「いよいよ!ガラル地方の祭典、ジムチャレンジの始まりは目前です!」
来賓席から眺める景色、いつか、スタジアムで聴いた言葉と同じ台詞。あの日と変わらない熱気と歓声。少し新しくなった施設が照明を反射して、眩しいくらいに輝いていた。
真新しい芝生の上に立つ司会者はいつか見た中年の委員長──ではなく、ワインレッドのテールコートを着た浅黒い壮年の紳士。
「ですがその前に!」
司会者、その声からして恐らくは歳をとったダンデさんが入場口を指さす。
「本日はチャンピオンによる、エキシビションマッチを行いたいと思います!」
一気に加熱するスタジアムの歓声。それを一身に浴びるのは──
「チャンピオン、マリィの入場です!」
「え!?」
堂々と芝生の上を歩く彼女は、臍を露出しているセパレートの黒いユニフォーム、その胸には剣と盾のマーク。そして私の知るチャンピオンが纏っていた物と同じマントを、風にはためかせる。
そしてスタジアムの中心に立つと、私のいる場所に向かって、手を振った。
「……だから負けないって言ってたんだ」
ものは言いようだな、と思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
宣言通り、彼女は負けなかった。
形式は3vs3のシングルバトル。
相手は知らないトレーナーだった、岩タイプのジムリーダーらしいけど、使っていたのは殆ど化石ポケモン、マクワさんと同じなのは切り札のセキタンザンくらいだった。
てっきりチャンピオンは、キバナさん辺りが出てくるものかと思っていた私は意表を突かれた。
考えてみればそれほど不思議でも無い。
ジムチャレンジで挑戦するジムは、実力順に決められていた。
つまり、私の世代で7人目だったネズさんはダイマックスなしでその順位にいた訳だ。
彼がマリィを後任にしたのだから、当然他の6人のジムリーダーより弱いはずが無い。
加えて彼女はダイマックスの使用を躊躇わない。
ならば、実力的にチャンピオンになったとしてもおかしくは無い。
……キバナさんが倒せるのであれば。
彼女のエースはオーロンゲ、確かにドラゴンタイプ相手には強く出られるかもしれない、けれど彼の手持ちは殆どがフェアリータイプの対策をしているし、なによりキバナさんのジュラルドンとは相性が悪い。
対策には彼女が扱える、かつ、ジュラルドンに対抗しうるポケモンが必要……なんて私の心配は杞憂だった。
マリィは以前とは比べ物にならないくらい強くなっていたからだ。
岩タイプのジムリーダー相手に繰り出したのが同じく岩、そして彼女の専門でもある悪タイプを持つバンギラス。
他のジムリーダーと違って初手からダイマックスを行い、ダイマックスが終わる時間内に倒し切ると宣言。
実際、その一匹で全て薙ぎ倒してしまった。
相手が弱かった訳じゃない。
時代が変わったのだと、私は知った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
かつて自分が立った筈の場所が果てしなく遠く離れ、置き去りにされていた。
でも、それはホップやソニアさん達に感じた感覚とはまるで違う悔しさ。
まだ、戦いたい。いや、またあの場所に立って戦いたい。
自分の胸に、何か燃え上がるような、焦がれるような思いが湧き上がっているのを自覚した時。
私はもう一度、最強というものを目指してみることにした。
本当の願いは、もう叶わないとしても、あの日彼から貰った夢の続きは、まだ此処にある。
馬鹿な考えだと思う、古い夢を一人で追いかけることになるのは間違い無い、辿り着いたところで彼が後から来てくれることなんてありえない。だけど私は。
そんな景色に夢を見てしまったのだ。