ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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「どうしたんですか?」

 

 護衛のニオさんは、優しく聞いてくる。

 

「私は、どうしたらいいのか分からない」

 

 私のことを知らない相手だからか、私はつい考えていることを話してしまう。

 

「……内容は話せますか?」

 

「話せない」

 

「……それは困りましたね」

 

「何が正しいのか、私には、分からない。間違ったことをしてもいい、愚行権があるのは分かる。でも、正しいことを選べるのなら、そうするべきだと思う。なのに、私には正解が全然見当たらない」

 

「そうですね……良くないと思っている……行動を……勧めるものではない、はずです。……それが他の人に及ぶなら……尚更です」

 

「私は、間違えたくない。でも、答えが見えない。私の願いを叶えるためには、何かが犠牲になる……」

 

「ユウリさんは、多分、完璧主義者……と思います」

 

「出来る限り正しい答えを選ぶのは普通でしょ?」

 

「ユウリさんは、すぐに答えが出せるから、多分、そう思ってしまうだけです」

 

「……」

 

「……答えのないものの方が、余程多い。その時に答えが得られなくても、後から分かることもあります、歳を取れば、気がつくこともある……」

 

「時間が解決してくれるって?そんな無責任な」

 

「いいえ、生き続けていれば、自ずとそれを導き出す……んだと思います。時間が解決してくれたように思う……だけで。大人になるというのは……多分」

 

「……大人になれたら良かった」

 

「なれますよ」

 

「……そうかな」

 

「……人は間違えてばかりです……正解ばかり選べない。出来ることにも限りが……あります。ユウリさん……大丈夫です、誰も、怒りません。……間違えても……怒りませんから」

 

「……それはそれでいや」

 

「……困りましたね」

 

「……まだ私、子供だから」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 改装中のバトルタワーは無骨な資材に覆われて、夜でも工事の音が鳴り響いている。

 

 その騒々しい音も、最上階の展望室には届かない。

 

 部屋と呼ぶにはあまり広く、ポケモンをダイマックスさせても平気な程、頑丈なその空間からは、夜天に煌めくシュートシティの景色が一望できる。

 

 バトルにしか使われていなかったのが不思議なくらいの絶景だった。

 

「見て下さい。これが今のガラルです」

 

 老人は遥か遠くを眺める。

 

「そうですね」

 

「1000年後と言ったのを覚えていますか?」

 

「……建前だったのでしょう?」

 

「そこまで時間は掛からなかったようです。この地のエネルギー問題は解決したはずでした、しかし、現にガラルは衰退している」

 

「はぁ……?」

 

「私は、あの一件で役目を終えたと信じていました。ですが、それは間違っていたようです」

 

「珍しいこともあるんですね、間違いを認めるなんて」

 

「私の意見は変わりますが、正しかったことは変わりません。間違っていたのは信用するものです」

 

「こうなったのは自分の責任ではないと?」

 

「いいえ、私の役目は最後まで自分でやり切ることだったのです。ガラルに秩序を敷き、発展させる役目を持っていたのなら、最後までやり切るべきだった。それを、他者に委ねてしまったからこそ、今の結果があります。故に事故は起き、今のガラルがある」

 

「……誰がやっても同じ結果になると思いますけど」

 

「だからこそ、過去を変えるのです。私がやるべきことをやっていれば」

 

「それだけですか?私への贖罪は?」

 

「私は貴女に時間を返すだけです。謝られても、嬉しくないでしょう?」

 

「……知ったような口を」

 

「貴女がそう言ったのですから、私はそうするだけのことです」

 

 老人は遥か遠くを見つめている。

 

「……もし、過去を改変して失われるものがあるとしたら、どうしますか」

 

「ここ最近の様子はそう言うことでしたか」

 

 納得したような顔で私を見る。

 

「分かってるなら、どうして」

 

「私は貴女の"父親"でも無ければ、"教師"でもない。貴女が要求したのは自分の時間を取り戻す手伝いでしたよね?違いますか?」

 

「それは……そうだけど」

 

「何を見てそう思ったのかは知りませんが、あの事故の所為で間違いなく失われているものがあるのです」

 

「あの事故で生まれたものだってあるじゃない……」

 

「20年前から、これまでの全てがそれに当たります。20年といえば、ヒトが生まれて成熟する期間に相当します。貴女がしようとしているのは、今生きているあらゆる生命の現在を否定することなのです」

