ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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39 Title Of Mine

 

「……この部屋の窓を全て液晶画面に変えたのは誰ですか?」

 

 応接室の窓を開けようとしたローズ委員長は、なんとも言えない顔で此方を見た。

 

「ふ、くく、私、知らないけど」

 

「まあ、いいでしょう。重要な案件です」

 

「……何ですか?」

 

「研究に参加した二人からの意見ですが……どうやら我々の想定していたよりも、願い星の量が足りないようで」

 

「何故?予定通りだったら……」

 

「調べさせた結果、金目当てに非合法な手を使い、願い星を回収している者達、そしてそれらから、我々よりも高額で買い取る団体が現れています。ジムチャレンジャーや、願い星を見つけた者に被害が出ています」

 

「こっちの商売に喧嘩売ってくるなんていい度胸ですね、どこの奴ですか?」

 

「願い星を高く買い取っている連中は、他の地方から進出してきた団体のようです、島の外への経路を押さえているので、輸送もさせませんし、こちらは時間の問題でしょう、ですが、願い星を強奪している者達は、組織的なものではありません、個別に対応が必要です」

 

「本当に治安悪くなりましたね、ガラルも」

 

「……見くびられているのですよ、今のガラルは」

 

「大体、願い星じゃなくて、別のエネルギー源ないんですか?」

 

「ガラルマタドガスが生まれるような時代には戻れないでしょう。一度上がった生活水準を落とすのも、失った物を作り直すのも困難なのです」

 

「……で、カツアゲしてるチンピラを締め上げて、回収してくればいいってわけですか?」

 

「…それで解決するなら良かったのですが」

 

「まだ何か?」

 

「ジムチャレンジ。買取での回収、犯罪者達への対応…」

 

「らしくありませんね、簡潔に言って下さい」

 

「……彼らの参加によって、我々の試算は修正されました。ムゲンダイナを再生するのに必要な願い星は……10年では集まりません」

 

「……何……言ってるんですか?」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「……10年じゃ足りないなら、必要な期間は?」

 

「少なめに見積もって、200年程」

 

「冗談は顔だけに──!」

 

「悪戯をしようが、当たり散らそうが、この結果は変わりません」

 

「……ふざけるな……そんな期間、ジムチャレンジを継続させろと?いくらなんでも無理がある……お前が消えただけで、ここまでガラルが衰退したんだろ……それだけじゃない、私に利害のある人間がいなくなれば、下手をすれば自分すら消える可能性のある研究に、誰が手を貸す!」

 

「無理ではありませんよ、強い意志さえあれば、どんなことでも叶えられる、続けさえすれば。私の見た時間の五分の一です」

 

「……いや、おかしい、二人が参加しただけで試算が変わる!?そんな馬鹿な話があるか!少なくとも問題は無かった筈だ、お前だって最初は可能性があると言って……」

 

「……同じではないでしょう、貴女にだって、そのくらいのことは分かる筈だ」

 

「何が違う!」

 

「ムゲンダイナは、もう、かつての状態とは違います。戦うために願い星を吸収して形態を変化させ、貴女を蘇生するために、それを使用した。もはや本質からズレているのです。かつてと同じ、無尽蔵のエネルギーを引き出す存在に戻すには、彼が、そして私がかつて蓄積した量以上に必要になる」

 

「……違う……そんなわけがない……二人が子供を失いたくなくて、嘘をついているんだ……」

 

「貴女は彼らを信じないのですか?」

 

「お、お前が嘘を言ってるんだ、私を諦めさせるために!」

 

「私にはそうする理由がありません、貴女の望みを叶えるのが私の仕事です」

 

「なら、私の望みの通りに何でできない……!」

 

「失った物や、壊れた物を元通りにするには、最初よりも遥かに労力がかかる、当たり前のことです」

 

「ムゲンダイナ……アーゴヨンはどこにいる!口だけなら、いくらでも言える!今すぐに会わせろ!」

 

「今は、会わせるわけには行きません」

 

「何故だ!」

 

「ムゲンダイナは今、不安定な状態です。また自殺でもされて蘇生にエネルギーを使えば、次は確実に消滅するでしょう」

 

「……なんだよ……こうなったのは、私が生きることを選んだからって言いたいのか?」

 

「それを言うなら、"自殺しようとしたから"、"彼らを研究に引き込んだから"まあ、後者は誰かがいずれ気がついていたことでしょうが……」

 

「……私が悪いって言いたいんですか?」

 

「私にはなんとも」

 

「悪戯のお返しにしては、随分と大人気ないことをしてくれましたね……!」

 

「……誰かが言わないとなりませんから」

 

「……ホップ達からの伝言はそれだけ?」

 

「安心してください、彼らは今、必死に解決方法を探していますよ」

 

「口ではなんとでも言えます……先程のチンピラ達の情報を」

 

「……彼らから奪っても、足りないでしょうね」

 

「関係ない、それでもやらないよりはマシ」

 

「……貴女がそうしたいのならば、そのように」

 

「止めないんですね」

 

「そのために護衛をつけているのですから、どうぞお好きなように。情報は彼に伝えておきましょう」

 

「……そう」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 情報を頼りに、私はひたすら八つ当たりをした。

 

 ぶちのめしても良い悪人というのは実に都合が良かった。

 

 何かしていれば、何かしたような気になれた。

 

 それに何の意味も無いと分かっていても。

 

 ほんの少しの間は焦燥感を打ち消せる。

 

 正しいようなことをしていれば。

 

「……次の標的が来ます、良いですかユウリさん、合図をしたら──」

 

 シュートシティのはずれ、積荷の上から様子を伺う私に、無線からの声。

 

「必要ない」

 

 ニダンギルを腕に絡ませて、束を握り、願い星の取引現場へのこのことやってきたチンピラを上から襲う。

 

「な、なんだ!?」

 

「……今すぐ願い星を置いて消えろ、さもなければ、"聖なる剣"を生身で浴びることになるよ」

 

「ニダンギルを生身で!?ま、まさか──」

 

「なんでも良い、置け」

 

「ゆ、ユウリ様!?」

 

「……お前らは」

 

 例の私のファン達だった。服が違っても派手な髪型のままでは偽装の意味がないだろう。

 

「一体何をしてる」

 

「願い星を集めれば、金になるし……挑戦者が減ればユウリ様が喜ぶと思って……それにまともな暮らしが……」

 

「それで、ジムチャレンジャーから願い星をカツアゲ?そんなことしても、私はちっとも嬉しくない。金が欲しいならムシャーナでも捕まえてこい、あれは私の依頼だ」

 

「す、すまねぇ、もうしないからよ」

 

「人から取るな、次はない、いいな。願い星分の代金はくれてやる」

 

 他の現場でチンピラが置いていった現金を投げる。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「消えろ、取引相手はもう来ない」

 

「は、はい!」

 

 チンピラどもが去っていく。

 

 ……何が私のためだ、勝手に理想化した相手を理由にして、自分達の利益のためだけに動いているだけじゃないか。

 

 他のジムチャレンジャーの被害も、私のせいだと言われている気分だ。

 

 でも、この人達がこうでもしないと暮らせなくなったのも……

 

「何もかも私のせいってわけか……クソが」

 

「……ユウリさん」

 

 追いついてきた護衛が何か言っている。

 

「放っておいて……暫く一人になりたい」

 

 どうやら、悪夢は眠らなくても見ることができるらしい。

 

 目覚めることを願った私が、なんとも皮肉なものだ。

 

 これがただの悪夢であることを祈るなんて。

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