ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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21 モーニング・グロウ

「良い試合を期待しています」

 

 そっくりなのに、オヤジと違って腰の曲がってる爺さんは勝手に喋り終えた。

 

 キルクスジムにいきなり来てから、ずっと一人で喋ってた。何言ってんのか半分くらい分かんなかった。

 

 何でわざわざ自分で来たのか、遠回しに皮肉ったら、秘書のオバサンが自分でやらないと気が済まないからと教えてくれた。別にアンタに聞いてないし。まあ、私もオバサンだけど。

 

 正直勘弁して、急にやってくる上司とか迷惑なんですケド。

 

 現場は現場でやってんだっつーの。

 

 しかも、ユウリの発言にガチギレすんなとか、よくわかんない指示出してくるし。

 

 でも。

 

「ほんとに会える……んですね」

 

 最初は状況に混乱してて会えるような状態じゃなかったらしいし、面会も出来なかった。

 

 私も、心の整理がついてなかったし……まあ、今もついてるとは言えない。

 

 エキシビジョンは、ユウリが外に出る理由を作る為にマリィが企画したけど、その時は来賓席で完全防御からのハロンの病室へ直行だったし。隙も無かった。まあ、20年も寝てたから仕方ないけど。

 

 マリィのサプライズは成功したけど、私の方はマクワさんにセキタンザン借りた挙句、一方的にボコられたから、流石に悔しかった。しかもユウリは私のこと何も言って無かったみたいだし。

 

 人のポケモン持ちっぱなしでしかもボコられてたから、呆れられたかな。……そもそも私ってわかんなかったかも。私もオバサンになっちゃったし。

 

 んで、今度こそ会えるかと思ったら、失踪するし。まだ体調も万全じゃ無いのに、ジムチャレンジがしたいと言い出して飛び出したとか。

 

 喜んでくれたのは良いけど、私達の所為だと思うと複雑だった。

 

 あの時のホップの狼狽えは悲壮過ぎて見るに堪えなかった。ソッコーで、そこらじゅうに掛け合って目撃証言を集めようとしたり、ジムリーダー全員に連絡して来たりして。

 

 大学の講義も学会も休んで動き回ってたし。正直、休むんなら、ソニアさんと子供のこと考えてあげた方がいいんじゃないかと思った。

 

 多分、一番大変な時期だろうに。

 

 マリィは落ち着いてたけど……あれだけ慌ててる奴が目の前にいたら落ち着きもするわ。

 

 と思ってたら戻ってきて、ホップと喧嘩したらしいし、母親の件を伝える前に知られたんだとか。そりゃ喧嘩にもなる。まあ、すぐに言えなかったのもわかるけど。

 

 暫くして突然ジムチャレンジに出て来ても、ホテルは使ってないみたいでまた雲隠れだし。

 

 大丈夫なのか少し気になったけど、試合見てる限りはそんなに心配なさそうだった。

 

 私の知ってるスゲー奴のままだった。

 

 今は、本当にどこで何をしているのやら。またポケモン捕まえてるのかな。

 

 ま、来るなら待ってよう。ちゃんと準備して。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……じゃあ、今日はこれで、お話は承りました」

 

「シャクヤさん、姪なのですから敬語はもう良いですよ、もうお爺さんですから──」

 

「──歳の割にド・老けてんじゃねぇか、おい、なんでシャクちゃんのジムにいんだぁ?」

 

 オヤジが出て来ちまった、呼んでないし、頼むから帰って。一人で筋トレしとけ。

 

「随分と鍛えたようで、久しぶりですね、ピオニー」

 

「お前と違ってド・若えからな。大人しく隠居しておけよ、ローズ」

 

 壊滅的なタイミング。クソ頭痛い。

 

 めちゃくちゃ仲の悪い兄弟だってのは知ってた、だから会わないように調整しようとしたのに、勝手に来るからこうなんだよ。

 

 ジジイ二人ともふざけんなマジで。他所でやれ。

 

「オヤジ、もう話終わりだから、これから帰るから」

 

「いや、俺にはある。おいローズ、隊長を使って何しようとしてんだ?」

 

「使う……?隊長?どう言う意味ですか?」

 

「白々しいんだよ!」

 

 もう摑みかかるオヤジ。肉体言語までの距離が短いんだよ。会話しろよ。

 

 あーもう、やだ。こうなったら止められないわ。

 

「どうやら、貴方の筋肉は私のような老人を迫害するためにあるようですね」

 

 こっちのジジイも何で挑発してんだよ、アホなの?

