ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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45 angel fall

「ここで問題です」

 

「え?」

 

「僕の好きな色はピンク、紫色のどちらですか?」

 

 理不尽な問題が来た……こう言うのまで継承してるんだ……私もやらないといけなくなるのは嫌だな……いや、やんないけど。

 

 しかし、どっちだろう。ポプラさんが好きな色は紫だったはず。

 

 ビートの家の屋根に生えていたのも紫色。

 

 昔着てたコートも紫色に近い色だった。

 

 だけど、それじゃあ簡単すぎる。ビートの性格を考えればそんな正直な回答は求めてない──!

 

「ピンク!」

 

「残念、紫色です。裏ばかり見ようとするのは良くありませんよ。表も真実です」

 

 にこやかなビート。

 

 く、くそ、深読みし過ぎたか….…いや、好き嫌いだから私の読みとか関係ないか……

 

 裏ばかり……ね。

 

「というわけで、ランクルスの防御能力を下げさせてもらいます」

 

 当たり前のように道具も使わず、ポケモンの能力を操作するビート。

 

「……やっぱりそれ反則」

 

「いいんですよ、別に道具を使っても」

 

「対等じゃないでしょ、それは」

 

「そうですか、さあ行きますよ!ギャロップ!相手は大物です!」

 

 繰り出される三体目はギャロップ……やっぱり彼の手持ちに昔からいるポケモンだろう。

 

 長い年月と熟練の気配、そして気品を感じさせる。……でも本当に、偏ったタイプのパーティだ。

 

 ジムリーダーとしては正しいんだろうけど。

 

「ランクルス、多分次、耐えられないね」

 

「──!」

 

 野太くなった鳴き声で返事するランクルス。

 

 ダイマックスをしておいて引くことはできないし、こちらのランクルスじゃあ、ギャロップの速さには対応できない。

 

「ギャロップ!メガホーン!」

 

 真っ直ぐに突撃し、ランクルスを打ち倒す。

 

 また、爆風と歓声が響いた。

 

「……捻くれ者だったのに」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ありがとう。行って!ドクロッグ!」

 

 私が有利なように見えるけれど、手の内を晒している以上、読まれる可能性は増えている。

 

「見せないつもりですか。ギャロップ──」

 

「……どうかな。ドクロッグ──」

 

 私のドクロッグがどの程度の速さなのか、大体分かってるはず、お互いに弱点を突ける以上、先に刺した方が勝つ。

 

 ──だから。

 

「ダストシュート!」

 

 本来なら、私のドクロッグが速度で勝つことはないだろう。だけど、一回の出番で"一つの技だけを"放つことに集中していれば──その限りではない!

 

「っギャロップ!躱せ!」

 

「見るな!私の声を聞けドクロッグ!」

 

 素早い動きで翻弄するギャロップ。

 

 だけど、私には見えている。次の動きが。

 

「今だ!そこで右に出る──!」

 

 ギャロップが回避行動をした先、その僅かな隙に向かってドクロッグは跳ね、紫色の塊を直接叩き込む。

 

 そして、また一撃で相手を仕留めた。

 

「なるほど、ですがその子の手の内は分かりましたよ」

 

「へぇ、分かったつもりじゃなくて?」

 

「なら、問題を出しましょう。僕は次にどのポケモンを繰り出すでしょうか?」

 

 分かりきってる、ビートが分かってるなら、そんなのは簡単な問題だ。

 

「……クチート」

 

「正解です!さあ!魅せますよク──」

 

「──ドクロッグ交代ゴチルゼル!」

 

 分かりきってるからこそ、対処がある。

 

 繰り出されたクチートは、背を向けて牙を剥き、威嚇する。

 

「──ッ!!」

 

 凄まじい練度のポケモンは、たとえ体が小さくとも、とてつもなく大きく見える。

 

 まるでほんの一瞬ダイマックスでもしたのかと錯覚させるほどに。

 

 それを見れば大概のポケモンなら萎縮するか、怯えを感じる。

 

 だけど、そう言った感情の変化に反抗するポケモンもいるのだ。

 

