ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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19 夢の飼い主

 キルクススタジアムは熱気が充満し、人々の体温と興奮が会場を暖めている。

 

「やっほー、めっちゃ久しぶりじゃん」

 

 軽かった。

 

 ふわっとしたプラチナブロンドの毛先をピンク色に染めた、薄い褐色の女性。

 

 もこもこした白いコートを肩から落としてルーズに着こなし、ダルダルなソックスを履いた足を露出して、岩タイプのユニフォームの上からでも豊満なスタイルが見て取れる女の人。

 

 私から見ても古臭い服装のような気がするし……もはや化石なんじゃ?

 

 エキシビジョンでマリィと戦ってた筈だけど……

 

「えっと」

 

「シャクヤだよ?カンムリ雪原で一緒にダイマックスポケモン倒したり…」

 

「ごめんなさい覚えてません」

 

「そう言うこともあるよねー。あるあるだわー、ありよりのありだわー」

 

 でも軽かった。

 

「気にしてないんですか?」

 

「同窓会でいる奴、仲良さげに話してきたりするじゃん。話し合わせとくかー、まあ知らんけどって人。その枠だった系っしょ?」

 

 "ドーソーカイ"がなんなのか知らないけど。

 

「ごめんねユウリちゃん?」

 

 シャクヤさんは何ともないように微笑む。

 

「えっと……はい」

 

 何か釈然としない、悪いことをしているような気になる。

 

 皆が知ってる私って、何なんだろう。

 

「じゃ初めましてだね。アタシはシャクヤ。蘇った恐竜の力、教えてあげる!──」

 

「私はユウリ!この世は適者生存!淘汰された生き物なんて、また絶滅させてあげます!──」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「行っておいで!アマルルガ!」

 

「行け、サンダー」

 

 アマルルガが飛び出すと、私達の周囲が急に底冷えするような寒さに代わり、霰が降り始める。

 

 寒空の下、堂々と立つサンダーはオレンジ色の羽を少し震わせ、バチバチと音を立てている。

 

 カンムリ雪原での訓練が効いているのか、苦では無いらしい。

 

「アマルルガだよ、ユウリちゃん」

 

「……そうですね?こちらはサンダーです」

 

 アマルルガは何かそわそわしていた。私の方やシャクヤさんの顔を見たり忙しい。

 

 無表情なサンダーがそれをジッと見ている。

 

「なんでサンダーが地面に立ってんの?」

 

「え…普通じゃ?」

 

「マジで言ってんの?つか恐竜相手に鳥とかウケる」

 

「恐竜より鳥の方が進化した生き物だって知らないんですか?──」

 

「初耳。でもポケモンがそうとは限らなくね──」

 

「雷鳴蹴り」

 

 サンダーは圧倒的な速度で残影を残し、アマルルガは吹き飛ばされて戦闘不能になった。

 

「──って、アマルルガ!?だ、大丈夫!?」

 

「やっぱり鳥の方が"先"を行ってましたね」

 

「古いのは新しいのに一蹴されるってこと?」

 

「それが世の常です」

 

「じゃあ、古い子達も強いってとこ、見せたげるよ!──頑張って!ラプラス!」

 

 芝生の上に出るラプラスはこちらを見る。そして何やら楽しそうだった。

 

「いや、それ恐竜っていうか……?」

 

「そしてキョダイマックス!」

 

 ボールに戻されたラプラスがキョダイマックスしていく。

 

 ここで……か。

 

 前のジムリーダー達は、温存して私に敗北していた。同じだろうと侮っていたかも知れない。

 

 サンダーの一撃じゃ倒せない……ダイマックスしても速さを殺すだけ。

 

「私の指示に完璧に合わせて」

 

 サンダーは返事の代わりに羽を震わせてバチバチと鳴らす。

 

「サンダー!」

 

「──ラプラス!キョダイセンリツ!」

 

 ラプラスが放つ強烈な冷気と、数えきれない氷塊の霰が降り注ぐ。

 

