ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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34 才悩人応援歌

 

 どうにもならないものは、どうにもならない。

 

 諦めは私の中にずっとある感情だ。

 

 私はそれを何度も思い知らされてきた。

 

 いくら人気者に憧れたところで、そうなれるのはごく一部。

 

 何をしても、上には上がいて、人に愛されるのはほんの一握りの優れた存在。

 

 自分の好きなもの、一番になれるものを、見つけよう、君は特別な存在なんだから──なんて、世間はうそぶいちゃ、夢見がちな半端者を蹴落として現実へ叩きつける。

 

 それが何度も続けば、何をしたって上手く行かないと思ったって、おかしくない。

 

「クララちゃんはカワイイねぇ」

 

 私を見たあの頃の大人や同年代の子供は、どいつもこいつもそんなことを言った。

 

 子供の頃からそんなことばかり言われて育った私は、自分が世界一カワイイもんだと思い込んでいた。

 

 一方で、それ以外に褒めるところがないんだと自覚していた。

 

 見てるのはガワだけ、本当は誰も認めてはいない。

 

 私がチヤホヤされるのに嫉妬したブサイク共に嫌がらせをされることもあった。

 

 そいつらが好きな男に好かれないのは、そいつらに愛嬌がないからか、ツラが不自由な所為で別に私のせいじゃない。

 

 だから、そういうのはキッチリシメた。

 

 そうしていると、さらに周りは私をチヤホヤする男ばかりになった。そういう空間の中にしか、いられなかった。

 

 だけど、それでも私には唯一絶対の取り柄だった。

 

 それだけで生きていけるのだと勘違いしていた。

 

 けど、世の中にはカワイイ奴なんてのは山、いや、星の数ほどいて、そんなのは何の取り柄でもないことを、歳を取れば自ずとそれを知る。

 

 ひたすら焦った、同じように愛され続けるには、カワイイ私でいないといけない。

 

 それほど遅いつもりもなかった、でも私はとっくに手遅れだった。

 

 周りからチヤホヤされて、楽をしていた私には何もなかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 いくら、カワイイ、カワイイと言われようと、中身は何もない。

 

 だから、また同じように愛されるように、アイドルになれば何とかなると、思い込んで事務所に入った。

 

 努力だってした。アイドルらしい言葉遣いや振る舞いも覚えた。

 

 必死こいてレッスンをこなし、慣れない歌をひたすら練習してなんとか作れた曲。

 

 そしてようやくデビュー。

 

 インディーズでも、これで私もまた──と。

 

 売れたCDはたったの8枚。

 

 それでも8枚は売れた、買ってくれる人がいた、それだけでまだ、救われたような気がしていた。

 

 なのに。

 

 それ買った一人。クセぇハゲの言う命令を丸一日聞いて体を好きにされれば、何とか次の仕事が貰えると言われた。

 

 その仕事も明らかにヤバいイメージビデオにドギツイ衣装のグラビア。

 

「君は"そういう"仕事向きの体型だ、そっちならいくらでもチヤホヤされるし、金も貰える、君のファンが山程増えるよ、歌なんかその後に出せばいい。そういう仕事をしてる君の歌なら、みんな喜んで何枚でも買うよ、CDに握手券や、お触り券を付ければ……ね?」

 

 その先に何が待ってるのか、芸能に少しでも関わってれば知らないはずがない。

 

 その説明をしたハゲデブのオッサンは、私の膝に頬擦りしながら、気持ち悪い顔でニタニタと笑った。

 

 CDを買った奴らの目はそいつと全く同じ目で、私の体を見ていた。

 

 悔しかった。あの日々は何だったのかと思った。

 

 私は自分の価値を思い知った。

 

 最初からカワイイ奴、努力してる奴が星の数ほどいる中では、私の価値はクソだ。

 

 そんなことにも気がつかない間抜けだった。

 

 そんなもんだった。

 

 媚を売るしかできない駄肉の塊だと言われた気分だった。

 

 そいつの顎を蹴飛ばして逃げた。

 

 事務所もバックれて辞めた。

 

 すぐに別の方法を考えた。

 

 同じようなものの中で争うから、ダメなんだと。

 

 アイドルと同じようにチヤホヤされ、競争相手が少ないもの。

 

 それがジムリーダーだった。

 

 ジムチャレンジをするガキどもはちょっとやられたくらいですぐに諦めて願い星を記念品に変える。

 

