ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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20 ひとりごと

 

 

「ねぇシャクヤ、ちょっと私のポケモン預かっててくれない?」

 

 向かいに座ったユウリはそう言った。

 

「ん、いーよ。でもどしたん?」

 

 喫茶店での、なんて事はない会話。

 

 カンムリ雪原で出会ってから仲良くなった私達は、たまに会ったり、遊んだりしていた。

 

「試合が暫くないからさ。ボックスの中も可哀想だし、シャクヤ、旅行とかよく行くでしょ?だから連れてってあげて、カンムリの時に捕まえた子達だから、シャクヤも知ってるよ」

 

 歳の近い子が、チャンピオンだと知った時は驚いたし、元ジムリーダーのオヤジといい勝負したって言うし、妙に強かったから何かと思ったら、スゲー奴だった。

 

 でも、フツーに友達になった。

 

「でも何か急じゃね?別に試合が無い時なんていくらでもあったじゃん」

 

「なんて言うの?友情の証ってやつかな?」

 

「何それ」

 

「まだ、決めてないんだけどさ、チャンピオンだけやってるわけにもいかないし、ポケモン達も、手元で世話しきれなくなるかも知れないし、ちょっとずつ人に預けようかなって。まあ、他の友達はジムリーダーとかやってるから、急に預けても忙しいし」

 

「私が暇ってこと?酷くね?」

 

「信頼してるとも言う」

 

「そ、りょーかい。あの子達なら全然オッケ、恐竜もいるし」

 

「恐竜ってアマルルガだけじゃない?」

 

「ユウリ知らないの?恐竜は鳥から進化した感じなんよ」

 

「……だから?」

 

「──鳥も恐竜でいいんじゃね?」

 

「て、天才だったか……その発想は無かった……かー、こりゃホップも負けるわー」

 

「流石にそれはないわー、なしよりのなし」

 

「ありよりのありでしょ」

 

「なに?彼ピッピのディスのフリして惚気てんの?ウチのホップきゅんはダメダメでーってやつ?」

 

「か、彼氏じゃないっす、まだそう言うんじゃないって」

 

「まだ。ね、んふふ」

 

「何ニヤニヤしてんの?」

 

「携帯の中に二人の写真ちょー入ってるの知ってるんですけど」

 

「えっ、なんで!?」

 

「それ自白じゃね?」

 

「も、もう、そのっ、それはっ、秘密!秘密だから!チャンピオンのゴシップはダメだから!それに、ホップはそういうの全然言わないしっ!」

 

「と言いつつ二人で出かけてんじゃん?」

 

「研究!私の修行と研究を兼ねてるのっ!断じて怪しいのじゃありません!」

 

「ま、そーゆーことにしとくよ」

 

 コロコロと変わる表情を見てると、ちゃんと同年代なんだと思える初々しさだった。バトルが化け物みたいに強くても、こんな話するんだなーって。

 

「ねぇ、その研究って今度は何すんの?」

 

「凄いんだよ!それはね──」

 

 その時はやっぱり、タダの惚気話だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 オヤジにまたクソど田舎に連れてかれた旅行から、帰って来た時だった。

 

 お土産渡すついでに、ポケモンを返そうとして、電話をかけたら何故かホップが出た。

 

 やっぱ彼氏じゃね?とか思ってたら、全然違う言葉が出てきた。

 

 ユウリは事故で植物状態になってた。

 

 でも、顔は全然フツーで、ただ寝てるみたいだった。

 

 知ったのは、もう全部終わった後。ユウリは何も言わないし、動きもしない。呼吸だけはしてる何かだった。

 

 ワケわかんなかった。

 

 あんだけ強くてもこうなっちゃうんだと思ってた。全然関係ないのに。

 

 返そうとしたポケモン達も、返す先が無かった。

 

 もうユウリには家族もいなくて、どうしたらいいのかも、さっぱり。元からお母さんしかいなかったみたいだし、そもそもいるのか知らないけど、いるとしたら、こんな時にまで出てこない父親はクソだと思った。

 

 ホップに聞いたら、そのまま持っててとか言うし、細かいことは教えらんないとか言うし。

 

 渡せなかったお土産も、返せなかったポケモンも、結局私の手元に残った。

 

 私の荷物は重いままだった。

 

 昏睡状態の人がどのくらい助かるのか調べた。

 

 一年以上起きなかったら、殆ど助からないって書いてあった。嘘だと思いたくて、同じ本を何度も、何度も読んだ。別の本も読んだ。

 

 でも書いてあることは変わらなかった。

 

 しょっちゅう、ユウリの友達と一緒に会いに行った。早く起きてくれるように。

 

 私に願い星が落ちて来た。

 

 すぐに一年は過ぎた。

 

 ユウリは起きなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ユウリが訓練しただけあって、ポケモン達は凄く強かった。

