ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『……可能な援護は最前線へ輸送、情報の共有、通信だ』

 

 装置からノイズの交ざったニオさんの音声が聞こえる。

 

「りょーかい、りょーかい」

 

 金属の輪でできた檻は、中にいる私を保護しながら、土砂降りの水路を疾走する。

 どう言う仕組みかは分からないけど、私の身体はその中で浮き上がっていて、不思議と水には濡れない。

 

「というか、これ装置から独立して動く奴だったんだ……」

『街全体を操作できてこのくらい出来ないわけがないだろう』

「でもこれさ、人が乗る奴じゃないよね?」

『ああ』

 

 ああ、じゃないんですけど?

 もう水路から外壁の内側の海に出ちゃったんですけど?

 

『北部海域へ避難は順調に進んでいる。だが波がこの街に直撃した場合、予測される被害は全壊、余波は現在の避難海域に及ぶ』

「…街ごとね、笑える」

『速やかに対象を阻止できなければ、仮に対象が停止しても波は直撃する』

「私一人で無力化しろって?」

『これを仕掛けた相手がきちんと観測していることを祈るばかりだな』

「じゃなくても、私が捕まえればいいんでしょ」

『……捕まえられなかった場合は……』

「私が体張るんだから、そっちはどうにかしてよ」

『…承知した。まもなく外壁に着く、そこからは対象まで遮るものは殆どない。覚悟は出来ているな?』

「大丈夫」

 

 水路から海を渡り切って、檻は外壁に組み込まれて登り始めた。

 

『その装置は意思だけで動かせる、ある程度外海まで行っても機能は』

「分かったって。それじゃ──行くよ」

 

 外壁を越えて飛び出し、重力に引かれる。

 雨の降り頻る遥か水平線上の空には、雷鳴と竜巻。それを視界に収めながら落下していく。

 

 波は浜で見るような生易しいものじゃない。

 一つ一つが小高い丘に見える程の高さで、生身だったらあっという間に飲み込まれるだろう。

 

 まだ、カイオーガの姿は見えない。

 

『着水時の衝撃に備えろ、舌を噛むなよ』

「了解」

 

 装置が水飛沫を立て、着水する。衝撃はそれほどなかった。

 向こうから見えなかったからか、あのとんでもない水流も飛んでこない。

 

『…対象進路に変化なし、さらに接近するか?』

「聞かれるまでも!」

 

 球体は加速し、荒れた海を走り始める。外壁近くに犯人はいないらしい、見えてないなら私が派手に教えるしかない。

 

 私がここにいるってことを──!

 

「何か武器とかないの!」

『街から撃てる物だけだ』

「じゃあこんなのただの棺桶じゃん!」

『内部のエネルギーを吸収して増幅する機能があるが』

「自前のエネルギーだけね──ロトム!」

《マジでやるロト?カイオーガなんて無理ロト!》

「目立てば良いだけ!さぁ──」

『待て、何をするつも』

 

 繰り返す波の頂点へ向かって加速し──

 

《感電しても知らないロト──》

「10万ボルト!」

 

 飛び出すと同時に、視界は白い光だけになる。痛いし、焦げた匂いもする。意識が飛びかける。

 でも私には関係ない!ここで踏ん張らなきゃもっと後悔することになるんだから!

 

『──聞こえるか!対象が前進速度を下げた!繰り返す!対象が前進速度を下げている!』

「了……解っ、このまま……繰り返しながら南方に行く……から!」

『──おい、聞こえ──て──に出れ──』

 

 音声は途切れ途切れになって殆ど聞こえない。

 

《聞こえたロト?電気だけで増幅されすぎロト。続けてたら壊れ──》

「この機械、私の中のも吸って増幅してるんでしょ、このまま南部に向かえば、カイオーガは私についてくる……確実に……!」

 

『聞こえ──』

 

 音声は途絶えた。

 

《ど、どうするロト!》

「ここで行かなきゃ、私しか生き残らないよ」

《海の藻屑ロト!》

「私はムゲンダイナも捕まえた……大陸を沈める相手だろうがポケモンなら絶対に負けない!」

《……本気ロト?》

「ロトムが頼りなんだから頑張ってよ!」

《……ご主人様がそこまで仰るのなら、やるロト》

「そうと決まれば──!」

 

 もう一度、波の頂点から南に向かって同じように飛ぶ。

 

「10万ボルト!」

 

 焼ける痛み、でも治るから関係ない。

 立ち塞がる巨大な波を登り、頂点から飛ぶ。

 

「10万ボルト!」

 

 遥か先の雷鳴に比べれば、火花でしかない。

 それでもまた登り、進む。

 

「10万…ボルト!」

 

 焼けて、再生して、また焼ける。でも私は死なない。だから、何度でも──

 

「10万……ボルト!」

 

 何度も、何度でも、私が見えるように──

 

「10……万……ボルト…!」

 

 再生しても痛みは消えなくて、積み重なる──でも、負けない。

 

「10万……ボルトぉぉ!!」

 

 分かったんだ、私が勝たないといけないのは、今でも未来でもない。逃げたって、同じ顔してずっと追いかけてくる過去なんでしょ。

 

 もう戻れないのも分かって、それでも、それに勝たなきゃ、苦しいんだ。だから──

 

「私は、ここだぁぁぁぁぁ!!」

 

《──避けるロト!》

 

 ロトムの警告とほぼ同時、巨大な柱のような水流が目と鼻の先を掠めた。

 

「……やっとこっちを見た……見たなぁ!!」

 

 水平線の果てまで競り上がった津波を玉座のようにして。

 暴れる海の全てを掌握したような顔で、それはそこにいた。

 はた迷惑な過去が仕向けた災害が。

 

 カイオーガとやらが。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「…勘違い……すんなよ」

 

「──!!!!」

 

 カイオーガは咆哮し、嵐と海そのものが私へ襲いくる。

 でも、野生のポケモンに私が負けるわけない。

 

 思考は加速して、時間は停止する。見えている水流の軌道、風の方向、予測されるありとあらゆる可能性の波。装置は私の意思通りに動く、それなら。

 

「──捕まえんのは…私の方だ!」

 

 カイオーガが差し向ける脅威、その全てを回避して接近する。

 

「ロトム!充電しておけ!」

《分かったロト》

「先ずは──」

 

 見える、練度は大したことがない。それにトレーナーがいる動きじゃない。

 

「教えてあげるよ!!お前にも!!」

 

 絶対に避けられない位置、瞬間。その一瞬、装置の隙間から──ゼロ距離でモンスターボールを投げつける。

 

「捕まえ方ってやつをぉぉ!!」

 

 一撃で決める。それがチャンピオンのやり方。一発で捕まえてしまえば、それで終わ──

 

「は?」

 

 しかし、ボールは反応すらせずに、滑り落ちて、波の中へ消えた。

 

「──っロトム!雷!」

《了解ロト!》

 

「──!!」

 

 増幅された雷は、私達を巻き込みながらカイオーガに直撃。

 痛すぎて感覚がないけど、その間に離脱する。

 

「捕獲済み……は、はは、そっか……そうかよ……!」

 

 捕獲した上で制御出来てなかったんだ。私にはあまり理解できないけど、そうだったか。あれほどタンカを切って、醜態を晒したらしい。

 

「"人のポケモンを取ったらドロボー"だって?忘れてたよ、そんなこと」

 

 ……まあ、これで……後はひたすら南に行くしかないわけだ。

 

「来なよ、私を捕まえてみろよ」

 

 負けない。絶対に、負けない。

 

 勝つことでしか、前には進めないんだから。

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