 私の出したゴチルゼルはクチートの威圧に対して、堂々と立ち、そして怒りを露わにした。

 

「──!!!!」

 

 感情が力を左右するポケモン、とりわけエスパータイプの彼女なら、どんな威圧だろうと逆に力にしてしまう。

 

 それだけじゃない。

 

 彼女に与えたビビリ玉が彼女の感情の変化を感知して、電気信号を与え、その神経を活性化させる。

 

「ゴチルゼル……僕がユウリの手を理解したことを読んで……素晴らしい!ピンク足りてます!というわけで攻撃能力をぐーんと上げてあげましょう!」

 

「……え?」

 

 ビートがフェアリーのよく分からない力でゴチルゼルを更に強化する。

 

「…なんだっていいけどさ、もう私のゴチルゼルでみんな倒せるんじゃないかな」

 

「いいえ。強い敵を倒してこそのエンターテイメント!覆しますよ!さぁ!クチート──メガシンカです!」

 

 ビートの右腕に隠れていた白い腕輪が光る。

 

 またか──!

 

 紫色の殻を破り、光の中から現れるのは、一回り大きくなり、大顎が二つに増えた姿。

 

 体の模様が変わり、まるで巫女装束のようになっている。

 

 その身体には力が漲っているようだ。

 

 スタジアムがざわめく。

 

「僕もまた、ポプラさんから継承した者です。まあ、これは教わったわけではありませんがね」

 

 試合の映像では使っていなかった。

 

 ……クララさん含め、最近使えるようになったのか、メガシンカとやらは。

 

「……なんなの、それ……」

 

「ポケモンとの絆の力ですよ。そして科学の力でもある」

 

「自分だけ先に進んで、違うことをして、ほんとズルいよね──」

 

「やっと追いついたんです。ずっと先を歩いていた貴女に。対等に立つにはこうするしかありません──」

 

 私に勝つために、どんな手でも使う。正しいと思う。でも、クララさんと違って腹が立つのは……やっぱり置いていかれた気がするからかな。

 

「ゴチルゼル、十万ボルトで吹き飛ばしちゃって!」

 

「クチート──」

 

 普段の三倍近いエネルギーが電気に変換されて放たれる。

 

 効果の薄いエスパータイプの技よりもこちらの方が最適だ。

 

 ゴチルゼルの激しい電撃が機先を制して瞬き、動き出したクチートを直撃する。

 

 見た目通り、そこまで速くはない。反応速度が強化された彼女の攻撃を躱すことなんて出来ないだろう。

 

 強化されたとは言えあの一撃を受ければひとたまりも──

 

「──おしおきです!」

 

「なっ──」

 

 電撃を正面から突破し、大顎の力で跳ねるように接近し、その凄まじい力を叩きつけるクチート。

 

 真っ直ぐで力強い技、しかも相手の力が増しているほどに威力を発揮する不可思議な……普通なら使い道があまりない……彼だと使いやすいんだろう、なんせ操作できるんだし。

 

 真正面から強引に来ると、回避できる機動性を持っていないポケモンにはどうにもならない。

 

「痛いけど、許して。予想外だった」

 

「──!」

 

 ゴチルゼルは納得して、倒れていった。

 

「……強いね。でも電撃も食らって、次は耐えられるかな──ウルガ」

 

「──クチート交代クレセリア!」

 

 私がウルガモスを繰り出す瞬間に、ビートは素早くクレセリアに交代させる。

 

 スタジアムの光を反射して煌めくピンク色のその羽。

 

 写真で見た子だ。でも私を見ても表情は変えなかった。

 

「……いや、エスパータイプじゃん」

 

「ピンクですから」

 

 ピンクなら仕方ないな。

 

「……そ。にしても私の真似とは」

 

「そう何度もできませんが、練習したんですよ。完璧には読めませんが」

 

 ……それで追いついたとでも?相手が何を出すかわかってるから、交代時交代の意味がある。

 

「それじゃ、片手落ちだよ!ウルガモス!虫のさざめき!」

 

「構いませんとも──」

 

 ウルガモスが羽を振動させ、強烈な音波を放つ。

 

