ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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04 ファイター

「ユウリ?試合を見に行かない?」

 

 ある日、いつものように私を抱きしめて撫でていたマリィが、聞いてきた。

 

「試合?誰の?」

 

「私の。まあ、三ヶ月くらい先だけど」

 

 そう言って笑う彼女。

 

 私の知っている彼女と比べると、自然に笑うのがとても上手になったように思える。

 

「……」

 

 私は躊躇してしまう。何もかもが変わってしまったこの世界を知ることが、知ってしまうことが怖かった。

 

 そうすることで、もう二度と元には戻れないような気がするから。

 

「大丈夫。私、負けんから」

 

「……誰との試合なの?」

 

「チャンピオンのエキシビション」

 

 こともなげに言うマリィ。恐ろしくは無いのだろうか。相手はチャンピオン、ガラルにおいて"最強"の象徴な筈だ。

 

 それなのに、負けないと堂々と言ってのける。彼女の扱うタイプは悪がメイン。私が知っているままなら、弱点を突かれれば容易に瓦解するチームだ。

 

 ……流石に20年も経てば、メンバーも変わっているだろうか?

 

「本当に勝てるの?」

 

「んー、来てくれたら、勝つばい」

 

「……意地悪なこと言うね」

 

「そりゃ、悪タイプの専売特許だし」

 

「ねぇ、今は──」

 

 今は一体誰がチャンピオンなんだろう、20年も経っていれば、流石に選手層は変わっているだろうし──

 

 そう言いかけて、なんだかんだ私も戦うのが好きだったのかもしれない、と気が付いた。

 

「どげんした?」

 

「……なんでもない」

 

 むしろ私にはもう、それしか残っていなかった。

 

 何もかもが無くなって、変わって、置いていかれてしまったとしても、私にはその"私"が残っている……のかも知れない。

 

「それで、どうする?」

 

「……行く」

 

「じゃあ、その為に、リハビリ頑張らんとね」

 

「……うん」

 

 私はそうして、外へ出る事を決めた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 少し時間は掛かったけれど、私は何とか一人で歩ける程度には回復した。

 

 杖が必要だけれど、それでも歩けないよりは遥かにマシだ。

 

 自転車には、もう乗れそうにも無い。まあ、今の私にはあまり必要なさそうだった。

 

 最初に部屋の外に出て、自分のいた場所が自宅だと聞かされた時は驚いた。

 

 以前の内装は見る影もなかったからだ。

 

 母がいなくなって暫くというのは本当らしい。

 

 家を覆っている荊は随分と増えたように思える。

 

 スボミー達の姿はもう、何処にも無かった。

 

 変わらなかったのは私の部屋だけ。

 

 そのままになっていた。ずっと、子供部屋のままに。

 

 貼られていたポケモンのポスターは色褪せていたけれど、変わらずそこにあった。

 

「ホップ……私のポケモンは……?」

 

 彼らのことを考えもしなかったのは、他のことを気にかける余裕が無かったからだろう。

 

「……ザシアンはいつのまにか、ボールから出て、何処かに行ってしまった。他のポケモン達は……それぞれジムリーダー達が預かっているぞ。彼らも選手だからな、戦いたかったらしい」

 

 ホップはバツが悪そうな顔をしてそう言った。

 

「……私のところに帰って来てくれないかな」

 

「……ユウリ」

 

「わかってる。長い間、別のトレーナーのところに居るんだし、ジムリーダーのチームにいるなら仕方ないよ。今更急に抜けて、なんて言えるわけない……そうでしょ?」

 

「……ごめんな。ずっとボールの中に居続けるよりは良いと思ったんだ。彼らも嫌がってはいなかったから」

 

「わかってる、でも一匹くらいは待っててくれても良かったのに」

 

「……それなんだが、いるぞ、一匹だけ」

 

「……え?」

 

「……まあ、もうそんな力は残って無さそうだからな」

 

「どういうこと?」

 

「見ればわかるさ」

 

 ホップが手渡したボールから、ポケモンを繰り出す。

 

「──」

 

 不思議な音色の鳴き声を上げ、飛び出したのは紫色の身体に、楕円の頭に針を持つポケモン。

 

「だれ……?」

 

「こいつは……ムゲンダイナ……だったものだ」

 

「──!」

 

 そのポケモンは私の胸に飛び込んできた。

 

「えっ……?え?」

 

「こいつは事故が起きてからずっと、ユウリを守っていた。どれだけ時間が経ってもずっと。何を言っても動こうとしなかったんだ」

 

「でもこんなに小さく…」

 

「──?」

 

 それは首を傾げて私を見上げる。

 

「少しずつ力を無くして、ベベノム……というポケモンに似た姿に変わったんだ。進化系なんじゃ無いかと言われていたが……まさかな。皮肉なことだが、お陰で俺の博士論文にも役に立ったんだぞ?」

 

 ホップは苦笑いしながら、自嘲気味に説明した。

 

「そう……なんだ……」

 

 ムゲンダイナ……だったものは私の腕の中で、嬉しそうにはしゃいでいる。かつての姿からは想像もできない表情だ。

 

 皮肉と言ったけれど、私の協力が結果的に彼の為になったのなら、それでも構わない。

 

「ありがとう、私を待っててくれて」

 

 ふと、目から涙が溢れた。

 

「──?」

 

 ポケモンの小さな手が、私の頬を伝う滴を拭う。

 

 例え、事故の原因だったとしても、この子だけは、待っていてくれた。 

 

「ありがとう」

 

 私は絶対にこの子を置いていかないと決めた。

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