 

 私の手にいつまでも遊ばせてて良いのかなって、オヤジに相談したら、じゃあ戦わせてやれば良いんじゃ無いかって、なんか微妙な顔してたけど推薦してくれて、落ちて来た願い星はダイマックスバンドになった。

 

 今更ジムチャレンジするなんて、夢にも思わなかったけど、それがあの子達の為になるなら、そうしようと思えた。

 

 ユウリの代わりに、この子達を戦わせてあげようと思った。

 

 チャンピオンは別にどうでもよかった。

 

 頑張って、勝てば、願いが届くんじゃ無いかと思った。

 

 全然関係ないのに。

 

 寝てるユウリに、それを話しに行った。ユウリは何も言わなかった。

 

 何か言って欲しかった。

 

 ユウリのポケモンはめちゃくちゃ強くて、私が大したことなくてもそれはもう、楽勝で。

 

 オヤジの子供だからとか、なんか色々周りは言ったけれど、全然違って。

 

 ポケモン達は私の指示がヘタクソでも、めっちゃフォローして動いてくれて。

 

 戦うたびに、ユウリがどんだけ凄かったのか、よく分かった。

 

 勝ったらそのことを話しに行った。

 

 でもユウリは何も言わなかった。

 

 なんか呆気なかった、他のチャレンジャーに申し訳なくて。

 

 でも、戦えて楽しそうにしてるポケモン達見てると、やめるわけにも行かなくて。

 

 いつのまにか、ファンもできて、チヤホヤされて、なんか、楽しくなっちゃって。

 

 ユウリは戦えないのに、楽しんでる私が少し嫌で。

 

 それじゃダメだと思って頑張ったけど、今更変わんなくて。

 

 予選の前にユウリに会いに行った。やっぱりユウリは何も言わなかった。

 

 どうしたらいいか教えて欲しかった。

 

 結局、オヤジみたいに優勝したり出来なかったのに、みんなめっちゃ褒めてくるし。

 

 全然、私の実力じゃないし。

 

 なんかジムにはスカウトされるし。

 

 でも、あの子達を活かすためにはジムに入った方が良かったし。何かキルクスジムに入ったらすぐにジムリーダーにされるし。

 

 急に忙しくなって、会いに行き難くなった。

 

 親子喧嘩だかなんだか知らないけど、ジムは岩と氷に分裂してたし。

 

 別に一緒で良くねって、適当に言ったらマジで統合されるし。

 

 勝手に仲直りして親子共々指導に回るし、厳し過ぎて人減るし。

 

 ほんと、困った。私は全然強くないのに。ジムリーダーの中じゃ指示力は全然無い方だし。

 

 だから、やっぱりメジャーから、マイナー落ちしそうになって。まあ一つで二つ分のジムだし基準が少し厳しくなって。

 

 もっと余裕が無くなって。

 

 休むわけにも行かなくて。だんだん会いに行けなくなって。

 

 ユウリにもあの子達にも、ジムのみんなにも悪いし、どうにかしようとして足掻いた。

 

 足掻いて、足掻いて、判断力も指示力も足りない私が見つけたのは、ポケモン達と仲良くなることだった。

 

 とにかく一緒に頑張って、あの子達の気持ちが分かるように、あの子達がしたいことを理解を出来る様に、好きに戦わせてあげられるように。

 

 私に出来るのは、指示じゃなくて、一緒に戦うことだと思って、それで、何とか上手くいって、なんとか、ギリギリ持ち堪えてた。

 

 ポケモン達は私に応えてくれた、倒れそうな攻撃も耐えてくれたし、当たりそうにない技も、当ててくれた。

 

 ピンチの時に上手いこと急所に当てて、逆転できたこともそれなりにあった。

 

 私の実力じゃ、それほど上でもないけれど、全く下でもない順位にしかなれなかったけれど、少しはユウリに誇れるかと思ってた。

 

 でも、ユウリは起きなかった。

 

 会いに行ったユウリは、何も言わなかった。

 

 何も言ってくれなかった。

 

 まだ願い星は腕の中にあった、でも願いは叶わなくて。

 

 いつのまにか、凄く重くなってた。

 

 どんなに頑張っても、ユウリは起きなかった。

 

 当たり前だった。私がしてることなんて、ユウリには全然関係なかった。

 

 荷物は下ろせなかった。借りたものは返せなかった。

 

 多分、ずっと背負っていくんだと思った。

 

 ずっと、ユウリの見た目は変わらなかった。

 

 それから、私は少しずつ、ユウリに会いに行けなくなった、いや、行かなくなった。

 

 行こうと思えば行けたはずなのに。

 

 多分、諦めたんだと思う。

 

 ユウリがそこにはいないって、私はようやく認められたんだと思った。

 

 もうずっと前に涙は乾いていた。

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