「難しいことはない、ただ合わせて回っていれば良い」
「……う、うん」
よく分からないまま、身体を支えられて、言われるままにゆったりと舞う。
「なんで?私にお説教するんじゃないの?」
「ただ歴史の側面を体験させているだけだ」
「ニオさんは仮面、いらないの?」
「俺には…必要ない」
「……あの、さ。もしかして私、この後抱かれるの?」
「何故そうなる?」
「弱ってる相手をわざわざ他から引き離して、色々偉そうなこと言って優位性築いて、昔のことを忘れさせるようなこと言って」
「女子供はこういう景色で喜ぶと教わったが……違うのか?」
「いつか勘違いされて刺されるんじゃない?」
「叱るばかりでは良くないと思ったが……間違っていたらしいな」
「ビートみたいに私のお父さんになりたいの?」
「ごめん被る」
「うわ、即答。ま、ニオさんは……良くてお兄さんじゃない?」
「随分…歳の離れた兄妹だな、俺は……見かけほど若くはない」
「私も見かけほど若くないから」
「……全く」
「なんで?ビートみたいに頭おかしいわけじゃないのに、こんな」
「関係ないからだ」
「誰も言えないから、なのは分かった。でもそれだけじゃ納得できない。ニオさんが私を美味しく頂いちゃおうって思ってるって方がまだ納得できる」
「そう言うのから離れてくれ」
「……じゃあ何?」
「俺が昔、寂しかったからだ。だから」
「同情してるの?」
「可哀想だとは思わない。寧ろ、物心ついた頃からいなかった俺には理解し難い」
「それで?」
「それでも、ずっと一人で生きて来たわけじゃない、だから……それだけだ」
「……そう」
「もっと上手くやる方法も、正しい言葉もあるだろうが俺に出来るのはこれくらいだ」
「……それでこれ?」
「悪かったな」
「向き合わせたいならそう言えば良いのに」
「人に選ばせるな、責任は自分でしか負えない」
「……わかった、言わない」
「そうしてくれ」
「惚れてる相手ならともかく、面倒な子供でしょ、私。しかもとんでもない悪党。いくらかけたのこれ」
「物は所詮物でしかない、それを必要とする場所にあるべきだ……それに」
「こころの雫なんて良く用意でき……」
言いかけて、私は違和感に気が付いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ユウリ?」
急に止まろうとした私は勢いのまま、ニオさんに倒れ込む。
「待って」
こころの雫が来たのもラテラルタウン、だけどそれはおかしい……
「ねぇ、こころの雫を送って来たのってニオさんだよね?」
「…さあな」
「あの機械を使うなら……一つしかないこころの雫を使うことになる。水の源で、あそこにないと困るものなら、そもそもそんな許可とれるわけない……初めから私が持ってることを知らなきゃそんなこと出来ない」
「知ってから許可を取っただけだ」
「……骨董品を寄贈したのがニオさんなら、庭園で会った日の後にどうやってそれを用意するの?」
「逃走資金のために運ばせていた荷物を別口から送っただけだ」
「雫が同じラテラルタウンから来てるのも偶然?」
「……偶然だろうな」
「じゃあさ、これを送って来た人はどうやったんだろうね、私宛の贈り物なんて最近は殆ど手元には来ないのに」
「どうにかしたんだろう」
「私が逃げ出すことを決めるよりも、ずっと前に。それも部外者が知り得ない取材者に持たせるなんて、誰が出来るの?」
「さあ、な」
「事件の後に私を見つけたファンがいたよね、移動経路なんて誰も知らないはずなのに」
「しらみつぶしに探していると言ってたな」
「でもさ、これまでのそれ──ニオさんならできるよね?」
「……可能だろうな、やろうと思えば」
「メールもニオさんなら出来る。……ここに連れてきた理由、実は違うんじゃない?」
「……確認するが、メールというのはいつから届いている?」
「ここに…来てからずっとでしょ?ねぇ、どうなの?私に隠してたこと、教えられないって言ったこと、それがここに連れてきた本当の理由なんじゃないの?」
「……そう、だな」
ポツリと、頬に滴が当たって垂れて来た。
「今、私の見てるもの、全部…夢だったりしないかな……ねえ」
「現実だ」
「……夢じゃないなら私の知らないこと言ってよ、いつもみたいに、嘘だって言ってよ」
「本当だ」
「それもこれも、嘘…だったりしない、のかな」
「ここに来た本当の理由は……お前を現実逃避させるためではない」
急に雨が降り出して、すぐにどしゃ降りになって、辺りの幻影は掻き消えた。
「……どう言う」
「すぐにわかる──」
ニオさんが語り終える前に、サイレンスピーカーが鳴り響いた。
笛のような音が最初に一度鳴り、その後笛の高音の音がいくつか続いた。
《潮位観測より速報です!南部海域より大規模な津波が発生しました!予測被害は最大浸水以上と見られます!皆さん北部海域への避難をお願いします!指定船舶は──》
その警報は夜の闇に響き、耳をつんざいた。