 思考が加速し、時間が止まる。

 

 冷たい暴力の塊が、それがどうなるか、見える。静止した世界で、私は活路を探す。

 

 辿るべき道が線として現れ、枝分かれし、広がっては砕けて消える。

 

 可能性が波のようにぶつかり合って、研ぎ澄まされた一本の線が生まれる。

 

 そして、私はサンダーの背に乗り込んだ。

 

「──いくよ」

 

 瞬間、サンダーは跳び、氷塊の雨の中へ。

 

 私の思考を生かすには、一緒に行動するのが最適だ。

 

 乗りこなせ、傷は直ぐに治る。痛くともしがみ付け、私。

 

「右、右上、左上、後ろ、上、前、右前、前、下、左前、右前、後ろ、右前、左前、左、上、右上、左上、右前、右、前──」

 

 稲光のような音を鳴らし、氷塊を蹴りながら、隙間を縫って翼ではなく、脚で空を駆ける。

 

「そんなのあり──!?」

 

「ありよりのありです!サンダー!瓦割りで壁を叩き割れぇぇ!!」

 

 駆け抜けたサンダーの蹴りが、展開されたオーロラの結界を叩き割ってラプラスを直撃する。

 

「まだ、この子は倒れないよ!弱点も食らったし、もう一度──」

 

 弱点保険か──

 

 こちらもかなり冷気を浴びている。特訓で慣らしたとは言っても限界がある。

 

 だが持ち物はこっちも一緒だ──!

 

「ここで負けるなぁぁぁ!!起死回生!」

 

 サンダーは更に、ラプラスの脳天に全力の一撃。

 

 瞬間、爆発と共にダイマックスが解ける。

 

 無事に降り立ったのは、サンダーと私だけだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 集中し過ぎた所為か、頭痛がした。鼻血も出た。でも痛みはすぐに消え、血も止まる。

 

 ホップはやっぱり正しい、治ったんだろう。

 

 でも、常に再生しててこれか。連発は止めよう。多分タダじゃ済まない。

 

 サンダーから降りて、戻る。

 

「ちょっと、無茶し過ぎだって!」

 

「新しいものはいつだって無茶なものです!」

 

「やっぱり、新しい方がいいのかな?」

 

 シャクヤさんは唐突に言い出す。

 

「化石みたいな戦術は面白くない。シャクヤさんも定石に囚われてないし、新しいです」

 

「知らなかったんだけどねぇ、ただのトレーナーだったしさぁ……でも」

 

「なんの話ですか?」

 

「弱いと過去は古くなって、一蹴されるんでしょ?大丈夫、この子達は強いから。フリーザー!」

 

 一瞬で会場の空気が凍りついたような気がした。その存在感は圧倒的だった。

 

 戦いの舞台へ、静かに舞い降りるのは冷気を纏った美麗な翼。

 

 寒気なんて次元じゃない、今までとは比べ物にならない練度なのが見て分かった。

 

 サンダーじゃなく、私を見る静かな目線。

 

 全く想定していなかった。イマイチ掴めなかっだけれど、まさか。

 

 

 ……あれが、本物のフリーザーなの?

 

「めっちゃ綺麗でしょ?まあ、今はダイマックスしてないけど、ほら」

 

「そうですね……?」

 

 私の知るフリーザーは分身して目からビーム出す奴だ。綺麗な鳥さんじゃ無い。

 

「ごめん。ユウリちゃん、忘れてくれていいよ。今から教えてあげるから──」

 

「結構です!──雷鳴蹴り!」

 

 一足で飛び込み、偽フリーザーへ飛び蹴りを食らわせるサンダー。

 

 痛烈な一撃だったはずだが、フリーザーは涼しい顔でそれを受け止めて、鷲掴みする。

 

「そう来るのは分かってた、でももう限界でしょ?──吹雪!」

 

 ゼロ距離で放たれた風雪の冷気によって、捕まった哀れな鳥は凍りつく。

 

「くっ、よくやった」

 

 フリーザーは態々私の目の前にまで来て、固まったサンダーを置いた。ボールへ戻す。

 

「丁寧に運んでくれてありがとう、でもそれ挑発だよね」

 

 凛として落ち着いた表情のフリーザーは、ジッと私の目を見た、近付かれると寒い。

 

 なんで私を見てる……?さっきからシャクヤさんのポケモン達は集中してるのこれで?

