ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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67 ひとりぼっち

 私達を追跡するカイオーガの咆哮が聞こえる。

 

「ねぇ、ロトム、"たった一つの冴えたやり方"って知ってる?」

《ホップ博士の本棚で見た気がするロト》

 

 ホップの棚にもあったんだ、気が付かなかった。

 

「…宇宙に一人旅に出た女の子が、宇宙人と仲良くなるんだけど、その宇宙人の正体が……まあ未知のウィルスみたいなもんで、女の子に感染しちゃって、それを地球に持ち込まないために、宇宙船で太陽に突っ込んで死ぬって話しなんだけどさ」

 

 まあ、あまり冴えた話じゃない。

 

《その話は何を伝えたいロト?》

「知ったこっちゃないよ。でもそれを主人公は"たった一つの冴えたやり方"だって言うんだよ」

《冴えてはいないロト》

「…そう言いたかったんだよ。そうじゃなくてもさ」

《賢くもないロト》

「そ、賢くはない。馬鹿馬鹿しい、カッコつけ」

《同じようにはなりたくないロト》

「……大人ぶった子供でしかないんだよ、要は」

《それが今の状況ロト?》

「まさか、心中するつもりないし」

 

 装置はそれ以上前に進まなくなった。

 それだけ街から離れたということ。

 

 もう、あっちは大丈夫だ。

 

 装置の開閉部を開き、カイオーガに向かって立つ。

 

 打ちつけるような雨が私達を濡らす。

 今の手持ちは2体、ロトムと昼間に捕まえたヤミカラスだけ。

 

「ヤミカラス、行けるね」

「──」

 

 肩に乗り、海を恐ろしそうに眺めていたヤミカラスは、何とも言えない表情で私を見た。

 

《分かるロト、どう見ても無理ロト》

 

 ここまで逃げながら手持ちのアイテムを注ぎ込み、可能な限り技を覚えさせた。

 付け焼き刃なのは間違いない。ロトム曰く、進化するのには闇の石が必要らしい。

 そんな状態でアレを相手にするのか、という目線だろう。

 

「野生だったら、ただ強くて大きい方が勝ちやすい、でもバトルは違うんだよ」

 

 装置はカイオーガに向かって走り始める。

 

「これは、バトルなんだよ。自分で指示しないで任せるなんて……そんな舐めたバトル……許せるわけないじゃん──行くよ」

 

 試合、開始だ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「──!」

 

 衝撃で上空まで水柱が伸びる。

 

「流石に海の上だと…」

 

 叩きつけるような水流の砲撃も、雨雲から振り下ろされる雷も。

 全て見えているのだから、避けるのだけは簡単だ、装置は私の足より便利に動いてくれる。

 

 ただ。

 

「ロトム!雷!」

《ロトぉぉ!!》

 

「──」

 

 直撃、しかし放たれた雷はカイオーガに然程ダメージを与えてはいないらしい。

 今は増幅機能を使っていない。使っても効果があまりなかった雷だ、まともに戦うのは分が悪い。

 

 おかしいのはいくら強力とはいえポケモンには変わらないし、ダイマックスしてるわけでもないのに体力が多過ぎること。

 それに外壁に放った長距離砲撃も威力が高すぎる。

 

 体力と火力を同時に上げるなんてダイマックスでもなければ……ああ、メガシンカなんてものもあったっけ。

 アレはトレーナーがいなくても出来るのかな?

 

 ……でも夢写しで見た深海でのカイオーガは、今と姿が変わらない。

 メガシンカとやらは姿形が大きく変化していたのを考えると、可能性は低そう。

 

「なら瞑想か」

 

 限界まで能力を高めてから送り出したんだろう、突撃チョッキを持たせるって考えもあるけど火力が上がるわけじゃない。

 

「ヤミカラス!黒い霧!」

「──!」

 

 羽ばたきと共に、その身と同じ真っ黒な霧を呼び出す……が、吹き荒れる大雨に対してはあまりに規模が小さ過ぎる。

 

「っ!流石にスケールが違うか──っロトム!光の壁!」

 

 透明な防壁が瞬時に幾重にも構築され、直撃する寸前だった水流を受け止めて砕け散った。

 

《し、死ぬかと思ったロト》

 

「大丈夫。見えてるから……でもやっぱジリ貧だね」

 

 ヤミカラスも出してないと手は足りないけど、出してるとロトムの雷を増幅させることもできないし。

 増幅させて果たしてどれほどの意味があるのかも微妙なところだけど。

 

 技やアイテムで一時的に限界まで高められたポケモンの能力は、みかけの練度なんて簡単に超越してしまう。

 

 元がそこまで訓練されてるわけじゃないから今は防げてるけど、こっちはずっと戦えるわけじゃない。

 2体の体力か…技が撃てなくなれば、後は機械が止まるまで逃げるしかない。

 

 でも、それでいい。

 

 被害を……いや、"嵐の影響"をあの街が受けなければいいんだから。

 

「ロトム!ここで大丈夫だよね!」

 

《ここまで来れば街は問題ないロト》

 

 これまで、時間が物事を解決してくれるって色んな人達が言っていた。

 無責任だって思った。でも事実、時間は敵にもなるし味方にもなる。

 大事なのはそれを理解しているか、してないかってこと。

 

 置いて行かれた私が今更"時間"と和解するなんて変な話だけどさ。

 今だけは、少し許そうと思う。

 だって、これからの戦いは──全て時間が解決してくれるんだから。

 

 ポケモンバトルで最も消極的な戦法は何か。

 状態異常技の連発?技を回避し続けること?違う、それよりも酷いものがある。

 それはTOD(タイムオーバーデス)──時間切れによる判定勝ちだ。

 

「あっさり釣れるなんてね、見た目だけで中身は雑魚かな?」

 

 ガラルとの通信が出来ないのは嵐の影響化にあるからで、それが及ばない位置まで私が釣り出せば後は"援軍"を待つだけ。

 だから、ここまでついて来て私の時間稼ぎに付き合ってくれた時点で、もう殆ど勝ちは確定している。

 

「ポケモン一体すら制御できないのに、私に挑むなんて20年早いんだよ」

 

 どこかで見ているだろう相手に向かって呟く。

 他人の力をアテにするのも時間を頼りにするのも私らしくはない。

 でも今の私にはこれが"たった一つの冴えたやり方"って奴だからさ。

 

「仕事の時間だよ、護衛さん。だから……早く助けに来てよ」

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

『捕まえられなかった場合は……』

『私が体張るんだから、そっちはどうにかしてよ』

 

 "捕獲出来なかった場合、嵐を起こしているであろうカイオーガを引き離す"

 彼女は言うまでもなく了承した。

 どこで相手が聞いているかも分からないからこそ、俺の言葉を遮ったのだろう。

 

 事実、その言葉の通りにカイオーガを誘き寄せ、街は嵐の勢力圏から外れた。

 音声は途切れたが、捕まえたばかりのポケモンとロトムで戦い続けている姿はしっかりと確認できていた。

 後は、彼女が持ちこたえている間に救援を送れば良いだけだ。それだけだった。

 

「何故だ……!何故通信が回復しない!」

 

 快晴とは言えないが、晴れていることには変わりなく、深夜の空を遮るものなど何もない。

 にも関わらず、通信は復旧しなかった──

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