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「……遅い……遅すぎる……」
戦い始めてからかなりの時間が経った気がする。
思考を加速させ続けるのも、辛くなって来ていて、鼻から垂れる血が止まらないし頭痛も酷い。
いつもならもっと続けても平気な筈なのに。
《余裕、じゃなかったロト?》
「余裕…だよ。私は…強いから」
ポケモン達は薬でそれなりに回復できると言っても限界はある。軽口を叩いているのも余裕のなさの表れだ。
それに比べて相手のカイオーガときたら元気なものだ。
「──!!」
また、光線のような水流が迫り来る。
雨雲から降り続ける雷が私の進路を塞ぐ。
「光の壁!」
《ロトォォ!》
防壁は直ぐに砕け散り、最初よりも脆くなっているのは明らか。
「ヤミカラス!怪しい光!」
「──!」
カイオーガに放たれたそれは、ほんの少しだけの目眩しにかならない。
もしかしたらもう、ダメかも知れない、そんな考えが過ぎる。
ニオさんは今回の件の黒幕じゃない、そうじゃないんだ。だから、すぐに私を助けに来てくれるはずなのに。
なのに、私はこんな海の真ん中で一人きり。どれだけ待っても迎えは来ない。
もし、彼が全て糸を引いていたなら、なんて手際だろうか。
絶対に殺せない私を海に放り出して葬ったんだから──
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺の手元の端末では相変わらず音沙汰のない通信不可の表示。
投影を映している装置は流石に現代の通信網には対応していないらしく確認も出来ない。
「古代人には酷な要求か……」
時間は刻一刻と過ぎて行く。
余裕そうだったユウリやそのポケモン達にも少しずつ動きに疲れが見え始めて来た。
仕掛けて来た相手がこれを見ているなら、彼女を捕まえるには絶好のタイミングのはずだ。
にも関わらず未だその気配はない。
本気で捕まえる気があるのかすら疑問に思える。
「どうすれば良い……!何が出来る……!」
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口の中に鉄の味がした。
そう気がついた瞬間にはもう、私は追い詰められていた。
ほんの少し意識が飛んでしまっていて、そのことにすら気が付かなかった。
その一瞬の隙は絶対にあってはならないものなのに。
「──!!」
カイオーガの咆哮、収束する海水。
瞬時に私に与えられた答えはシンプルなもの。
距離的にも速度的にも逃げる事は絶対に不可能な攻撃が来る。
避ける方法は何一つない。他の可能性は全く皆無、絶対に当たる。
私に出来ることも何もない。
いつもみたいな逆転の手は残されていない。
思考で引き伸ばされた時間から出たが最後、私はアレを正面から受けるしかない。
「……だめか」
引き伸ばして、引き伸ばして、時間稼ぎをして。そうして時間切れになったのは、私の方だった。
これまでの全てがそうだった。
やっぱり時間と和解することなんて出来やしなくて、何もかも、取り返しはつかないんだろうか?
どっちにしても私は死なない。街にはもう被害はないんだから、それで良いじゃないか。
捕まってどうなるかなんて分からないけれど、生きてさえいればどうにかなるはずだから。
自分の意思で何かを出来ないのなら、死んでいるのと何も変わらないけどさ──
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ユウリ!」
彼女なら対処できていたはずの攻撃を正面から受け、姿形も見えなくなった。
投影された景色には、カイオーガだけが鎮座している。
「くっ……何の反応も……!」
俺は何をしていた?ただここで手をこまねいていただけか?
手持ちの一体だけでも彼女の元に駆けつけるべきだったのではないか?
だがそれをしてしまえば共倒れになるだけだ!体を張って囮になった彼女の行為を無駄には出来ない!
信じる…しかない。彼女が無事なことを。
信じて、俺が成すべきことを考えろ。
相手の罠にハマる無様は晒せない。だからこそ考えろ。
これまでの騒動や妨害、そしてこの襲撃。
ユウリを捕まえるだけなら手段もタイミングもあった。だが現状、暴走しているカイオーガに接近可能な存在は考えられない。
彼女が完全に沈黙するのを待ってから回収するにも、カイオーガを止められる戦力がない限り……それが出来るなら最初から制御できない訳がないだろう。
見えてこない。この騒動自体を起こした先の目的が……まるでユウリの回収など最初から眼中になく、この先の展開などまるで考慮していないような……その必要がないということか?
まさか、狙いは最初から──
「──っ、ドラパルト!」
装置に嵌められたこころの雫を取り外し、ドラパルトを繰り出して飛び乗り、外壁へ向かう。
そうだ、相手は回収なんて考えていない!この騒動を起こすことだけが目的ならば、カイオーガを制御する必要も自ら出向く必要もないのだから!