 それを受けたクレセリアは、かなりのダメージを負っているはずなのに、なんともないように佇む。

 

「これは痺れますよ!電磁波!」

 

 放射状に放たれた電気の波が、ウルガモスを麻痺させる。

 

「面倒な……」

 

「それだけじゃありません」

 

 クレセリアは隠し持っていたオボンの実を食べて体力を回復する。

 

「正直なだけだと思ってた……やっぱり面倒臭いのは変わってないんだね──」

 

「僕は変わってません。ただ、ほんの少し大人になっただけです──」

 

「舞台を整えましょう!トリックルーム!」

 

「ウルガモス、動ける?」

 

 クレセリアが空間を歪ませ、書き換える。

 

 ウルガモスはまだ、痺れて動けないらしい、下げるべきか……いや、ここは下げない。

 

 私はここで引くべきじゃない!

 

「さぁ!演目を始めましょう──」

 

 大袈裟な動作で、手を広げるビート。

 

「三日月の舞」

 

 クレセリアが中空へ飛び上がり、ピンク色の羽が瞬く。

 

 三日月の羽が散って煌めく。

 

 スタジアムの天井を一瞬で書き換え、満天の星空を描き出す。

 

 空に描かれた青白い三日月から、スポットライトのような光が彼女を照らし、その下で、緩やかながら大きく、そして円を描くような動きで舞うクレセリア。

 

 そして何故か同じように、酔歩するように静かに踊り出すビート。

 

 私はあっけに取られてしまった。試合中だったはずなのに。

 

 歓声も悲鳴も聞こえなかった。

 

 間違いなく、今この場を制しているのは、彼だった、それを可能にしているのはクレセリアの計り知れない能力と、彼女を制御するビートの練度だった。

 

 圧倒的なものを前にすると、人は動きを止め、ただ鑑賞することしかできなくなる。

 

 私はただ、その演技を見ていることしか出来なかった。

 

 緩やかな動きは次第に激しく、力強く変わり、テンポが早くなる。

 

 そして跳ね回るように空を駆け、その軌跡が中空の淡い光となって残る。

 

 描いた星空の三日月へ飛んだクレセリアは天井の光に触れると、星の輝きがスタジアムを満たした。

 

 その光を浴びながら、静かに地上へ降りてくるクレセリアは、私の元に来て一礼するように頭を下げると、ビートの元へ戻り、体から光を彼の持つボールに注ぎ込んだ。

 

「ありがとう、クレセリア」

 

「っ──ウルガモス!動いて!クレセリアに──」

 

 我にかえった時には遅かった。クレセリアは自分の体力を全て注ぎ込み、戦闘不能になった。

 

 ウルガモスは攻撃する相手を失い、立ち往生する。

 

「──行きますよ!再登場です!」

 

 そして、繰り出される、万全な状態のクチート。

 

 ダイマックスと違って、一度手元に戻しても状態は元に戻らないらしい。

 

 彼女もまた、クレセリアがしていたように、優雅にお辞儀をした。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 書き変わっていた天井が元に戻り、観客達の声がまた響き渡った。

 

「……やられた」

 

 場を整えられた。それだけじゃない、観客の目は完全に釘付けだ。

 

 ただ、強いだけじゃない。私に彼を、そして、彼のバトルを見せつけられた。

 

「どうでしょうか、ユウリ。これが、アラベスクジムですよ」

 

「……凄いね。多分、私にはできない──」

 

「出来ますよ、誰にだってね──」

 

 あっさりと言い切るビート。自分の才能がどんなものなのか分かって言ってるんだろうか。

 

 私にはあんな戦わせ方、思いつかない。

 

 ……ちょっと少女趣味過ぎるけどさ。

 

「ストーンエッジです!」

 

「避けながら炎の舞!」

 

 ウルガモスは旋回しながら炎を纏い、クチートが、地面を穿って隆起させた岩を躱しつつ、いくつもの火球を放つ。

 

 さっき見せられた舞には及ばないけれど、これで──

 

「見せ場ですよ!クチート!飛び込みなさい!」

 

