ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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「本日はガラルを救った英雄とも言われるユウリ選手とお会いできて何よりです!」

 

 応接室で向かいに座った女性記者の笑顔。

 

「……英雄?どこが」

 

「先日の事件、ダイマックスが暴走する最中、たった一人で立ち向かう姿を各地で記録されています!ジムリーダーの皆様よりも貢献しているとも!」

 

 端末からあの日の映像を見せてくる。

 

 一体いつ、だれが撮影したものなんだろう。

 

 あんなタイミングで都合よく……?

 

「……そんなこと、ないよ。私はただ……やらなきゃならないことをした、それだけ」

 

「なんと謙虚な!試合中のユウリ選手からは想像もつきません!」

 

「……試合は試合、でしょ」

 

「そうですね!その試合のおかげでガラルリーグは再び息を吹き返したとも言われています!」

 

「委員長がうまくやってる。私は試合してるだけ」

 

「ユウリ選手の試合を見て願い星を手に入れたファンが数え切れないほどいるんです!これは凄いことですよ!」

 

「……そう、なんだ」

 

 私が必要としているのはまさしく星の数、到底及ばない。多少増えようとも。

 

「ああ、そうでした!ユウリさんにお届け物を預かっていまして!」

 

「……なに?」

 

「ラテラルタウンから届いたようなのですが」

 

「……サイトウさんかな?」

 

「こちらです」

 

 渡されたのは透き通った丸い宝玉……のようなもの。

 

 願い星とは違い、澄んだ光を湛えている。

 

「一応検査も受けているので危険物ではないと思います!あとはメッセージカードのようなものも」

 

 カードに書かれた文言は一言。

 

『どのような道でも、必ず辿り着ける』

 

 一体、誰なんだろう。サイトウさんじゃあ、なさそうだけれど。

 

「……一応、受け取っておくけど、本来こういうのは……」

 

「ユウリさんに確実に渡せる"外部"の人間は、他にいませんから……ただ、私が言うのもなんですが、どうやって知ったのかは分かりませんので、お気をつけ下さい!」

 

 ……尚更、誰なんだろうか。

 

「それにしてもカッコいいですよね!」

 

「……何が?」

 

「たとえ足が不自由でも、杖を持って立ち向かう姿です!ジムチャレンジの道のりは決して楽な物ではないでしょう!」

 

「……それがカッコいいって?」

 

「はい!憧れ──」

 

「じゃあ、私みたいに自由に歩けないようになりたい?」

 

「や、その、それは」

 

「……私は、喜ばせるために杖をついてるんじゃないよ」

 

「し、失礼致しました!」

 

 その後の質問や言葉は空中を滑るようだった。いや、最初からそんなものだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ユウリさん?今の時間は仕事中──」

 

「都合が良すぎませんか?委員長?」

 

 社長室のデスクに新聞記事や雑誌を投げる。

 

 紙面に躍るのは、私を英雄のように祭り上げて褒め称えるものばかり。

 

 好意的な記事が描かれるような、そんな取材の対応をした覚えはまるでない。

 

 だから、そうなるとすれば。

 

「……都合の悪い情報を見たいのですか?」

 

「つまり?」

 

「今回の件に関して、会社や私を、或いは貴方を非難する内容の記事が全くなかったと思いますか?」

 

「だから都合が良すぎるって言って──」

 

「……マクロコスモスはガラル経済そのものと言っても過言ではありません。ですが対抗する相手がいないわけでもないのです、主に恩恵に与れない者達ですがね」

 

「じゃあ、そういう情報や記事はどこに?」

 

「見える場所にはありません、少なくとも表には出回らない」

 

「情報統制ですか、流石ですね」

 

「人が正しいと信じるものが事実になるのです」

 

「……一応聞きますけど、なんで都合よく映像が記録されて、戦ってる私の写真まであるんですか?」

 

「撮影できるように用意はしていました」

 

「まさか……委員長?」

 

「心外な。エネルギーと回収量から言えば、宣伝以外には──」

 

「釣り合いが取れるならそうすると?」

 

「何か問題でも?」

 

 何を言っているんだと言う顔。

 

 人々が強い願いを持てば良いのなら、危機的な状況と、英雄を演出すれば良い。

 

 彼が昔やったことと何も変わらない。

 

 実際効果的なんだろう、だけれど。

 

「ある……はず」

 

 今の私は実際に目の当たりにして、犠牲を許容も出来ず、今を認めることも出来ずにいる。

 

 それで、何が言える?

