ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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03 新世界とアリア

 あの日、私達の旅が始まったあの日のこと。

 

 彼は久しぶりに兄に会えると興奮していた、私も確かに期待していたけれど、私はチャンピオンに会えることよりも、もっと嬉しいことがあった。

 

 私は、街の人々に称賛されるチャンピオンより、その兄の姿をみて誇らしそうに笑う彼の顔を見る方がずっと嬉しかった、ずっと、見ていたかった。

 

 二人が競争して帰って行く時も、私は後からついて行った。私はそもそも競争に参加するつもりなんて、無かった。

 

 でも、それは少しの言葉で変わった。

 

「あいつのライバルにもなってくれ」

 

 "友達が"憧れたチャンピオン、そして、私にはじめてのポケモンをくれた男はそう言った。

 

 言われるまでも無かった、私の願いはその友達の隣に立つことだったから。

 

「鍛えあって、二人でチャンピオンを目指すぞ!」

 

 ホップは、私を冒険に連れ出した少年はそう言った。

 

 彼がそれを望むのなら、それを叶えよう。

 

 ホップが私にくれた、願いの片割れの為に。

 

 ただ、そう思っていたのに。それだけで良かったのに。

 

 私はそれだけではいられなくなった。

 

 開会式、熱気が満ちるスタジアムにたった瞬間から、私は。

 

 "勝つ事でしか前に進めなくなった"

 

 それがジムチャレンジのルールだから、だけじゃない。

 

 私は負けなかった、どのトレーナーにも、ジムリーダーにも。

 

 そして、ホップにも。一度として。

 

 どんなに彼が苦しそうな顔をしても、挫折して自信を失っても。

 

 ……私が見たかった笑顔を見せてくれなくなったとしても。

 

 私は彼の願いの通りに、ライバルとして戦い続けた。そうすることしか出来なかった。手を抜いて負けることなんて、出来なかった。

 

 たとえ彼が勝利を欲したとしても、それをしてしまえば彼を侮辱することになる。

 

 だから勝ち続けた、ただ彼に誠実である為に。

 

 負けたとしても、何度目でも立ち上がって成長する彼。

 

 ただの一度も負けず、ただ、漫然と進み続ける私。

 

 彼は私にはできない事をしていた。

 

 彼は、"負けても先に進める"のだ。

 

 だから私は勝ち続けた、彼が負けたとしても、共に歩み続ける事は出来ること信じて。

 

 私は信じていた、何も考えずに。隣にいる彼がずっと一緒にいてくれるのだと。

 

 そんな彼と一緒だったから、大人達の前にでも、厄災の前にでも、平気で立つことが出来た、その時だって彼の望み通りに、一緒に戦っただけだった。

 

 あのブラックナイト……ムゲンダイナを捕まえるように言ったのだって彼だった。

 

 あの日、一番最初のポケモンを決める時に私に譲ったように、彼はなんてことのないように、私に英雄の立場を譲った。

 

 英雄は他の誰でもない、ましてや私でもない。

 

 彼以外にはいなかった。

 

 世間は英雄を二人にはしなかったが、そんな事は関係が無かった。

 

 そして、私は一足先に頂点に立った。私と同じように勝ち続けていたチャンピオンを下して、私は先に進んだ。

 

 舞台は整った。後は特等席で彼を待つだけだった。

 

 彼は来なかった。

 

 来ない彼を探して、探して、私は剣と盾の墓標の前に立った。

 

 その後に起きた騒動でだって、彼は他の何かに頼ることなく、自分自身の力で伝説の存在を認めさせたのだ。

 

 私はポケモン達の力で勝つ事でしか、剣の王を認めさせることが出来なかったのに。

 

 彼こそが本当に英雄だった。

 

 最後の最後で、彼は笑顔を取り戻した。

 

 私は、やっと願いが叶ったような気がしていた。

 

 二人で目指す頂点への道、その最後のカケラが埋まった筈だった、なのに。

 

「違う道を進むけど、これからもライバルでいてくれよな!」

 

 そこで私の時間は止まった。

 

 私は張り付いた笑顔でやり過ごした。

 

 ずっと、私は彼を置いていかなかったのに、彼は私を置いて行ってしまったような気がした。

 

 遅かった、気がつくのには、もう何もかもが遅かった。

 

 違う道、自分ではない女性の下へ行くという言葉に感じた違和感。

 

 勝ち続けていた私は、ある意味ここでやっと、敗北した、いや、敗北していたことに気がついた。

 

 今更になって。

 

 どうして私は、彼の笑顔が見たかったのか。

 

 憧れでも、友情でも、ましてや義務感でもない。

 

 そして私は思い知った。私と共に歩く道では、決して彼の笑顔を見る事は出来ないのだと。

 

 私は夢を諦めて一緒にいて欲しいなんて馬鹿なことすら考えてしまった。

 

 一方でやっぱり"負けても先に進める"彼を、そして、その選択を称賛していた。

 

 胸に深く突き刺さったその痛みは、矛盾そのもの。

 

 つまるところ、私は彼のことが──

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