが出来るものだと信じていた。

 

「違う道に進むけど、これからもライバルでいてくれよな!」

 

 俺には夢ができた。俺を助けてくれた人達やユウリのように、誰かを、そしてポケモンを助けることが出来る人間になりたかった。

 

 そんな立派な人間になれば、多分、チャンピオンの隣に立つことが許される筈だと考えて。

 

 俺はその時、漸く気がついたんだ。

 

 何故、ユウリと一緒に居たいのか。

 

 何故、弱いところを見せたく無かったのか。

 

 ライバルってだけじゃ、多分無かったんだ。

 

 俺の旅は、またそこから始まった。

 

 つまるところ、俺はユウリのことが──

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