ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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06 シリウス

 

 書き置きだけを残して、私は自宅から出た。

 背中には昔母親がくれた鞄、腕に願い星を収めた腕輪。

 

 服はあの日と同じ。

 見送りはいない、勝手に飛び出した私にはそんなものは必要ない。

 

 ジムチャレンジに参加すると言ったら止められたからだ。

 医者やホップは、容体がまだ安定していない以上、旅をするのは危険だと言うのだ。

 

 大人が子供に諭すように、憐れみと優しさを持って言われた。

 

 私はそれが我慢ならなかった。

 

 随分とつまらない大人になったものだ。

 やはり"線引き"が大好きなのだろう、大人というやつは。

 

 いつぞやのチャンピオンやローズ会長のように、大人と子供の線引きをして保護はすれど、結局は彼らの都合で物事を進めている。

 

 そこに挑戦は無く、安全に整備されたレールを引いて、その上を自分達の想定通りに走ることを願う。

 

 そんなものを"チャレンジ"と呼んでいたのだから皮肉なものだ。

 

 子供達への愛情だろうか、確かに盲従すれば楽に生きてはいける。だけど、そんなことをしてくれと頼んだ覚えは無い。

 

 いつか、私は見た。大人が子供に継承する様を。

 

 それはジムリーダーであったり、研究者であったり、形は違えど同じ継承と呼べるモノ。

 

 それは果たして自ら選び取ったものか?

 

 ビートは傷心につけ込まれたと言えないか?

 

 ソニアさんはダンデさんに匹敵する技量があった筈だ。

 

 エール団やネズさんからの期待をある意味、背負わされ続けていたマリィに他の選択はあったか?

 

 そこに自由な意思はあったのか?

 

 私にはそうは思えない。

 

 そんな"物分かりのいい選択"をして"大人"を継承するくらいなら、私はまだ子供であることを選ぶ。

 

 なんとでも呼べばいい、笑いたい奴らは笑え、私はまだ、大人にはなれない。

 

 なれないだけ、かもしれないけれど。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 柵を超えて微睡の森の中へ入る。

 歩き回っているポケモン達を避けて、奥の泉へ向かう。

 

 草むらに近づかなければ、彼らはこちらに向かってくることもない。

 霞む視界の中、歩き続けると気配がした。

 

 必ずいる筈だ、そうでなければ、私は一体何を認められて、あの伝説を捕まえることを許されたのだろう。

 

「いるんでしょ」

 

「──」

 

 霧の向こう側から、狼の声と静かな足音。

 

「久しぶり、勝手にいなくなるなんて酷いんじゃない?」

 

「……」

 

 剣を咥えていないザシアンは、無言で私を検分するように眺めると、背を向けて歩き出した。

 

「ついて行けばいいの?」

 

 私が杖を頼りに歩く速度に、そのどうしようもなく遅い歩みに合わせるように、ゆっくりとザシアンは先を歩き続け、私はそこに辿り着く。

 

 私の時間が止まった場所に。

 

 石碑には朽ちた剣が突き立てられている。

 

 ザシアンはそれを頭で指して、私に何かを促す。

 

「……まるで御伽噺みたい。剣に選定されれば英雄ってわけ……なら」

 

 束を握って引く。けれど。

 

 以前はすんなり抜けたものが全く微動だにしない。

 

「……ふふ…そっか……やっぱり抜けないよね……!そうだよね!」

 

「……」

 

 ザシアンは何も言わない。

 

「……英雄足り得たのはホップの片割れ……彼の代わりに、攻める為の力、剣を行使する役目だったから……そうでしょ?」

 

「……」

 

 何も言わずにただ此方を眺める青い狼。

 

「分かってる……それに足りる出自も無ければ、それに見合った理由も何もない!だから私は言われたんだ!」

 

「"決め手にかける"って!まさにその通りだよ!街の為に、皆の期待の為に戦っていたマリィ、自分を拾った男の為に生きていたビート、最強の兄を越えようとしていたホップ!」

 

「でも私には何もなかった!ただ、ホップと一緒にいたから、たまたま推薦状を手に入れただけ!」

 

「私がチャンピオン足る理由も、ダンデさんの椅子を継承する正当性も、何も無い、私はそこに至る何もかもを、タダの力だけで簒奪したんだ!」

 

「……だから私は継承できない!だって……ムゲンダイナと同じなんだから」

 

「……」

 

 ザシアンは何も言わない。ただ、悲しそうな顔で此方を見ている。

 

 こんなのは八つ当たり、自分でも分かってる。

 

「そんな目で私を見ないでよ。これではっきりしたよ、私がするべきなのは轍を辿る事じゃない──」

 

「私はチャンピオンを超えるよ」

 

「認めてくれなんて言わない、黙ってそこで見てて。私が座る席は、私が作る。私が英雄を超えた時、その時もう一度ここに来るよ」

 

 私は朽ちた剣を置きざりにして、背を向けた。

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