 

「おうよ、そのための上腕三頭筋だ。さっさと吐け。何を企んでる?」

 

「何と言われましても、ガラルの為に働いているだけですよ」

 

「それで自首した癖に今更何のようだ!」

 

「私が必要とされて、その通り行動しているまで、です。文句は好きなだけ聞きますが、私のやり方は変わりません」

 

「そうやってまた、ダン坊みたいにすんのか?アイツがそれでどうなってたか知ってんだろ、20年も眠ってた子を見せもんにすんのか?」

 

「見せ物ではありません、スターと呼んで下さい」

 

「言い方を変えただけじゃねぇかよ」

 

「それに、これは本人が望んでやっていることでもあります」

 

「じゃあ、なんであんなに楽しく無さそうなんだよ!」

 

 楽しく無さそう……?そうなの?

 

「私が貴方に嘘をついたことがありますか?一度もありません。そして間違ったことを言ったことも無い」

 

「ブラックナイトはなんだ?あれこそ間違いだったんじゃ無いのか?」

 

「そうですね」

 

「語るに落ちたな!えぇ?」

 

「ええ。私の意見は変わりますが、私が正しかったことは変わりません」

 

「一個正解なら、全部正しいわけじゃねぇんだよ!お前には分からねえのか?あの子はダン坊じゃねぇ!オモチャでもねぇ!」

 

「……貴方が分からないだけです、貴方には言っても分からない。いつものことですよね。今回に限っては絶対に貴方は正しく無い、それだけは保証できます。離しなさい」

 

「じゃあ、あの子と会わせろ。お前に話しても埒があかねぇ」

 

「予定に追加しておきましょう。ですが、邪魔はさせません」

 

「分からねえもんだな。今、どこに居るか教えろってんだよ。何で連絡手段も持たせてねぇんだ」

 

「選手のプライバシーに関わります、予定は追って連絡させましょう。まだ何か?」

 

「そうかい。さっさと帰れよ……二度とツラ見せんな」

 

「見せにきたのは貴方の方では?」

 

「もう話すことはねぇよ、帰れ」

 

「相変わらずですね」

 

「オメェもな」

 

 オヤジは爺さん達が出て行くまで、ずっと黙って睨んでいた。

 

 どうやったら和解できるのかな、この人たちは。あの世でも喧嘩してそう。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 オヤジは大事な話があるって言った。

 

「あいつの脚本にユウリを乗せるのはダメだ」

 

「オヤジ、それただの対抗心じゃねぇーの?」

 

「違う」

 

「あっそ、でどうするつもり?」

 

「バトルするのは、本当にあの子の望みなのかも知れねぇ。それは否定できないし、しない。アレは俺に嘘をついたことが無い。本当の事も言わないけどな」

 

「何で分かるの?」

 

「ジムリーダーも、チャンピオンも誰も知らなかったのに、あの子が参加できたのは、あいつが推薦状を用意したからだ。急に会社にも戻ってるみたいだしな。多分、あの子は指示通りにやらされてる。試合を見ても、全然あの子らしく無い。全然楽しんで無いのがわかる」

 

「そうかな……?ユウリだったら不思議でも無いような……」

 

「いや、何か妙だ。流石にブラックナイトをもう一度起こすつもりはないだろうけどな……まあ、アイツだったらやりかねないのがな……」

 

「私、オヤジみたいに分かるわけじゃないし……」

 

「らしく無いってのがわかってりゃ、十分だ」

 

「……そっか」

 