囮には意味がなかった!そしてユウリの身の安全は保証出来たものではない!
「間に合ってくれ──!」
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意識が戻ると私達は真っ暗な空間にいた。
「……ここが地獄か…案外静かだ」
《海の底ロト》
スマホに戻っていたロトムがライトを付ける。その範囲で照らされた海には砂以外何もなかった。
「冗談だよ」
咄嗟にポケモンを手元に戻し、装置を海に潜らせた結果、運良く助かったみたいだ。乗り捨てたロトムの洗濯機は流石に何処かに行ったらしい。
《起きたロト?》
ロトムが私の顔を見る。
「どれくらい寝てた?」
《20秒くらいロト》
「あともう少ししたら海の藻屑ってわけ」
カイオーガが私達を見つけるのにそう時間はかからない、既に詰みだ。
《どうせなるなら、この前の景色みたいに星になりたかったロト》
ラティオスのことか。
「……じゃあ海の星かな。そんなものあるか知らないけど」
まあ、藻屑よりはマシだろう。
《海の星について検索するロト》
「はあ?」
一瞬ロトムの顔が表示されなくなる。
《"困難に翻弄され、誇り、野望、敵意、競争心の波に投げられ、あなたの魂のもろい船が激しく攻撃されたら、海の星を見て、聖母を呼びなさい"》
戻るとそんなことを言った。
《以上ロト。回線悪いロトね、あまり情報出ないロト》
「……なんなのそれ、それが海の星?」
《神様は寛大ロト。死ぬ前でもちゃんと祈っておくロト。天国の門、駆け込みでも多分オープンするロト》
そんなこと言い出す奴が天国に行ける訳あるの?ないと思うけど。
「……いや待って。どうやって検索したの?」
《普通にロト》
「通信できるわけないじゃん。それにこのスマホじゃ今のネットには繋げないんでしょ?」
《繋げなくても、電波が有れば僕1人ならネットを見てくるくらい、できるロトよ?》
「だからその電波がな──」
"通り抜けられる壁"の時と一緒?
私には見えなかったとしても他の視点では見えているものがあるってこと?
「あるんだね?どこにあるの!?ポケモン連れてこられる!?」
《ネット見るだけロト。この付近の微弱な電波じゃ》
「ロトム!ライト消して!」
《わ、分かったロト》
それはあまりに微かな光だった。
青く暗い世界に目を凝らして集中し、それでやっと見える、僅かに瞬く火花のような光。
存在を確信していない限り、そしてライトに照らされた視界からでは見えなかっただろう。
「見つけた……海の星!」
《海の星の先輩ロト?なら後は聖母の名前を呼ぶだけロト》
「聖母ね、マリィだっけ?」
《……名前の間違いくらい気にしないロト、きっと白い明日が待ってるロト》
違うのは知ってるよ。そう思える存在が彼女ってだけ。
装置をそこへ向かって走らせる。
電波があるなら、必ず何かに電流が流れている。海底にあって、ロトムが侵入できるような電流を持つもの、つまり──
「──通信ケーブル!」
切断された断面から放電していたのは、私の身長よりも幅が太く大きなケーブルだった。
一箇所切れて分かれてしまってるだけで、それ以外に問題は無さそうだ。
島や大陸から離れた場所にインターネットを繋ぐため、海底には多くの通信ケーブルが設置されている。
私の生まれた時代よりも遥か昔から使われていたこの手法は未だに現役らしい。
回線が途絶えたのは、海が荒れたせいで、このケーブルが断線したからだったんだ。
あとはあれを繋げば良いだけだ!
「ロトム、あれ直せる?」
《アレは船で引き上げて修理するような物ロト、同じケーブルか……増幅器を挟んで繋ぐしか方向は──》
"その装置は内部のエネルギーを増幅する機能が──"
「ロトム!この装置で繋ぐよ!」
《大陸間通信の電圧ロト!本気で天国に行くつもりロト!?》
「どこだって天国になるよ、"生きて"さえいればね」
誰かが言っていた。"生きていく意思があるのならどこだって天国になる"んだと。
自ら選び取って生きることを覚悟するならって意味だと思う。
それを時間任せにするなんて、私らしくないってことなんでしょ?
だから、私は。
自分自身で、何度だって、切り開くんだ──!
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お待たせしております!
書き溜めが尽きて4日も掛かってしまいました!
最近感想返してないのでこれから返そうと思います!
アルセウス発売までにある程度は進めたい所存です!