あの日、俺達の旅が始まったあの日のこと。
「鍛えあって、二人でチャンピオンを目指すぞ!」
「……いっしょに?」
聞き返すユウリ。親子二人でハロンに引っ越してきた時と比べると、大分明るい表情をするようになっていた。
「だってユウリは俺のライバルだぞ!当然だろ!」
「……うん!分かった!」
兄貴に会った時よりも、その時、何故か嬉しそうだったような気がした。
その時、願い星は落ちてきた。
一つが俺のもの、もう一つをユウリに渡した。
願い星は強い願いを持つ者のところへ落ちてくる。
俺とユウリの誓いが、本気のものだと証明されたような気がして、無邪気に喜んでいた。
俺は最強のトレーナーになりたいと、三度唱えた。
願いは叶うと信じて。
ユウリも何か言っていたような気がする。無口なのに珍しく、何か言っていたような気が。
多分、俺と同じだろう。
開会式、熱気が満ちるスタジアムに立った瞬間から、戦いは始まった。
だが、それは同時に試練の幕開けでもあった。
"諦めなければ、いつかはたどり着く"
そんなことばかり考えていたような気がする。
俺は負けまくっていたからだ、トレーナーにも、ジムリーダーにも。
特にユウリには一度も勝てなかった。
どんなに考えてパーティーに組もうと、技を覚えさせようとも、常にユウリは俺の何歩も先を進んでいた。
俺が育てる速さと、ユウリが育てる速さはまるで違った。
俺は一つのパーティーを作るのに精一杯だったのに、ユウリはジム戦の度に組み直したり出来るほどだった。
俺は育てたり、訓練するのに必死で他の事に手が回らないくらいなのに、会う度に違う服を着てたり、髪型が変わってたり、余裕そうに旅をしていたのが衝撃的だった。
服のことは褒めたら良いのかちょっと迷ったけど、やめておく事にした、ユウリはいつだってユウリだし、似合ってるなんて、そんな当たり前のことを言って何になるか分からなかった。
今思うと気が利かなかったかも知れない。髪の毛切ったのに、反応無かったなんか嫌だろう。とはいえ、その時は俺も子供。
言おうとしても、多分気恥ずかしさから正直に話せなかっただろう。
それはともかく、ユウリはポケモン達への指示も的確で、まるで全ての動きや未来が見えているようだった。
俺だって動体視力やポケモンの知識には自信はあったけど、流石にそこまでじゃないし、そんな何手も先のことなんて見えちゃいなかった。
そしてユウリは俺に一切容赦しなかった。お陰で何度折れそうになったか分からない。それでも手を抜かれるよりはマシだ。
負けて悔しくて、何度も泣いたことを覚えている。そんな姿、カッコ悪くてユウリには見せられなかった。
そんな女々しい姿を見せたくなかった。ライバルだから、対等でいたかった。
まあ、男だったら、女の子の前でカッコつけるなんて普通の事だ。逆を言えばソニアのことは殆ど姉のようなもので、そんな意識をしてなかったから、よく相談することになった。
ソニアも、兄貴や同期のトレーナー達と旅をしてた時、同じような経験をしていた先輩でもあったから。
お陰で、なんとか乗り越えて、その度に俺は強くなった。
ユウリは挫けた俺とだって、いつだって全力で向かい合ってくれた。
俺たちが願い星に誓った願いの通りに。
だから、俺は戦い続けることが出来た。
何度も、勝っては負けてを繰り返して、俺は進んだ。
ただ、ユウリは何があっても絶対に負けなかった。
負けなかったのはバトルだけじゃない。俺の覚えているユウリはいつだって笑っていた。どんな苦しい場面でも。追い込まれても。
そんなユウリに負けない為に、何とかほんの少しだけ先へ行けるように、食らいついていた。
ユウリと共に歩み続ける為に。
だから、俺にとって……いや、俺たちにとって、ユウリは常に目指すべき場所で、越えるべき壁で、絶対に負けないヒーローだった。
二人ならなんでも出来る気がしていた。
だけど、それはいつまでも続くものじゃない。どんな物語にだって終わりがあるのと同じだ。
ハロンタウンから始まった二人のジムチャレンジの終わり……終わらせなければならない時が来た。
「ハロンタウンでのことが、頭によぎったんだ。兄貴とポケモンを貰ったユウリと共に、ここに立つとはな」
「……うん」
ユウリは相変わらずこういう時は無口だった。
「あの日の約束を果たす!」
「……そうだね、約束したもんね」
「いいか!勝つのは俺だぞ!」
「勝って見せてよ。できるものならね!」
俺達は笑った。
その時間は、人生の中でも二番目に最高の時間だったと、嘘偽りなく言える。
結果から言えば、俺はいつも通り負けてしまったし、負けた後は悔やみ切れないほど悔しかったし、全然笑えなかった。だが約束は果たされたのだ。
その代わり、俺は目標を無くして自分すら見失った。だけど、その時もユウリは相変わらず俺と向き合ってくれた。
何も出来ないまま変わらず、置き去りになっていたと思い込んでいた俺に、ずっと手を差し伸べてくれていた。
そうして、伝説を追って、やっと俺達は……俺は旅立った場所へ戻ることが出来た。
俺達の願い星に誓った願いは、ずっと叶え続けることが出来るものだと信じていた。
「違う道に進むけど、これからもライバルでいてくれよな!」
俺には夢ができた。俺を助けてくれた人達やユウリのように、誰かを、そしてポケモンを助けることが出来る人間になりたかった。
そんな立派な人間になれば、多分、チャンピオンの隣に立つことが許される筈だと考えて。
俺はその時、漸く気がついたんだ。
何故、ユウリと一緒に居たいのか。
何故、弱いところを見せたく無かったのか。
ライバルってだけじゃ、多分無かったんだ。
俺の旅は、またそこから始まった。
つまるところ、俺はユウリのことが──