 

「っ……」

 

「ユウリさんなら理解していると思っていましたが……或いは……見ないようにしていたのか分かりませんが」

 

「私は……ホップの子を消すことになる……でもそんなことしたくない……」

 

「諦めてこの世界に順応しますか?貴女と同じ者は誰一人としていない世界で、永久に等しい時間生き続けるのですか?」

 

「それも嫌!」

 

「……バタフライエフェクト、という言葉をご存知ですか?」

 

「一つの小さな違いが、時間の経過で極めて大きな差を生む……」

 

「その通り、SFでもしばしば登場しますよね?ましてやタイムマシンが存在する作品ならば」

 

「……だから、過去を改変すれば、なかったことになる……あらゆるものが変わる……」

 

「我々の行動如何によっては、生まれなくなる生命や存在もあるでしょう、また、生まれる存在もあるでしょう。それだけではありません、未来をも否定するのです」

 

「未来を……?」

 

「改変されなかったものの未来が今と同様になる保証はありません。ですから、我々の行為は、20年の過去、今、そして続いた筈の未来、全てを否定するのです。可能性を殺すとも言えるでしょう、貴女も例外ではない。目覚めてからの全て、また未来の貴女をも殺すのです」

 

「改変じゃなくても、何かを選べば、違う可能性はなくなる……その言い方はあまりに拡大が過ぎる……」

 

「では、貴女の言う普通の選択と、我々の行為に何の違いがあるのですか?何かを得るためには何かを失うのは当然のことではありませんか?それがたとえ誰かの命だろうと」

 

「私は……」

 

「都合の良い世界など存在し得ない。仮にそれを作ったとして、貴女はそれを受け入れられますか?他者の都合を排除して作り上げた、自分の願望だけで成立した"良い夢"を。もし、それがお望みならば、簡単です。今すぐ貴女の脳幹に電極を突き刺して、二度と眠りから覚めないように処置させましょう、それか脳を取り出して快楽物質だけを与えますか?貴女はそれでも死なないでしょう」

 

「私が欲しいのはあの日の続き、それだけだ!」

 

「ならば、貴女は諦めるしかありません、それがどれほど大事なものだろうと。それが現在を否定すると言うことです」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……でも」

 

「でも、も。だって、も。私は聞きません。私は貴女の父親でもなければ、教師でもない。私の責任で生まれた悲劇を止める。衰退した今の時代に苦しめられている者達を救済する。それが私の責任です。手段を持ち込んだのは貴女だ、私に夢を見せた貴女がそれを止めるというなら、止めはしません。ですが」

 

「私達の願いだけで、そんなことを決めて……良いとは思えない……思えるんですか?」

 

「"成し遂げたいことがあるのなら、自分でやれ"それが私の考えです。ならば、聞きましょう、我々の願いだけでそれが許されないと思うのなら、どうするべきですか?」

 

「……賛同者を増やす……でもそれで何かが解決するわけじゃない……結局犠牲は……」

 

「ならば、それを行う前に、人々へ問えば良いのです。彼らがそれを望むなら、それを行えば良い。そうでなければ諦める。犠牲者は貴女だけで済みます。責任は貴女と私だけから当事者である全ての生命に変わります。それで何か問題がありますか?」

 

「赤子や、ものを言わぬポケモンに答えろと?」

 

「貴女が一番気にしているのが、ホップ博士の子供ならば、返答が出来るようになるまで待ちましょう、過去を改変するのはいつだって構わないはずです」

 

「……あの子がジムチャレンジに出場出来る年、その歳まで……その間に全ての準備を整える……か、でもそんなのただの先延ばし……」

 

「ユウリさんがそう望むのなら、私はそうしましょう、選択を他者に委ねるほど、愚かなことはありませんが」

 

「……たとえ、賛同されようとも実行するのは私だ……他の誰でもない……だけど他には……」

 

「10年も生きれば積み重なるものがあるでしょう、今以上に痛みを伴う、それでも良いのなら」

 

「…どちらに転んでも良いようにして下さい。私の答えは保留します。少なくとも10年は」

 

「良いのですね?それで」

 

「…いずれ、私にも分かる時が来る。今はまだ、私には答えられない……だから……」

 

 答えさえしなければ間違いにはならない。

 

 間違いでも、正解でもない……

 

 この判断が間違っていても。

 

 最後に正解を選べれば……

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