ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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 まどろみの森に降り立つ。

 

「行って良いよ」

 

 私の声を聞いたアーマーガアは、すぐに何処かへ飛んで行った。

 

 ……

 

 歩く私に、寄ってくるポケモンは居ない。

 

 奥へ向かう。やっぱり自転車に乗れないのは不便かも知れない、まあ今更。

 

 段々と、霞が深くなる。

 

 何度も来た場所だ、今更迷ったりしない。

 

「帰ってきたよ」

 

 石碑には朽ちた剣が突き立てられている。

 

「──!」

 

 遠吠えと、駆け寄る足音。

 

 姿を現す歴戦の青狼。

 

「久しぶり、いや、そうでもないかな。どう思うザシアン?貴女にとっては……どのくらい前なのかな」

 

「──?」

 

「ずっと生きてる貴女からしてみれば、ほんの少し前なのかもね」

 

「──」

 

「まずは、謝らなきゃね。私、八つ当たりしちゃったでしょ?だから、謝りに来たの」

 

「──!」

 

 どうやらあまり気にしていないらしい。言葉が正確に分かるわけでもないだろうけど、意思は伝わっていると思う。

 

「それでね、お願いがあって来たの」

 

 私は、ゆっくりと、突き立てられた剣へ向かう。

 

「そうだね、そのためには──」

 

 剣の束を握る。

 

 力を込める必要は無い、ただ少し、捻れば良いだけだ。

 

 朽ちた剣は、容易く手に入った。

 

「──!?」

 

 ザシアンが驚いた顔で見た。

 

 私が抜けなかったのは、頑なに力を込めて、引き抜こうとしたからだと思う。

 

 刃が欠け、折れているこの剣は、深く刺さってすらいなかった。

 

 自分の見えているものしか、見ようとしていなかったから、この折れた剣が何かに引っかかっているだけのことにすら、気が付けなかった。ただ、それだけのこと。

 

「ほら、これ持ってよ」

 

「──!」

 

 嬉しそうなザシアンが、剣を受け取って咥える。

 

 その姿は青白い光を纏い、傷付いた姿から、力を取り戻した剣の王へと回帰する。

 

「うん。これでよし」

 

 ザシアンは、私の隣に立とうとする。

 

「違うよ」

 

「──?」

 

 私は、ザシアンの向かい側に回る。

 

「あのね」

 

 目を合わせる。

 

「──?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐその剣で私を殺して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「──?……?」

 

 困惑するザシアンは、首を振る。

 

「いい?私を殺さなかったら、ブラックナイトを起こす。今度は前みたいな失敗はしない。ムゲンダイナは私の制御下にある。願い星の収拾も順調、研究データは幾らでもある。今、私を止めなければ、ガラルは崩壊するし、私が滅ぼす、みんないなくなる」

 

「──!?」

 

「驚くよね、私だって、こんなことになるとは思わなかったよ。でもさ、もう無理だよ、何しても誰かを傷付ける、私がいるだけで誰かが苦しむ。私はさ、過去に戻ってやり直せば、なんてこと考えてたけど、そんなことしても、私じゃあ、無理だよ。私の知らない私みたいに上手く出来ない。あの子と私は違う、全然違うんだよ。みんなが知ってるのはあんな……上手くいってる子のことで、私なんかじゃない」

 

「──」

 

「みんな、私のことを見てないのは、わかってくれないのは、最初から見てる人が違うから。私は、みんなの大事な誰かの席を勝手に奪った他人なんだよ、私、あの子に偽物だって言った。違う、私が偽物だったんだ」

 

「……」

 

「私は……本当はずっと前にいなくなってるはずだった。みんなが私を生かし続けたから、今、生きてる。だけど、そうじゃないんだよ。本当は、あの時に……私は、死んでおくべきだった、今も、生きているようで生きてすらいない、ムゲンダイナの力でそのままの形でいるだけで」

 

「……」

 

「私さ、もう歳、取らないんだって、ずっとこのままなの、大人にもなれないし、背も伸びない、髪の毛だって、これ以上は伸びない。あの写真の子みたいにはならないんだよ、絶対に。もう、走れないし、自転車にも乗れない、泳げもしない。笑えるよね、ボールだって昔は絶対に外さなかったのに、今じゃ全然当たらないんだから」

 

「……」

 

「私は私でしかない、愚かで、無力で、子供染みた、戦うことしかできないモノ。もう嫌なんだ。戦いたくない。何も見たくない、これ以上、生きていたくない。私に生きてる価値も理由も無いんだよ」

 

「……」

 

「私は、ずっとこのまま生きたくないよ、私は変わらないのに、他の人たちはみんな歳をとっていく。分かるでしょ?いつか私はずっと一人になる、誰もいなくなる。ねぇ、ザシアンなら分かるでしょう?大事な人達がいなくなって、自分だけ取り残される気持ち。でもザシアンにはザマゼンタがいるよね?私には……誰もいない。それで、一人で生きて行くなんて、嫌だよ、分かるよね?」

 

「……」

 

「今殺さないなら、本当に全部、壊す。何一つ残さない、貴女がずっと忘れられていたように、二度と思い出す人は居なくなる。ザマゼンタだって直ぐに消す。だから、お願いだから、終わらせて。さあ!ムゲンダイナの力を断ち切って殺せるのは貴女以外にいない!貴女がやらなかったら、誰もが苦しむ!いなくなる!貴女だって例外じゃない!ガラルを守りたいのなら、私のためを思うのなら、今すぐ、その剣で私を殺せ!殺してよ!」

 

「──」

 

 一度俯き、剣を構え、顔を上げて私を見るその目は、苦痛に満ちている。

 

「そう、上手。難しくないよ、ちょっと切れば、多分死んじゃうから。ああ、そうだ。最後はトレーナーらしく──」

 

「ザシアン、巨獣斬」

 

 剣が光の刃を纏う。

 

 ザシアンはそれを振るうことをひたすら拒んでいた。

 

 それでも振るうことしか出来ないと苦痛に顔を歪めて。

 

「どんなポケモンも、私の物になったなら、命令には逆らえないよね。仕方ないよね、私の命令なんだから。私の特技は多分、この為にあったんだね、ほら、私はここにいる。私の言う通りにすれば、ちゃんと出来る、ザシアンなら出来るよ、頑張って」

 

 それを振るってしまえば終わりだと。

 

「……やれ」

 

「──ッ!」

 

 ザシアンは剣を振り上げた。

 

 やっと、終われる。

 

 私は、ずっと夢を見ていた。

 

 長くて、悪い夢を。

 

 やっと夢から覚めて、昨日から明日に、向かえる。

 

 ずっと昔の明日に。

 

 これで。

 

 目を閉じる。

 

「おやすみ、ザシアン」

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