 選手は多くても、ジムリーダーを目指す奴は殆どいない。

 

 どいつもこいつもチャンピオンを夢見てやがったからだ。アイドルになろうとした私と同じ間抜け、そんな競争の多い場所で勝ち上がれるわけがない。

 

 だからジムリーダーは狙い目だった。

 

 願い星はすぐに落ちてきた。

 

 強い願いのもとに、星は来る。

 

 アイドルになる夢はそんなでもなかったのかと笑った。

 

 使えるポケモンが人によって違うのだから、なれるジムリーダーも限られる。

 

 私は毒タイプのポケモンにたまたま適性があった。そして毒タイプのポケモンを上手く使えるトレーナーはガラルには殆どいなかった。

 

 ジムは寂れてる、しかも所属はマイナーリーグ、それでも、そこに上手いこと入り込めば私だってジムリーダーになれる。

 

 中身のない私が誰かに愛されるにはそうするしかなかった。

 

 でも、そんなに甘くはなかった。

 

 使い手が少ないからこそ、指導はめちゃくちゃキビしくてキツかった。

 

 全然できないことばかりで、私は自分の出来なさ、自分のダメさを思い知った。

 

 2日で逃げ出した。

 

 やっと見つけた場所だった、そこでしか私は輝けないと思ったのに、私にはとてもじゃないけど、出来るとは思えなかった。

 

 他のトレーナーに全く敵うと思えなかった。

 

 自分が無価値だと思わされるのが怖くて逃げ出した。

 

 私は恐怖を感じない場所を探して、逃げ続け、彷徨った。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 その途中。

 

 ヤケ酒に暴飲暴食、そして泥酔した私は気がつくと、駅のゴミ箱に頭を突っ込んで寝ていた。

 

 胃の中からスパイシーな香りが込み上げていた。

 

「居たぞ!連絡のあったピンク色の奴だ!」

 

「えっ!?何すん、触んなクソが!吐くぞ!」

 

 私は制服を着た連中に捕まった。

 

「大人しくしろ!御用だ!」

 

 確かに、ぶっ飛ばしたら警察沙汰になってもおかしくは無かった。

 

「クソ、逃げも隠れもしねェよ、連れてけこの野郎!」

 

 捕まるなら、もうそれでも良いと思った。

 

 どうせあんなことして、ジムからも逃げた私はもう人気者にはなれない。

 

「この匂い、よし情報通りだ、さっさとヨロイ島に送れ」

 

「……どこだって構わねェよ」

 

 そして私は留置所と思わしき島に送り飛ばされた。

 

「申し訳ないねー!まさかそんなところまで逃げていくとは思わなくてねー、駅員の皆さん、ありがとさん!」

 

 私が引き渡されたのは助平そうな爺さんだった。

 

「……えっと、ところで、うちの"ヤドン"はどこに?そこのトレーナーちゃんが持ってるのかな?」

 

 ……耳を疑った。

 

「えっ、ピンク色の間抜けそうなやつ奴としか聞いていなかったので、ゴミ箱に頭を突っ込んでるピンク頭が丁度──」

 

「テメェ!!誰がピンク色の間抜けだコラァ!!その貧弱な脳をぶっ叩いて直してやんよォ──」

 

「おっと」

 

 私がクソ駅員に殴りかかろうとした瞬間。

 

「な、なにしやがった!テメェ!」

 

 何が起きたのか分からなかった。

 

「これはまた、元気な子だね。丁度いい、ちみ、ワシちゃんの道場に来ない?」

 

 間に入った爺さんが、私の手を逸らし、そのまま軽く捻って私を拘束していた。

 

「ハァ!?」

 

 私はクソほど緩い道場に入門することになった。

 

 道場は毒ジムと比べると天国みたいなもんだった、全然厳しくなかった、アイドルのレッスンと違ってテキトーにやっても、出来なくても怒られない。

 

 オマケに門下生はクソ雑魚。毒ジムから2日で逃げ出した私でさえ殆ど倒せる。

 

 流石に師匠には敵わないけども。

 

 そこまでチヤホヤはされなかったけど、歳が少し上だから門下生の中ではデカイ顔ができた。

 

 競わなくて済むなら、もうここでも良いかと思っていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ただの迎えの筈だった。

 

「……何ですか、貴女?」

 

「私はクララ!君の先輩だよォ!」

 

