「相打ちだな!」
その男は風の中、何一つ諦めることなく、そこで立っていた。
鼻から垂れたぬるりとした感覚を拭うと、それは手を赤々と染めていた。
「っサザンドラ!」
「頼むぞ!ジジーロン!」
訳がわからない。打ち負ける要素なんて何も見えなかったのに。
「「流星群!!」」
互いの流星は相殺し合って弾ける、それでもどちらが勝つなんて分かりきってる。
現に、サザンドラの流星が押し切ってジジーロンを直撃する。
それなのに。
「──!!」
ジジーロンは倒れることなく耐え切った。
そして、カウンターのようにたった一つだけ流星を呼び出し──
「サザンドラ避け──」
「ジジーロン!あてろ!!」
信じられない光景だった。
満身創痍で狙いもつけられないような相手が精密にサザンドラを撃ち抜いた。
力を使い果たし、二体は戦闘不能になる。
……そうか。
バトル中にポケモンの能力を操作するトレーナーがいなかったわけじゃない。
応援するだけでも可能性はある……アイテムを使うみたいに狙って出来るようなことじゃないけれど……ダンデさんはそれを能動的にやってる。
……なんで私はそれが分からなかったんだろう。
私に見えるものは、完全な予測とはいえないってことなんだろうか。
それなら。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「やっとこっちをちゃんと見たな」
「これで、終わらせられるかもしれないんです」
「何を言ってるんだ──続けるんだ」
「私は勝たなきゃ前には進めない、だから負けて全部終わりにするんです──カバルドン!」
「勝っても負けてもそれで終わりじゃないんだぜ──リザードン!」
繰り出されたポケモン達の特性でスタジアムの天候は荒れ狂う。
飲み込もうとする砂嵐と、それを押しのけようとする熱波が拮抗し、風景を二分する。
陽炎燃える日向と、砂が覆い隠し曇る影。
でも知っている、私はあの光の下を歩くことはない。
「リザードン!押し負けるな!」
それが出来るのなら、私に見せて欲しい。
この暗雲を晴らしてしまえると言うのなら。
ダイマックスみたいな借り物の力じゃなく、思いと努力で何か変わるって言うのなら。
そんなご都合主義的に、まるで主人公みたいに、何もかも簡単に解決してしまえるのなら。
そんな清々しい空の下、私を諦めさせてくれるのなら──
「そんなことができるものならぁぁ!」
「──!!」
リザードンは咆哮する。
こちらに向かって懸命に吼える。
私に向かってか、それとも敵であるカバルドンに向かってか。
その目はまるで光を届けようとしているみたいな。
そして。
熱波は吹き荒ぶ砂に押し込み、晴天がスタジアムを支配した。
「──」
空は晴れた。
また、晴れてしまった。
「は、はは、ありえない、そんなこと」
「晴れたな!」
「……そうですね、これで──」
「終わりじゃないぜ!終わらなかったんだよユウリ!だから続くんだ!」
「……終わらせるべき時に、そう出来なかった。だから続いてしまうだけだ」
前に進んでるんじゃない、ただ続いてしまっただけなんだ。
進んでいると思っていた道は円を描いていて、ただ環状線の上をグルグルと走っているだけだ。
「リザードン!ソーラービーム!」
その上を走っている物は、自分で線路を切り替えられない。
道を変えるには、外から操作するしかない。
日の光がリザードンに凝縮していくのが見える。
岩に阻まれて自由に行動できなかったとしても、その光線はカバルドンを焼くだろうし、晴天の下では残ったドリュウズに勝ち目はない。
「どうしたユウリ!もう終わりなのか!」
「……もう、決まってますから」
「──!!」
カバルドンに向かって光は放たれる。
晴天が恐ろしいほどの威力で襲いかかって来る。
それに照らされる私達の影は伸びていく。
大きく、大きく、伸びていく。
時間が緩やかになっていく。
決着を前にして、私は静止した時間の中にいた。
終わらせられた。
"頑張ったけれど、ダメだった"それで良かったんだ。
それで、終わりで。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「カバルドン」
彼は答えない。
ただ、私の指示を待っていた。
その背に、私は。
諦めと、最後の指示を口にした。
「──!!」
カバルドンに直撃し光は爆ぜて、砂埃が舞って視界を塞ぐ。
「ダンデさん、私は──」
「まだ、だろ。次のポケモンを出すんだ。まだ負けたわけじゃないだろ」
モヤの向こうから催促する声に。
「何をいってるんですか、もう負けですよ」
「諦めるのか?」
「ええ、諦めます」
「……そうか」
「──私を諦めさせてくれることを」
瞬間、砂埃は苛烈な風へと変わる。
その中心に、満身創痍で立つカバルドンの姿が浮かび上がる。
「──襷か!?」
「正解です、そして負けというのは」
私には絆の力なんてものは使えない。
戦うためだけに集めたこの子達に、そんな物は期待していない。
だけど、同じようなことをさせるくらい……簡単に出来る。
「……あなたの、ことです」
私は"終わらせられた"筈なのに。
私は……貴方なら出来ると思ってたのに。
「──ッ」
カバルドンは最後の力を振り絞り、"私の指示通りに"スタジアムの天候を砂嵐へと塗り替えて力尽きる。
私に晴天は似合わない。
合うとするなら、こんな曇り空だけ。
「行って、ドリュウズ」
風の中に降り立つ最後の一体。
ダイマックスもない。メガシンカなんて知らない、そんなものが無くても。もう、負け筋はない。
「やられたな!」
「まだ可能性はありますよ、貴方がさっきからやってることをまたやればいいんです。そんなことが出来るのなら」
「出来るさ!きっと!」
可能性はどこかにあるんだろう。
正面から私を止められる相手がきっとどこかにいるんだろう。
そんな希望みたいな存在が。
でも、それが出来るのは、ダンデさん。
多分、貴方じゃない。
「リザードン!──ブラストバーン!」
「ドリュウズ!──ロックブラスト!」
そして、勝負は決した。