「ねぇシャクヤ、ちょっと私のポケモン預かっててくれない?」
向かいに座ったユウリはそう言った。
「ん、いーよ。でもどしたん?」
喫茶店での、なんて事はない会話。
カンムリ雪原で出会ってから仲良くなった私達は、たまに会ったり、遊んだりしていた。
「試合が暫くないからさ。ボックスの中も可哀想だし、シャクヤ、旅行とかよく行くでしょ?だから連れてってあげて、カンムリの時に捕まえた子達だから、シャクヤも知ってるよ」
歳の近い子が、チャンピオンだと知った時は驚いたし、元ジムリーダーのオヤジといい勝負したって言うし、妙に強かったから何かと思ったら、スゲー奴だった。
でも、フツーに友達になった。
「でも何か急じゃね?別に試合が無い時なんていくらでもあったじゃん」
「なんて言うの?友情の証ってやつかな?」
「何それ」
「まだ、決めてないんだけどさ、チャンピオンだけやってるわけにもいかないし、ポケモン達も、手元で世話しきれなくなるかも知れないし、ちょっとずつ人に預けようかなって。まあ、他の友達はジムリーダーとかやってるから、急に預けても忙しいし」
「私が暇ってこと?酷くね?」
「信頼してるとも言う」
「そ、りょーかい。あの子達なら全然オッケ、恐竜もいるし」
「恐竜ってアマルルガだけじゃない?」
「ユウリ知らないの?恐竜は鳥から進化した感じなんよ」
「……だから?」
「──鳥も恐竜でいいんじゃね?」
「て、天才だったか……その発想は無かった……かー、こりゃホップも負けるわー」
「流石にそれはないわー、なしよりのなし」
「ありよりのありでしょ」
「なに?彼ピッピのディスのフリして惚気てんの?ウチのホップきゅんはダメダメでーってやつ?」
「か、彼氏じゃないっす、まだそう言うんじゃないって」
「まだ。ね、んふふ」
「何ニヤニヤしてんの?」
「携帯の中に二人の写真ちょー入ってるの知ってるんですけど」
「えっ、なんで!?」
「それ自白じゃね?」
「も、もう、そのっ、それはっ、秘密!秘密だから!チャンピオンのゴシップはダメだから!それに、ホップはそういうの全然言わないしっ!」
「と言いつつ二人で出かけてんじゃん?」
「研究!私の修行と研究を兼ねてるのっ!断じて怪しいのじゃありません!」
「ま、そーゆーことにしとくよ」
コロコロと変わる表情を見てると、ちゃんと同年代なんだと思える初々しさだった。バトルが化け物みたいに強くても、こんな話するんだなーって。
「ねぇ、その研究って今度は何すんの?」
「凄いんだよ!それはね──」
その時はやっぱり、タダの惚気話だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
オヤジにまたクソど田舎に連れてかれた旅行から、帰って来た時だった。
お土産渡すついでに、ポケモンを返そうとして、電話をかけたら何故かホップが出た。
やっぱ彼氏じゃね?とか思ってたら、全然違う言葉が出てきた。
ユウリは事故で植物状態になってた。
でも、顔は全然フツーで、ただ寝てるみたいだった。
知ったのは、もう全部終わった後。ユウリは何も言わないし、動きもしない。呼吸だけはしてる何かだった。
ワケわかんなかった。
あんだけ強くてもこうなっちゃうんだと思ってた。全然関係ないのに。
返そうとしたポケモン達も、返す先が無かった。
もうユウリには家族もいなくて、どうしたらいいのかも、さっぱり。元からお母さんしかいなかったみたいだし、そもそもいるのか知らないけど、いるとしたら、こんな時にまで出てこない父親はクソだと思った。
ホップに聞いたら、そのまま持っててとか言うし、細かいことは教えらんないとか言うし。
渡せなかったお土産も、返せなかったポケモンも、結局私の手元に残った。
私の荷物は重いままだった。
昏睡状態の人がどのくらい助かるのか調べた。
一年以上起きなかったら、殆ど助からないって書いてあった。嘘だと思いたくて、同じ本を何度も、何度も読んだ。別の本も読んだ。
でも書いてあることは変わらなかった。
しょっちゅう、ユウリの友達と一緒に会いに行った。早く起きてくれるように。
私に願い星が落ちて来た。
すぐに一年は過ぎた。