 一目で分かった。

 

 トンデモない目のヤベー奴が来た。

 

 切れると何するかワカンねぇレベルのドス黒い目。

 

 ちゃんと力関係を明確にしないと死ぬ、私のカンがそう告げていた。

 

 だから軽くのして、上下関係を教えてやろうとしただけだった……のに。

 

「え……?あれ……?」

 

 一瞬で敗北した、全ての手の内が読まれ、しかも相手は毒タイプの見たことないドラゴンポケモンを使っていた。

 

 クソデケェし、正直反則だった。

 

 毒タイプ使いとしても負け、バトルにも負けていた、そして年齢でも。

 

 焦って追い返そうと色々しても、無意味だった。戦うことにしか興味のない目だった。

 

 あの師匠にも勝ち、道着は一人で取り返してくる。

 

 しかも全く興味なさそうにあっさりと。

 

 あいつの目は死んでいた。つまらない戦いをさせるなとでも言ってるようだった。

 

 手渡された道着を着る気にはなれなかった。

 

 あいつだけ、おかみさんからポケモンを貰って。あいつだけ褒められて。許せなかった。

 

 また、私の前に優れた奴が出張ってきて、私をダメな奴だと教えに来たのかと。

 

 でも、そいつを倒さないと、私にはもう、逃げ場はどこにもない。私は絶対に負けられなかった。

 

 次の試練ではクッソつまらなそうに、キノコを譲ろうとしてくるし、とにかく腹が立った。

 

 そして負けた。でも譲ってもらう気はさらさらなかった。

 

 島を駆けずり回って、ようやく一つ手に入れた。馬鹿みたいに必死になったのはアイドルのレッスン以来かもしれない。

 

 あいつが褒め称えられているところに、私は間に合った、本当にギリギリに。

 

 なんとか、私は次に進んで、あいつと雌雄を決することになった。

 

 そこで私は卑怯な手を使った。何がなんでも負けたくなくて。

 

 でも、バラ撒いたどくびしは、初手で出された例のドラゴンポケモン……ムゲンダイナに吹き飛ばされるし、無双されるし、そのあとダイマックスしたヤドランがなんとか先制して、倒してくれたけど負けるしで、散々だった。

 

 でも、あいつ、ユウリは何故か笑って、しかも私の反則をチクらないとまで言った。

 

「え、な、なんでよォ?君に勝つために……あんな卑怯なこと……」

 

「私に勝つためにここまでした人はいませんでした……そこまでして勝とうという意思、最後まで抗う心、凄い、凄いですよ、私、見たことない!それに、弱体化や疲労があったとはいえ、あのムゲンダイナを倒したんです!クララさん!それは凄いことです!良いんです!それで!」

 

 私は、初めて認められた。

 

 ガワじゃなくて、中身を。

 

 島で初めて見た、ユウリの笑顔だった。

 

 そりゃ、勝てないわけだ。

 

 自分でも流石にどうかと思った反則、それに往生際の悪さは、ユウリにとっては新鮮だったらしい。

 

 師匠には流石に咎められたけど、師匠も私を認めてくれた。

 

 私は、チヤホヤされたかったんじゃなかったんだと、ようやくわかった。

 

 ガワじゃなくて、自分のことを見て欲しかったんだと。

 

 そのあと、今更ユウリがチャンピオンだったことを知った。以前私が馬鹿にしていた子供の一人が、夢を叶えていた。

 

 私にも、夢が出来た。

 

 今度はジムリーダーとして、ユウリと戦いたいと思った。

 

 自分のジムを持って、ユウリと正面から戦いたいと。

 

 私を救った奴に最高の舞台を用意しようと。

 

 なにせ、バトルかポケモンと接してる状況以外では魂が抜けたような状態で、師匠の夫婦仲が良いのを見るだけで無表情になるし、放っておくとすぐに引きこもる。

 

 デカイ家みたいなこの道場に来てなかったら、本当に何してたか分からないような気がした。

 

 まさか、その沈んでる理由がただの失恋で、道場にその相手が来ただけで、別人みたいに回復した時は、私は何のために夢を見たのか馬鹿らしくなったけどさ。

 

 まあ、それでも私は自信を持って、ちゃんとジムリーダーとしてまた戦いたかった。

 

 師匠とも、そしてユウリとも。

 

 立派になって、それを見せたいと思った。

 

 そんな夢を見た。

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