ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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60 謎と少女、再び(迷宮)

 

 夢は見なかった。

 

 浮いているムシャーナの煙は桃色のまま。

 

 悪夢も無く、私は呆然としていた。

 

《起きたロト?メールを受信したロト!》

 

 目覚まし染みたロトムの声。

 

 開かれた画面にはこの間と似たような文章が。

 

『件名:』

 

『水上レースを』

 

『見に行って』

 

 ──とだけ。

 

 何でメールなんだろう。

 

 しかも10年後から送ってるような偽装まで……いや、何であの人知って……?

 

 確かに10年後の私から送られて来れば、動かざるを得ないし、誘い出すことなんて簡単だけど……

 

 船でそこまで明かした覚えはないんだよな……

 

《どうしたロト?行かないロト?》

 

「なんで未来からのメールに見せかけるの?」

 

《そんなこと言われても困るロト》

 

「……ま、言うわけないか」

 

 まあ、彼の悪戯の一環なら、大人しく誘い出されてやろう。

 

 理由は分からないけど、私のためにしてることなんだろうし。

 

 10年後のことについて知ってるのなら……その話もしないといけないだろうし。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 街に張り巡らされた水路を巡るレースは、スタジアムもないこの街の数少ない娯楽……のように見える。

 

 私が博物館にも、建物にも興味がないからそう思えるのかもしれない。

 

 泳げるポケモンを連れてさえいれば、誰でも参加できるらしい。

 

 誰でもとは言っても、杖をついてる私に掛かる声は見えやすい場所を譲ろうとするもの。

 

 まあ、参加しろと言われてもしないけど。

 

「……で、ニオさんはどこ?」

 

《知らないロト》

 

 適当に水路を見ながら歩いたけれど、姿は見当たらなかった。

 

 この間の調子だと、また何かされそうなものなんだけ──

 

「あ」

 

 私を庭園まで誘導した赤髪の女の人が、視界の先を歩いていた。

 

「あの!」

 

「……ん?こんにちは?」

 

 今日は逃げることもなく、簡単に呼び止めることが出来た。

 

「また、貴女がその役目ってわけですか」

 

「え?どう言うこと?」

 

「ニオさんから聞いてるんでしょう?」

 

「ニオさん……?私、君に会ったことある?」

 

「昨日海岸にいたじゃないですか」

 

「なるほど。私が海岸に」

 

「誤魔化せませんよ」

 

「そっかぁ、懐かしいなぁ。じゃあ何処かにいるのかなぁ」

 

「何言ってるんですか?」

 

「ねぇ、ラティアスって知ってる?」

 

「……ポケモンですか?」

 

「そう。人の姿に化けるのが得意で……昔はよく私のフリをして歩き回ってたんだ。いつのまにか見なくなったんだけれど……戻ってきたってことかな」

 

「……本当ですか?」

 

「証拠くらいはあるよ、写真とか」

 

 そう言ってよく分からない端末に写真を表示させる。

 

 映っていたのは並んだ二人。女の人ともう一人は瓜二つの姿。

 

 そして、ポケモンがその姿に変身する動画。

 

「じゃあ、私は騙されたってことですか?」

 

「気に入られたんじゃないかな、多分。何処かに案内されなかった?」

 

「……そう、ですね。その後はどこかに行ってしまいましたけど」

 

「まあ、そのうち顔を見せると思うよ」

 

 彼女の話が真実なら、ラティアスはニオさんに協力している……か、そもそも昨日見た女の人とニオさんの二人とも擬態したラティアスだったのかも知れない。

 

 ますます分からなくなってきた。

 

 仮に二人ともラティアスだったのなら、メールはニオさんがやったわけじゃない?

 

 10年後のことをニオさんが知らないってことを含めて考えると、その方が自然ではある……時間を超えるメールがそもそも自然じゃないとか言う話は置いておいて。

 

 通れる壁といい、見えてるものを疑わなきゃならないなんて──いや。

 

 そもそも、ここ、現実?

 

 あれほど見続けた悪夢が突然なくなるなんて、そんなことありえる?

 

 ……でも私はラティアスなんて知らなかったし……けど私が夢で作ったデタラメな存在かも知れないし……仮に夢だったらどこから──

 

「どうしたの?」

 

「え、いや、その。その話、もう少し聞かせてくれませんか?」

 

 ……私の夢なら、いずれボロが出るはず、それを探れば……

 

「いいよ、じゃあ付いてきて」

 

「何処に行くんですか?」

 

「私の仕事場っ」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 古びた本の香りと、油絵の具の匂い。

 

 通されたのは博物館の一室。

 

 辺りは資料や美術品が山積みで雑然としていて、奥の画架の上には描きかけらしいの絵が一つ。

 

 それが窓からの逆光を遮り、舞っている埃は差し込む光の軌跡を描く。

 

「散らかっててごめんね」

 

「えっと……」

 

 お世話にも"そんなことないですよ"とは言い難い。

 

「とりあえず適当に座っちゃって」

 

「は、はい」

 

 本や書類の山を崩さないよう、おっかなびっくり椅子に座──

 

 ガチャリ、と音がなった。

 

「わっ」

 

「大丈夫、大丈夫。気にしないで」

 

 うっかり何か壊したのかと音の方を見ると、何処かで見たようなティーポットが跳ねて、私の目の前に降り立った。

 

「──!」

 

「……ポットデス?なんでここに?」

 

「あ、そう言うんだ。ガラルの……ラテラルタウン?…から寄贈された物の中に紛れ込んでたんだけど、なんか居着いちゃって」

 

 ラテラルタウン……骨董市から流れて来たってこと?

 

「……ガラルでは珍しくもないですよ、勝手に増えるし」

 

「へぇ、詳しいね。もしかして貴女もそこから来た?」

 

「……そうですけど」

 

「じゃあその子のこともう少し教えて!」

 

「え、あー、その子達が入ってるティーポットには偽物と本物があるんですよ」

 

「そうなの?」

 

「まあ、大体は偽物で……本物は底に模様が……」

 

「──?」

 

 ポットデスをそっと持ち上げると、その底にはしっかりと模様が。

 

「……本物ですね」

 

「じゃあ貴重なポケモンだったんだね。だから一緒に寄贈されてきたのかな」

 

「……なぜ、ガラルから寄贈品が?」

 

「博物館に全面的に協力して欲しいとかなんとかって」

 

「……なるほど」

 

 よく分からないけど、世の中には奇特な人がいるものだ。

 

「教えてもらっちゃったし、私もラティアスの話しないとね……っと、そうだ。私はカノン、この博物館の館長してます!」

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