 

 結論も出せずに先延ばしにした。でも、もう被害は出てる。

 

 他者に犠牲を強いて……だからってそれをやめたら……もう、あの日には。

 

「私は……」

 

「引き伸ばしで良いのか、以前確認しましたよね?ユウリさん。貴女は自分でレールを敷いているんですよ?」

 

「許容しろって?」

 

「全てなかったことになるのでしょう?貴女から見れば」

 

「……結果が同じでも、それは……違う」

 

「人は結果しか見ていません」

 

「誰かが死ぬかも知れないんですよ!そうなったら──もし、誰かが、私のせいでそうなったら、私と同じ目に遭わせることになる!」

 

「…賛同者が増えますね」

 

「そうなったら、過去の改変は絶対にしなければ……しなければ……?」

 

「どうしました?」

 

 ……賛同者を増やすのにも手っ取り早いんだ、過去を変える口実には、同じ目に遭わせた方が遥かに楽なはず……なのに私は……。

 

「必要な犠牲ならば、仕方ありませんよね?」

 

「委員長だって!」

 

「それが?」

 

「……どうして」

 

「それが私の成すべきことだからです」

 

「ガラルを復興するんじゃないんですか!」

 

「その仕事は過去の私に任せましょう、今の私には時間が足りませんから」

 

「……私の願いのために死ぬってことですよ」

 

「多少の犠牲でそれが達成されるのならば、一向に構いません。その犠牲の中に自分が含まれようとも」

 

「どうして……そんな簡単に割り切れるんですか」

 

「何かを成す為にリスクを負うのは当然です」

 

「……っ」

 

「何度も言いますが、"でも、だって"を聞くのは私の仕事ではありません。貴女が私に言えるのは、計画を続けるのか、やめるのか、そのどちらかです。その是非を決めるのは私ではありません」

 

「……出直します」

 

 その背に見える景色全て、その為に。

 

 私は背を向けて、逃げ出した。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「ユウリ様ぁ!」

 

 呆然と街を歩いていると、例のファン達の声が聞こえた。

 

「……何?」

 

 振り向かず、歩き続ける。

 

「願い星!見てください!これ願い星です!」

 

「……そう、良かったね……え」

 

 誇らしげに見せてくる青年は、松葉杖をついていた。足を引き摺っていた。

 

「どうしたの…それ」

 

 他のファン達も少し怪我をしているのか、包帯を巻いていたり。

 

「なんでもないっすよ!」

 

「なんでもなくない!」

 

「えっ」

 

「どうして怪我してるの!」

 

「……あー、この間、ポケモン暴れてたじゃないすか、そん時俺たちワイルドエリア行ってて」

「洒落にならないパンクだったんすよー」

「あんな場所で修行してるとかユウリさん凄えなって」

「でも願い星はあったし──」

 

 好き勝手に喋る彼ら彼女達。

 

「どうしてそんなこと」

 

「ユウリ様が勝つようにお願いしたんすよ!強い願いなら願い星来るって!願い星来たら金も」

 

「ダメだよ、それで怪我したら──」

 

「これでお揃いすっよ!」

 

 "じゃあ、私みたいに自由に歩けなくなりたい?"

 

「違う……私じゃない」

 

 私のせいだ。

 

 願い星を集めているのも、彼らが願ったのも。

 

 本当に同じになって欲しいわけじゃない。

 

 そうなるのは、違う、違うはずなのに。

 

「これで俺たちの夢も叶う!全部ユウリ様のお陰で──」

 

 違う。

 

「私のお陰なんかじゃ、ないよ」

 

「ユウリ様?」

 

 もう、ずっとレールの上を走り続けている。

 

 私がそれを敷いている。

 

 私のせいで、被害を受けている人がもう既にいる。

 

 今、全部やめて、私が楽になってもそれは変わらない。

 

 出来たかもしれないことから目を背けて、知らない顔で笑って生きることなんて、出来るだろうか。

 

 私は。

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