まどろみの森にいたアーマーガアに乗り、目当ての場所へ向かって飛ぶ。
空は赤く、夕陽が雲を染めて、薄明には遠い。
タクシーに頼らず、自分の手で操縦する上空は、風が冷たく吹き付け、凍えるほどに寒い。
自分の意思で自由に進むのには、多分必要な事なんだと思う。
捕まえたばかりのアーマーガアは、私の言う事を大人しく聞いている。まあ、どんなポケモンでも、言う事を聞かせるのは簡単だ。
私の取り柄は勝負と育成能力だけ。
それが取り柄だと知ったのも、ジムチャレンジの後半で知ったことだけれど。
それに早く気がついていたのなら、もう少し違った未来もあったかも知れない。
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どうやら個人が扱えるポケモンの種類にも覚えさせられる技にも、限りがあるらしい。
もし誰もが強力なポケモン、そして技を扱えるなら、全員同じようなパーティーになるだろう、だけどそうじゃない。
最初は、技が効果抜群だったくらいで、彼にいちいち褒められる理由が分からなかった。
彼がパーティーの構成で悩むのもあまり分からなかった。
強いポケモンやタイプ、技を選べば良いだけだと思っていたけれど、それは全くの見当違いだった。
誰しも、自由にそれが出来るわけじゃなかった。
捕まえても必ず言う事を聞かせられるわけじゃないし、人によって扱えるタイプが限られる、育成が上手く行かなければ進化もままならない……らしい。
だからジムのようにタイプを絞った……いや、絞られた専門のトレーナーがいた訳だ。
私は、そんな事考えたことも無かった。
バトルも、ポケモン達の動きについていける動体視力と判断力が無いといけない……らしい。
私には何を言ってるのか、さっぱり分からなかった。
スポーツ選手の一部には、深く集中すると時間が止まったような感覚になる者もいるという。
それが私にはいつものことだった。バトルで次の技や交代を考えている時は、時間が止まったように見えていた。
だから相手が交代する瞬間に合わせて、高速で交代したりするのも難しく無かった。
相手のポケモンの練度や、どれくらい体力があるのかも見れば大体分かっていた。
だから、私にはジムチャレンジなんて、効果的なポケモンを鍛えて並べ、弱点を突けば良いだけの、パズルのようなものだった。
それでも、多少苦戦したキバナさんやダンデさんは、如何に強かったのか理解できる。
キバナさんのジムなんてドラゴン対策の意味が殆ど無いし、本人も言わずもがな。
ダンデさんに至っては自由に組み込んだようなパーティーを使ってくるし、他のジムリーダー達よりも二回りくらい練度が違う。
交代を読んだような技の選び方もしてくるし、もしかしたらダンデさんは私と同じような景色を見ていたのかも知れない。
それを才能と言うのなら、彼も、私も、才能の塊だったのだろう。
──なら、私達を追いかけていたホップは、私と違う世界を見ていた彼は一体、どれほどの努力をしていたのだろう。
私の知らない涙がどれほど流れたのか、私はまるで知らなかった。その痛みを分け合えたのは、私じゃなかった。
"彼"と同じく、かつて才能の塊と戦い続けていた"彼女"にしか出来なかった。
話す言葉は同じはずで、歩く道も同じはずだったのに、私と彼は違う世界にいた。
いくらでも言いたいことはあったのに、彼の笑顔が戻った時、歩く道すら変わった時に、私は言葉を失ってしまった。
ただ一度の微笑みが、千の言葉よりも雄弁に語った。
「遅かった、何もかも」
私の飛ぶ赤い空は夜へ向かって暗くなっていく。
私の好きな薄明の黄昏をとっくに通り過ぎて。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「これは……随分と懐かしい……」
椅子に腰掛けたまま、家の前で寝ていた男……すっかり白髪の増えた浅黒い肌の初老の紳士が、アーマーガアの着陸で吹いた風に顔を上げる。
「お久しぶりです、ローズさん」
ジムも無ければまともなポケモンセンターも無いような片田舎で、果たしてどうやってダンデさんのようなトレーナーが生まれたと言うのだろう。
間違いなく、彼を見出した存在がいるのだ。
そしてその人物は──
「私、推薦状を貰いに来ました」
元チャンピオンリーグ準優勝者である、彼以外にいるんだろうか?