 私には、そこすら見えてないんだよ、オヤジ。

 

「あの子が、あのままだったら、ダン坊の二の舞だ」

 

「勝てるわけないじゃん」

 

「そうじゃない、勝つ必要は無い。あの子が楽しく出来るようにすれば良いだけだ」

 

「どうすりゃいいの?」

 

「バトルは止められねぇし、直ぐに会えないなら、またサプライズで行こう。一回は成功してるんだ、シャクちゃんなら出来る。ポケモン達を活かす方法を選んだシャクちゃんと、ユウリのポケモンだったアイツらならな」

 

「出来るかな……?」

 

 ……違うよ、成功させたのはマリィなんだよ。私はボコられただけ。

 

「大丈夫だ。他の誰でも無い、俺の娘だからでも無い、シャクちゃんだから出来る筈だ。隊長を笑わせてやってくれ、あの子にあんな笑い方は似合わない」

 

 オヤジの割には良いことを言うものだと思った。

 

 ……みんなと違って、私には何の力もないんだけどなぁ。

 

 頑張らないと。

 

 マリィみたいに、喜ばせてあげられるかな?

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ポケモン達と、ユウリの動画は何度も見た。

 

 この子達もちゃんとユウリのことは覚えていたし、大丈夫だと思った。

 

 きっと、この子達ならユウリを喜ばさせられる。この子達に任せれば……

 

「やっほー、めっちゃ久しぶりじゃん」

 

 なるべく、重くならないように、気軽に。

 

 凄くドキドキしていた、もう子供でもないのに。

 

「えっと」

 

 ユウリはすごく戸惑った顔をした。仕方ない、私たちの見た目は随分変わったんだから。

 

「シャクヤだよ?カンムリ雪原で一緒にダイマックスポケモン倒したり…」

 

 ちゃんと説明すれば…

 

「ごめんなさい覚えてません」

 

 頭が真っ白になった。

 

 こんなにキッパリと言われると思わなかった。

 

 胸が詰まって、息が、言葉が、出てこなくなりそうだった。一瞬、ユウリじゃなくてよく似てる他人なんじゃ無いかとすら思った。

 

 でも、ユウリは何か怯えたような表情をしていた。聞きたく無いって感じだった。

 

「そう言うこともあるよねー。あるあるだわー、ありよりのありだわー」

 

 なんとか軽く誤魔化した。

 

「気にしてないんですか?」

 

 ほっとしたような顔だった。危なかった。

 

「同窓会でいる奴、仲良さげに話してきたりするじゃん。話し合わせとくかー、まあ知らんけどって人。その枠だった系っしょ?」

 

 でも、ユウリ、私達、友達じゃなかったの?

 

 そう思ってたのって私だけ?

 

 友情の証って何だったの……?

 

「ごめんね、ユウリちゃん?」

 

「えっと……はい」

 

 釈然としない顔、不安げな表情にも見えた。

 

 直ぐに勇ましいセリフに隠されてしまったけど。

 

 本当に忘れちゃったんだ。私のこと。

 

 怖がらせちゃって、ごめんね。ユウリ。

 

 すぐに思い浮かんだのは、後遺症。

 

 事故による記憶障害。よくある話。本でも見た。その可能性はあった。あって欲しくなかった。

 

 フツーじゃ、考えられないくらい長い間意識が無かったんだ。それくらいおかしくない。

 

 ずっと前に何度も何度も読んだ本に書いてあった。

 

 怒っちゃいけない。覚えてないのとか言って不安にさせちゃいけない、一方的に教えるんじゃなくて、思い出す手がかりを見せてあげれば……バトルだってきっと出掛かりに……

 

 私がユウリのポケモンとわかり合ったように。

 

 大丈夫、この子達なら出来る。

 

 ユウリならきっと、思い出してくれる筈。

 

「じゃ初めましてだね。アタシはシャクヤ。蘇った恐竜の力、教えてあげる!──」

 

 ──でも、やっぱり私はぜんぜんダメだった、まるで出来なかった。

 

