「い、今、なんて……」
ホップとソニアさんは凍りついた。
「分かりやすく言うね、子供の命か、私の願いか、どっちかを選んで」
「ユ、ユウリ、それってどう言う、こと?」
ソニアさんの手は震えている。
「協力できるでしょう?でも可哀想だから、10年の猶予をあげる。どちらに転んでも、最低10年は過ごせるように、ね」
その手を優しく握って微笑む。
目眩がして、胃の中身が全て逆流してしまいそうだ。
思っていることを全て口に出してしまえば。
「私の味方になって。じゃないと、子供の命だけじゃ、済まない。ブラックナイトをもう一度起こすくらいは出来る、ガラルのエネルギーをもう一度励起させる目的なら、委員長も納得するよ、ハッタリじゃない」
「そ、そんな」
「もう、私は死ねない。ザシアンの剣も、ザマゼンタも持ってるのはホップでしょ?ホップが許さない限り、私は死ねない。でもホップには私を殺せないでしょう?このままだと、ずっと生き続けないといけないよね?」
「お、俺は……」
「ありがとう。二人とも、私を生かし続けてくれて」
「……ごめん、ユウリ……私……ホップのこと、貴女から……」
「良いんだよ、悪くないよ。ソニアさんも辛かったんだよね……でもさぁ、ホップ」
「な、なんだ……?」
「私も赤ちゃん欲しいなぁ」
「な、何を……」
「そうだ、今から作ろうよ、そうしたら私も一人じゃなくなるでしょう?どうやって作るのか知らないからさぁ、ソニアさんが側で教えてくれないかな?子供の作り方を手取り足取り」
「何言ってるんだユウリ……!」
「……く、ははっ、冗談、冗談だよ。私の体だと、そんなの無理なの、知ってるよ、だって成長止まってるんだからさ。いっぱい調べたんだよね。何を調べても同じだったよ、もう、未来永劫、私に家族は出来ない。あ、家族は血の繋がりだけじゃないとか、そう言うの良いから。……ソニアさんなら分かるでしょ、どんな気分か。だって、子供できたのつい最近だもんね」
「ユウリ……ごめん、ごめん……」
「良いんだよ、どれだけ幸せになっても、二人が頑張って乗り越えて来た証だもの、それはすごく素晴らしいことだと思うよ。でも、私にはもう、手に入らないからさぁ。絶対に手に入らないって思うとどうしても欲しくなるよね?まあ、事故で死んじゃってたら、こんな風に思うこともなかったと思うんだ。あ、そっか、私、みんなにとっては死んじゃったのと同じだったもんね。仕方ないかな?」
「仕方ないことなんか、ないんだ、ユウリ、俺が、俺が間違ってたんだ……成功を焦って、あの計画を立てたのは俺なんだ……!実験を立案したのも、実行したのも、失敗したのも、俺が自分でやったことなんだよ……!俺が……ユウリを勝手に生かし続けたんだ」
「流石だぞ、責任転嫁しないんだね、でもさぁ、ホップ。私、全部許すって言ったよね?忘れちゃったかなぁ?私が聞きたいのは、懺悔じゃないんだよね」
「頼む、許さないでくれ……それじゃあ、俺は……」
「私、全部許してあげるの。二人の罪悪感を晴らしてなんてあげないし、裁いてもあげない。何もかも無条件で肯定するよ、二人とも生きてて良いんだよ。みんなみんな、仕方ないことだからね」
「ごめん、ごめんなさい……ユウリ、私達は……何もかも勝手で……」
「もう良いんだよ、二人は悪くないよ」
「俺たちは……どうしたら」
「簡単だよ、わたしの願いを叶える手伝い、協力して」
「そうしたら、私達の子供は……」
「だから、私の願いをとるか、子供の命や自分たちのこれまでの人生をとるか、選ばせてあげる。まあ、さっきから黙ってるシャクヤみたいに、過去を改変する気がなくなるように頑張ってくれても良いよ、それができるのならね、ねぇ?シャクヤ?」
「う……うん……」
シャクヤの顔は青ざめていた。
「もしかして、今更……何をしようとしてるか気がついたとか言わないよね?」
「……大丈夫。私は諦めない。ユウリにそんな事をさせないから。でもごめん、私は二人には何も言えない。ユウリを諦めた私が、ずっと諦めなかった二人に言えることないし」
「俺達は……諦めなかったわけじゃ……ないんだ……本当に起こす事を考えていたなら、俺は」
「ホップ、それ以上言ったら、ソニアさんにも、ユウリにも誠実じゃないっしょ。二人には止められないから私が勝手に言うけど、それだけはダメ」
シャクヤはホップの言葉を止めた。
たしかに聞きたくない言葉だったし、絶対に嬉しくない。
「……そう……だな」
「……まあ、二人にはまだ理由があるはずだよ、マクロコスモスでの研究が、このまま外に漏れたらどうなるか。ホップが恐れてたことは確実に起こると思うよ。言いたいこと、分かるよね」
「ユウリ自身が人質ってことか……」
「ねえ、私のこと、守ってくれないの?」
「……わかった」
「ありがと──」
「ユウリ!」
私は、ソニアさんに抱きしめられた。
「気付いてあげられなくて、ごめんね、こんなことさせて」
「違う、私が……私が悪いだけ、二人は何も悪くない……」
「そうしないと、いつか私達が子供に責められるから、なんでしょ?」
「違う……違う……」
「無理して、悪者みたいに振る舞っても、分かるよ。ちゃんと、話を聞いてあげられなくて、ごめんねユウリ。ユウリは怒っていいの。嫌なことは嫌って言って良いんだよ、我慢しないで」
「……そんなこと言ったって……何も変わらない」
「変わらなくても、私達には伝わるよ」
「……わたしは……」
「良いよ、何を言っても」
「なんでわたしだけ……どうしてこんな……私、何かしたの……?私が悪いからこうなるの……?」
「……誰も、悪いことなんて、してなかった。みんな運が悪かったんだよ」
「そんなの……認められない……運が悪かったなんて……どうにもならない……」
「仕方なかったんだよ」
「…………そっか」
私を包む腕をそっと引き離す。
「じゃあ、私の要求も仕方ないで済ませられるよね?」
「……え?」
「それで納得できるなら、ソニアさんの子供の命も、仕方なくて、運が悪かったってことになるよね?自分の時だけはそうじゃないなんて、言わないよね?」
「ゆ、ユウリ……ごめん、そんなつもりじゃ……」
「自分がどんなつもりでも、そういう風に考えてるってことだよ。良かったね、ホップが同じこと言ってたら、そもそも選択の余地なんて与える必要もなかった」
「私は……」
「私は私の境遇を仕方ないなんて言って、諦めない。だから、私と一緒に、正解が何なのか、考えてね」
震える手を握り、そう言い聞かせる。