 片方の大顎が岩を掴み、もう片方の大顎で跳躍したクチートは、自分が変えた地形を利用してウルガモスの上に跳び、叩きつけた。

 

 墜落しながらも、炎で抵抗したウルガモスは、クチートを僅かに消耗させ、そのまま戦闘不能になる

 

「ありがとう、頑張ったね……そっちのは随分力持ちなんだね」

 

「ええ。その通りです。可愛らしいだけではありません」

 

「力持ちなら、こっちにだっているよ──ホルード!」

 

 繰り出したホルードは話を聞いていたのか、発達した強靭な耳を自慢するように見せる。

 

「可愛くはありませんね──」

 

「前は可愛かったんだよ──」

 

 歪んだ空間の中じゃあ、クチートの方が手が早いだろう……手じゃなくて顎か。

 

「クチート!瓦割りです!」

 

「ホルード!堪える!」

 

 一瞬で距離を詰め、振り下ろされる大顎。

 

 ホルードは腕を組んだまま、巨大な耳でそれを受け止め、衝撃で足元が沈む。

 

 たった一撃で、余裕はもうなさそうだった。

 

「クチート!掴まれているなら──」

 

 次の技は地球投げか──

 

「ホルード!」

 

 私の声を聞いたホルードは、イバンの実を噛み砕き、集中する。

 

 耐えて、たった一度でも、先制できれば良い!

 

「──地震!」

 

 掴んだまま地面に叩きつけるホルード、その衝撃は私の足元すら揺らした。

 

 クチートはそのまま戦闘不能になった。

 

「きのみ……ですか。トリックルームへの対策も欠かさないとは、素晴らしい。流石ですね」

 

「褒められても嬉しくない、この間と対して変わらない対処だし」

 

 全身全霊の技を放った後、ホルードはそのまま倒れる。

 

「でもお疲れ様、ここで倒せたのはファインプレーだったよ。さあ、最後だよ行って、ドクロッグ」

 

 歪んでいた空間が元に戻る。

 

「さて、問題です。……次に僕が出すポケモンは、鋼フェアリーのポケモンです。さて、なんでしょう」

 

「……クチート」

 

「残念ハズレです。同じポケモンを出すジムリーダーは居ますが、僕は同じことをするほど素直じゃあ、ない。さて、防御能力を下げますよ」

 

「じゃあ、何を……」

 

「答えは──ザシアン」

 

「……え」

 

 信じられなかった。

 

 ホップの家でただの犬と化していたはずのザシアンは、私の向かい側で剣を構え、力を解き放った。

 

 圧倒的な存在感はスタジアムを震わせるのに、ダイマックスなんて必要としない。

 

 スタジアムは再び困惑にどよめいていた。

 

「嘘……でしょ?」

 

「いいえ、本当です。彼女は自分の意思で貴女を止めるために来た」

 

「……っ」

 

 ザシアンの持っている剣と、その立ち姿を見ていると、あの日の痛みがフラッシュバックして目眩と吐き気がする。

 

 もうとっくに治っているはずの傷口が痛む。

 

「僕は、オブラートには包みません。試練を与えるのが僕の役目です、打ち破れないのなら、貴女にこの先に進む資格はない」

 

「……正しいよ……私を止めるならそれが正解だよ……罵倒より、優しくされる方が辛い……理解されないより、理解してる相手を倒す方が……!」

 

「貴女を苦しめるつもりはありませんよ」

 

「嘘つけ、捻くれ者め……私を止めるためにわざとそうしているんだ、そうじゃないと困る……ドクロッグ──!」

 

「ザシアン、巨獣斬」

 

 先制して飛び込んできたザシアンがドクロッグを一刀の下に切り捨て、戦闘不能にする。

 

「……本気なんだザシアン……良いよ、そっちがその気なら仕方ないよね。家に返してあげる──メタモン」

 

 繰り出したメタモンは、ザシアンの姿、能力をコピーし、そして同じように剣を咥えて力を解き放つ。

 

「……ビートにここまで追い詰められるなんてね。……本当に大人になったんだね。でも、私が勝つ──」

 

「ザシアンの手を借りるのは大人気ないですがね──」

 

