「…想定以上だったな」
「これも、そう?」
「"俺以外の誰か"だ、行くぞ」
ずぶ濡れのまま抱えられ、塔の装置まで戻る。
装置に嵌められたこころの雫には変化はなかった。
私達が原因ではなさそうだ。
「多少の波程度なら、水の制御で相殺出来るだろうが…」
ニオさんが装置に触れた瞬間、大きな機械音を立て、街の周囲に巨大な壁が伸びて行った。
さらに投影された景色の中、怒り狂った海と吹き荒ぶ風の中心に、それはいた。
庭園の夢写しで見た、青い体に赤い紋様の大きなポケモン。
「……カイオーガか」
「知らなかったんじゃないの?」
「あの後調べた…大陸を沈めるともいわれる存在だ」
「……邪悪な怪物ってやつ?」
「ともかく、食い止める他ない」
投影の中では街の水路から一斉に集まった水流が同じくらいの津波を作り、カイオーガの元へ向かって行った。
どんな原理なのかは分からないけど、これならなんとか──
『──』
何かを察知したのか、カイオーガが咆哮する。
その背後に海から巻き上げられた水が渦を巻いて凝縮し──爆発的な勢いで放たれた。
ダイマックスしたポケモンの、いやそれ以上の莫大な水量が津波を貫いて海を割り──
街全体が揺れた。
「掴まれ!」
遅れて轟音が鳴る。
振動が収まり、投影を見ると何事もなかったように進むカイオーガと津波。
「一体どうするつもりだ…奴らは…」
「この街ごと流すんじゃない?」
「それで誰が得をする?」
「……得?」
「これまで派手に動いたのは、裏で何かやっている奴らを炙り出すための囮でもある。実際、効果があったのだろう、現にあんな物を差し向けている。しかし直接排除してこなかった以上…」
囮……違和感はそういうことか。
「それが今になって、急にことを起こして来た、と。でも話してる場合?」
「相手が分かれば打つべき手がわかる」
「流石、なんでも分かっちゃうんだ」
「カイオーガを操る方法は分からないがな」
皮肉が通じないらしい。
「普通に捕まえればいいじゃん」
「捕まえたからといって自由に言うことを聞かせられるわけじゃない、それにあの状態の海で指示できるか?」
「……普通の人は無理なんだね」
「お前を捕まえるつもりなら……拘束と利用が目的の筈だが、まさか暴走紛いとは」
暴走……それってもしかして。
「エネルギーを追って来てるんじゃないの?それなら暴走してても勝手に」
思い返せば、やたらとこの街のポケモン達、特に水棲のポケモン達は私をまるで監視していたようにも思える。
あれは……私の中にあるものに惹かれて寄って来たんじゃ?この間のオノノクスみたいに。
「そんなことをすれば──っ、そうだな。相手はお前が不死身なことを知っていて……街ごと流し、その後に回収か」
「街の防衛装置も効かない、ここじゃダイマックスも出来ない。それで……街ごと流すつもりの相手、どうにかなる?」
「俺の手持ちを全て引き出せば──」
《悪い知らせロト、この嵐のせいか回線も電波も途絶してるロト。ガラルのネットまでアクセスする方法が無いロト》
いつでもボックスから引き出せるって言うのも回線が通ってなければこうか……便利なのも考えもの。
「……打つ手を悉く潰してくるな」
「まだ、一つあるよ」
「何をするつもりだ……」
「私が……私が自分から、行けば良い」
私が原因なら、私が解決しなきゃ。
この街に被害が及ぼないように。
「どこに行っても過去は後をついてくる、なら、私は私の始末をつけなきゃ……そうでしょ?」
「あれが本当に暴走させているだけならどうするんだ?」
「私は死なない。相手も私を回収できれば良い。だから少しでも早く相手に見つかればいい」
「……相手はお前がそうやって出てくるのを待ってるんだ」
「分かってれば怖くは無いね」
「念の為に言っておくが、俺の手元にラティアスはいない。替え玉作戦は出来ない」
「見くびらないでよ」
「……本当に行くんだな」
「私が行けば止められるのが分かってるなら、迷う理由、ない。ムゲンダイナだって捕まえたんだから、相手がなんだろうと捕まえて見せるよ」
ニオさんの手から離れる。
「……止めはしない」
「じゃ、早く安全な場所に」
「一人で行かせるとは言っていない」
「一緒に来るのは困る。抵抗する意思に取られたら、余計な被害が出る。ニオさんは"何も関係ない"し、私が出てくるのを待ってるなら、何処かで見てる筈でしょ?」
「……こちらの装置から援護しよう」
「報酬はちゃんと払ってあげるから」
「高く付くぞ」
「請求はマクロコスモスにお願いね」
「…お前が支払うんじゃないのか?」
「勘違いしないで……帰ったらって意味だから」
この件が片付いたのなら、ちゃんと帰ろうと思う。
これまで目を背けて来た色んなことをちゃんと見て、自分が積み重ねてしまったことにケリをつけようと思う。
過ぎ去ってしまった時間やら、取り返しのつかなくなった物事と完全に和解できなくても、手を差し出すくらいは出来るはずだから。
「…護衛は必要か?」
「その時はよろしく」
……もし、そんな時が来るとしたら、だけどさ。