ユウリは起きなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ユウリが訓練しただけあって、ポケモン達は凄く強かった。
私の手にいつまでも遊ばせてて良いのかなって、オヤジに相談したら、じゃあ戦わせてやれば良いんじゃ無いかって、なんか微妙な顔してたけど推薦してくれて、落ちて来た願い星はダイマックスバンドになった。
今更ジムチャレンジするなんて、夢にも思わなかったけど、それがあの子達の為になるなら、そうしようと思えた。
ユウリの代わりに、この子達を戦わせてあげようと思った。
チャンピオンは別にどうでもよかった。
頑張って、勝てば、願いが届くんじゃ無いかと思った。
全然関係ないのに。
寝てるユウリに、それを話しに行った。ユウリは何も言わなかった。
何か言って欲しかった。
ユウリのポケモンはめちゃくちゃ強くて、私が大したことなくてもそれはもう、楽勝で。
オヤジの子供だからとか、なんか色々周りは言ったけれど、全然違って。
ポケモン達は私の指示がヘタクソでも、めっちゃフォローして動いてくれて。
戦うたびに、ユウリがどんだけ凄かったのか、よく分かった。
勝ったらそのことを話しに行った。
でもユウリは何も言わなかった。
なんか呆気なかった、他のチャレンジャーに申し訳なくて。
でも、戦えて楽しそうにしてるポケモン達見てると、やめるわけにも行かなくて。
いつのまにか、ファンもできて、チヤホヤされて、なんか、楽しくなっちゃって。
ユウリは戦えないのに、楽しんでる私が少し嫌で。
それじゃダメだと思って頑張ったけど、今更変わんなくて。
予選の前にユウリに会いに行った。やっぱりユウリは何も言わなかった。
どうしたらいいか教えて欲しかった。
結局、オヤジみたいに優勝したり出来なかったのに、みんなめっちゃ褒めてくるし。
全然、私の実力じゃないし。
なんかジムにはスカウトされるし。
でも、あの子達を活かすためにはジムに入った方が良かったし。何かキルクスジムに入ったらすぐにジムリーダーにされるし。
急に忙しくなって、会いに行き難くなった。
親子喧嘩だかなんだか知らないけど、ジムは岩と氷に分裂してたし。
別に一緒で良くねって、適当に言ったらマジで統合されるし。
勝手に仲直りして親子共々指導に回るし、厳し過ぎて人減るし。
ほんと、困った。私は全然強くないのに。ジムリーダーの中じゃ指示力は全然無い方だし。
だから、やっぱりメジャーから、マイナー落ちしそうになって。まあ一つで二つ分のジムだし基準が少し厳しくなって。
もっと余裕が無くなって。
休むわけにも行かなくて。だんだん会いに行けなくなって。
ユウリにもあの子達にも、ジムのみんなにも悪いし、どうにかしようとして足掻いた。
足掻いて、足掻いて、判断力も指示力も足りない私が見つけたのは、ポケモン達と仲良くなることだった。
とにかく一緒に頑張って、あの子達の気持ちが分かるように、あの子達がしたいことを理解を出来る様に、好きに戦わせてあげられるように。
私に出来るのは、指示じゃなくて、一緒に戦うことだと思って、それで、何とか上手くいって、なんとか、ギリギリ持ち堪えてた。
ポケモン達は私に応えてくれた、倒れそうな攻撃も耐えてくれたし、当たりそうにない技も、当ててくれた。
ピンチの時に上手いこと急所に当てて、逆転できたこともそれなりにあった。
私の実力じゃ、それほど上でもないけれど、全く下でもない順位にしかなれなかったけれど、少しはユウリに誇れるかと思ってた。
でも、ユウリは起きなかった。
会いに行ったユウリは、何も言わなかった。
何も言ってくれなかった。
まだ願い星は腕の中にあった、でも願いは叶わなくて。
いつのまにか、凄く重くなってた。
どんなに頑張っても、ユウリは起きなかった。
当たり前だった。私がしてることなんて、ユウリには全然関係なかった。
荷物は下ろせなかった。借りたものは返せなかった。
多分、ずっと背負っていくんだと思った。
ずっと、ユウリの見た目は変わらなかった。
それから、私は少しずつ、ユウリに会いに行けなくなった、いや、行かなくなった。
行こうと思えば行けたはずなのに。
多分、諦めたんだと思う。
ユウリがそこにはいないって、私はようやく認められたんだと思った。
もうずっと前に涙は乾いていた。