 

 何か別の事を考えてる気がするんだけど……何の作戦……?

 

「フリーザー!戻っておいで!」

 

 シャクヤさんの声に、フリーザーは直ぐに戻って行った。

 

「うん、そっか。じゃあバトルで分かってもらうしか無いね!」

 

 フリーザーは何かをシャクヤさんに伝えている。

 

 何を確かめてた……?

 

「なら、見せてあげますよ、本物のフリーザーを!」

 

 繰り出すフリーザーは当然浮いてるし、目が光ってる。本物だ。

 

「鳥っていう共通点しかなくね?ウケるんですけど、つか何?浮いてんじゃん」

 

「じゃあ、シャクヤさんは、恐竜がコンセプトじゃ無かったんですか?」

 

「恐竜が進化すると鳥なんでしょ?進化したポケモンが同じポケモンなら、鳥だって恐竜じゃね?──」

 

「確かに……!──」

 

 天才か……?この人。

 

「「原始の力!」」

 

 スタジアムの地面から岩の塊が引き摺り出されて浮かび上がり、射出され、空中で激しく衝突し合って相殺される。

 

 こちらのフリーザーは何考えてるか分からないけど、向こう側は得意げにも見える。

 

 "それにできることは私にもできるのだ"と言っているようだった。

 

 そうしているうちに、霰は止む。

 

 これで吹雪も避けられないことは無い。

 

 氷・飛行というタイプだと予想して命令した技だったけれど、同じことをしてくるってことは、それで正解か。

 

 まだ吹雪を当てやすいのに、原始の力を使う理由がない。多分こっちも同じタイプだと思ったんだろう。

 

「あいこだったね、ま、これでフリーザーが強いって分かったでしょ?」

 

「まだ分かりませんよ、それに私のは本物、シャクヤさんのは偽物ですから」

 

「新しい方と、古い方で良くね?偽物とか決める意味ある系?てか古い方が良くね──」

 

「いいえ、あるのは古い間違いと、新しい正解だけです──」

 

 

「──フリーザー!封印!」

 

「もう一回げん……え、マジか!?避けて!」

 

 目の光るフリーザーから、波のような光線が放射状に放たれて、綺麗なフリーザーは逃げ切れずにそれを全身に浴びた。

 

「これでもう、本物の技は真似出来ません、貴女のフリーザーは足掻く事しか出来ないでしょう」

 

 本来、封印なんて大した技じゃないだろうけど、私の場合は覚えさせられる技の量も種類も多いから、一方的に相手の使える技を縛れる。ポケモンにもよるし、封印覚えるポケモンは妙に少ないけど。

 

「真似?何言ってんの?ユウリが知らないだけじゃん?」

 

 私が知ってることが間違ってる……?そんなわけない。

 

「私の知ってるフリーザーはこっちです──」

 

「じゃあ、新しく記憶しなよ──」

 

 封印がどの程度作用しているのかまでは分からない、間違いなく飛行技と原始の力は無い。

 

 確実に氷で弱点を突いてくる──

 

「吹雪が来る!暴風で迎え撃て!」

 

「分かってても凍らせてあげるし!吹雪!」

 

 フリーザーが巻き起こす風と吹雪が重なり、竜巻のように渦を巻く。

 

 二匹は何度も風と吹雪を巻き起こしながら飛び、一歩も譲らない。

 

 やはりというか、こちらもかなり鍛え上げているはずなのに──

 

「そのフリーザーは強い。それは認めます」

 

「当たり前じゃん!この子達は──チャンピオンが育てたポケモンなんだから!」

 

 嬉しそうなシャクヤさん。でも何で?