「恐竜より鳥の方が進化した生き物だって知らないんですか?──」

 

 それは、私が教えたんだよって言いたかった。

 

 アマルルガは一瞬で倒された。

 

 なにが起きたのかも分からなかったと思う。ごめん、私が遅かった。

 

 ラプラスはキョダイマックスしてるのに、普通に倒された。

 

 流石に、あのめちゃくちゃな回避や指示が出来るのは、やっぱり同じ人間には思えない。

 

 一緒に戦うってそう言うことなのかと思った。それに比べたら、活かしてるなんて言い訳で、私はただ任せてただけだった。

 

 ごめん。ユウリを甘く見てた。

 

「知らなかったんだけどねぇ、ただのトレーナーだったしさぁ……でも」

 

 ユウリ、ユウリがいたから私は今こうして戦ってるんだって──

 

「なんの話ですか?」

 

 関係無かったのは分かってる。

 

「弱いと過去は古くなって、一蹴されるんでしょ?大丈夫、この子達は強いから。フリーザー!」

 

 ユウリの顔をじっと見て来たフリーザーは、意味がなかったことを、私に伝えた。

 

 もう出来ることが無くなったように見えた。

 

 あとは直接言うか、それか。

 

「ごめん。ユウリちゃん、忘れてくれていいよ。今から教えてあげるから──」

 

「結構です!──」

 

 仄めかすたびに、ユウリは拒否した。

 

 聞きたく、無いんだと思った。

 

 あの子が起きたばかりの時、もうずっと泣き続けていたことはマリィから聞いていたから。

 

 私は泣かせたくなんて、無かった。

 

 嫌がることなんて、したく無かった、なのに。

 

「真似?何言ってんの?ユウリが知らないだけじゃん?」

 

 あまりにもユウリがポケモン達のことを悪く言うから、我慢できなくて、なってそんなことを言った。

 

 絶対にダメだって知ってるのに。

 

 ポケモン達は話せなくても、私達が言ってることは分かるって、ユウリなら知ってる筈なのに。

 

 どうしてそんなことも分かんないんだって、身勝手に。

 

 私のことも、ポケモンのことも覚えてないユウリには、分からなくて当たり前なのに。

 

 ユウリなら、分かってくれると思ってた。

 

「そのフリーザーは強い。それは認めます」

 

「当たり前じゃん!この子達は──チャンピオンが育てたポケモンなんだから!」

 

 フリーザーだけは認めさせることが出来た。

 

 でもそれだけだった。

 

 中途半端だ。なんもかんも。

 

 そして、私は負けた。オヤジの期待にも応えられなかった。

 

 それだけじゃなくて、私はもっとバカだった。

 

 その時に出来なくても、直ぐ話しに行けば良かった。ちゃんと、ゆっくり話せば良かっただけなのに。

 

 でも、堪え切れなかった。

 

 マリィに出来たことが、私には出来なかったのが悔しくて。

 

 起きるまでずっとユウリを待ってあげられたマリィと、諦めた私じゃあ、全然違う。そんなの当たり前だった。忘れられたってしょうがない。私が忘れてったんだから。

 

 控室の近くから誰かが、離れるような足音が聞こえた時にはもう遅かった。

 

 ユニフォームを着た誰かが通路を曲がって消えるのが見えた。足元には水滴のような跡が残っていた。

 

 ……ユウリが、私の控室に来てた。

 

 多分、何かに気がついて来てくれたんだと思う。

 

 酷いことさせたって、それに気づかせたんだと思う。私はそんなことを教えるつもりじゃなかった。

 

 ずっと、私はユウリなら分かってくれるなんて思ってたけど、そうじゃなかった。

 

 やっと、思い出した。

 

 スゲー奴だったけど、フツーの子だったのに。そんなことも忘れてた。

 

 追いかけた。でも、ユウリはもう何処かへ行ってしまった後だった。

 

 ごめん、私、間違えた。

 

 次は……ちゃんと話すから、だから。

 

 また、フツーに話そうよ。ユウリ。

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