「「巨獣斬!」」

 

 同時に飛び出すザシアンと偽物は、鏡合わせのように同じ動作で剣を振り上げ、斬り合う。

 

 剣閃が火花を散らし、何度も何度も、硬質な音が響く。

 

 全く同じ能力、けれど次第にその差が明らかになっていく。

 

「ザシアン!貴女の力こんなものではないでしょう!」

 

「メタモン!力は同じだよ!」

 

 向こうの剣は眩い光を纏う、こちらには鈍い光沢しかない。

 

 流石にそこまでは模倣できないらしい。

 

 剣戟の速さは増していく、私にははっきりと見えている。

 

 相手の方が、少しだけ早い。

 

 いくら能力を模倣しても、それを遥か昔から使い続けていた者の方がそれ使いこなせるのは当然だ。

 

 私がいくらメタモンを訓練したとしても、それは覆せない。

 

「──!!」

 

 ザシアンの唸りが聞こえた。

 

 ……そろそろ限界か。

 

 僅かにズレ始めていた剣のリズムが、決定的にすれ違った時、ザシアンの剣がメタモンに命中した。

 

「ユウリ!これで終わりです!」

 

「……終わりか」

 

 吹き飛ばされるメタモン、それを追撃しようと迫るザシアン。

 

「ザシアン、ありがとう」

 

 剣が閃き、決着は訪れる。

 

「──私の勝ちだ」

 

 吹き飛ばされたザシアンは、何が起きているのか分からない様子だった。

 

 一撃を耐え、強烈な反撃をしてきたメタモンを驚いて見ていた。

 

「メタモン。巨獣斬」

 

 そこへすかさず振り下ろす必殺の剣。

 

 それを受けて尚、ザシアンは立っていた。

 

「いい加減、倒れてよ」

 

 メタモンがまた、剣を振るい、ザシアンは崩れ落ちる。

 

 それでも、もはや剣を振るう体力すらないのに、ザシアンは立ち上がった。

 

「やめて、倒れてってば」

 

 起き上がる度、メタモンは必死に弾き飛ばす。

 

 それでも、何度も、何度でも、ザシアンは剣を構えて立ち上がる。

 

「分かるよね、ザシアン!貴女は剣しか持てないけれど、メタモンはそうじゃない!剣の力もコピーできて、こっちは他にも道具が持てる!だから絶対に勝てない!もう諦めてよ!……私のことなんて諦めてよ!」

 

「ユウリ、僕たちはもう、貴女を諦めたりしません。これが僕たちの答えなんです」

 

「どうして──!」

 

「それは!僕がユウリのパパだからだ!」

 

 本当に、めちゃくちゃだ、こいつ。

 

「うるさい!父親にできるのは子供のために殺されることだけだ!メタモン!終わらせろぉぉぉぉ!!」

 

「ザシアン!僕たちの思いを──!」

 

 残された体力を振り絞って飛び出すザシアン。

 

 振り抜く一撃が交差して、私の目の前にザシアンが辿り着く。

 

 分かりきっている。私の思考が答えを伝えている。

 

 勝敗がどうなるかなんて。

 

「……もう、やめてよ」

 

 ザシアンに手を差し出そうとした。

 

 その目は、私をまっすぐ見つめていた。

 

 その脚は震えていた。

 

 戦いに怯えていた彼女が、私を止めるために。

 

 私の命令じゃなく、自分の意思で。

 

「……ごめん」

 

 私の声は、沸き上がった歓声の中に消える。

 

 私を止めようとした青い狼は、無念そうに倒れ臥す。

 

「勝者、チャレンジャー、ユウリ!」

 

 限界を超えたメタモンは、宣言の後に戦闘不能になった。

 

「あ、あぁ、あぁぁぁぁ!!」

 

 倒れたザシアンは何も言わない。

 

 そうだ、私は勝利を掴んだ、それで良いじゃないか、それが正しいんだ。

 

 ホップの答えを聞くまで、私は止まらない、負けるわけには行かない……負けられない、だから私が選んだのは……正解だ、私は正解を選んでいるんだ……

 

 そうじゃなきゃ……私は。

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