 

 チャンピオン?誰だ……?氷タイプのジムリーダーがチャンピオンに?

 

 ここまで強力なポケモンを育てられる人間に心当たりは……

 

「ですが、生き物は、同じ種類の生き物に、同じ縄張りを渡そうとはしません!相手を追い出すまで戦います、それが生き物です!──」

 

「……そっか」

 

 そろそろ、決着をつける時だ。

 

「未来予知」

 

「高速移動!予知なんてそうそう当たらないよ!動き続けて──吹雪!」

 

 飛び回りながら、吹雪を再び放つ。

 

「当たりますよ、絶対に──瞑想」

 

 吹き荒ぶ壮絶な雪風を前に、私のフリーザーは静かに瞑想した。恐らく体力はもう限界に近いだろう。

 

「な、何で避けないの」

 

「これで終わりだからです──」

 

「終わらせないよ!もう一回吹雪!」

 

「──サイドチェンジ」

 

 フリーザー達の位置が入れ替わる。

 

「え……!?」

 

 シャクヤさんのフリーザーは不意を突かれ、自らが放った吹雪を背中から受け、墜落して、私の目の前に落ちる。

 

「耐えて!まだ戦える!」

 

 フリーザーは墜落の衝撃にも、何とか持ち堪えた。まるで悲しませたくないようだった。そんな表情をして私を見る。だけど。

 

「──タイム・イズ・オーバー、です」

 

 未来予知によって放たれ、凝縮された念動力によって空間が歪み、フリーザーが落ちた位置で爆ぜた。

 

 そして私の目の前で、フリーザーは倒れた。

 

「勝者!チャレンジャーユウリ!」

 

 勝敗を告げる声と歓声が響く。だけれど、私には何か違和感だけが残っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 試合が終わった後、私は違和感を解消する為に、シャクヤさんの控室へ向かった。

 

 けれど、扉を開けることは出来なかった。

 

 声が聞こえてしまったからだ。

 

「ごめん、ごめんね。うまく出来なかった……思い出してもらえなかったよ……ユウリ、覚えてないってさ。一緒に捕まえたのに……」

 

 泣いていた。

 

 とても、先程まで軽い口調で戦っていた彼女だとは思えなかった。

 

「みんな、ごめんね……あんなに大好きだったのに……ユウリに会えるの楽しみにしてたのに……」

 

 そうか……私が……忘れてるんだ、シャクヤさんのことも、彼女が使ってたポケモン達も。

 

 チャンピオンが育てたポケモン達──

 

 ──私のポケモンだった子達のことを。

 

 シャクヤさんは覚えていない私が混乱しないように、それとなく思い出させようとしてくれてたんだ……

 

 それを、私を何度も見ていた視線や表情の意味にも気づかないで、古いと言って切って捨てたんだ……私は。

 

 それは……私が置き去りにされたこと、思い出にされたことと、何も変わらない。

 

「ぁ…ぁ……」

 

 もう、合わせる顔が無かった。背を向けて、急いで逃げ出した。

 

 フリーザーが持ち堪えたのは、シャクヤさんを悲しませたくなかったんじゃない。

 

 私を悲しませたくなかったんだ。

 

 それを偽物と言って、私の元には新しいフリーザーが居て。忘れられてて。

 

 それでも私の為に全力を出してくれていたのに。あの子なりに向き合ってくれたのに。

 

 インテレオンがしてくれなかったことをしてくれたのに、そんなことも分からなかった……

 

 ポケモンのことなら何でも分かるつもりだった。でも、つもりは所詮つもりに過ぎない。

 

 私は置いて行かれただけじゃない、置いて行ったんだ。……ずっと被害者面して、誰かを傷つけてるのも、知らずに、分かってくれなんて言いながら、自分のことしか考えてなかった……

 

 自分の浅ましさに吐き気すら覚えて、私はひたすら逃げた。

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