ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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 葬儀は関係者だけで行われた。

 空の棺を土に埋めて、呼ばれてきた神父がとってつけたような文句を述べて。

 遺体は瓦礫の中から取り出せなかったという。だから棺には何も入っていない。

 

 私は参加する資格なんて、なかったのに。

 恥知らずにもそこに立っていた。

 

 マクワさんに久しぶりに会ったけれど、思い出話をするような状況じゃなかった。

 クララさんは私の頭を撫でて、返そうとした白いコートをくれると言った。

 彼女の父親、ピオニーさんは私を抱きしめた。

 ひたすら謝り続ける私に、悪くないと言って。

 委員長は彼に謝っていたけれど、その筋合いはないとだけ言って、それから二人が会話することはなかった。

 

 淡々と式が進む中、ふと気がついた。彼女に母親がいるのなら、この場に居るはずなんじゃないかって。

 

 でもこの場にはいなかった。

 

 今回の件で負傷して参加できないわけじゃない。誰一人そんなこと口にしていない。

 ピオニーさんに聞くと、彼は私の頭を撫で、もういないんだと言った。

 

 彼は娘すら失ったんだ、私のせいで。

 

 シャクヤは私にそんなこと、一言も言わなかった。

 過去を改変できれば、私の計画に協力すれば自分の母親とだって暮らせたかも知れないのに。

 

 最初から、私の遥か先を歩いていたんだ。

 勝負するずっと前から、私が乗り越えられていないものを越えていた。

 

 私は、勝ったつもりでいただけだった。

 シャクヤに勝てる日は、もう二度と来ない。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

『騒動から一夜、ガラル各地では救世主を讃え──』

 

「経緯は聞きましたが…続けるということでよろしいのですね?」

 

 委員長は執務室のモニターに流れていた映像を止めた。

 

「……続けるしかないよ、こうなったら」

 

「しかし救世主、ですか。本来のプロデュースとは方針が異なりますが……」

 

 人が死んでるって言うのに。世間はまるで勝利を祝うような雰囲気だった。

 報道が意図的にそうしているのは分かっているけれど、それでも私は納得出来なかった。

 

「委員長?ユウリさんは神の子なのですが?」

 

 立ち上がって宣うサイトウさんは、相変わらず訳が分からない。

 

「結局、裏で手を引いていたのは貴女なのか?」

「"ニオ"君、筋肉は努力を裏切りませんよ?裏切るのは人間だけです」

 

 人間じゃないの?貴女は筋肉なの?

 

「…20年前に引退した選手が同じ容姿で帰って来た、そんな非科学的な話がここまで広がるとは……サイトウさん、貴女は一体何をしたのですか?」

 

「簡単です委員長。信じました、筋肉を」

「……サイトウさん、ちょっと黙ってて」

「はい!黙り筋肉(マッスル)!」

 

 筋肉には喪に服すって概念ないの…?

 

「……信じ難いことに悪意はないようですね……ですがユウリさんの出自が露見すればフーリガン達の主張が再び広まりかねません。事実としてマクロコスモスが最初から最後まで企画しているのですから」

 

 老人は淡々と説明する。

 

「私の娘ってことにすりゃよか」

 

 私を抱きしめているマリィが言い切った。

 

 心配してくれているのか、会議まで付いてきてしまった。

 何も知らない以上、ここで計画に関わる部分は話せないけれど、今は側に居てくれるだけでありがたかった。

 

「マリィ?それって」

 

「それなら20年前の選手とは違うでしょ」

 

「…相手もいないのに突然16歳前後の娘が?」

 

 委員長は訝しむような顔で聞き返す。

 

「……行きずり男との隠し子ばい」

 

 ……いや、だとしても絶対無理だ。

 

「ねぇマリィ?」

 

「なに?ユウリ」

 

「試合出る時、おへそ出してない?」

 

「そういえば……!」

 

 だから隠せるわけないのだ。

 

「マリィさん、申し出は有難いのですが……」

 

「……まあ、私が誰かの実子だったことにすれば良いってことでしょ、方向としては」

 

「過去の関係を連想されない相手なら、ですが」

 

「そんな丁度いい相手、いる?」

 

「ええ、用意はあります」

 

「……老ぼれのとこに行くより、良か話?」

 

 マリィはめちゃくちゃ辛辣だった。

 

「いいえ、ガラルリーグ関係者よりは余程」

 

 それでも老人は笑みを絶やさない。

 

「……まず一つ目の問題は良いでしょう」

 

「まだあると?」

 

 マリィが私を抱いている手に少し力が入った。

 

「今回の原因は、ユウリさんの報告通りでした」

 

「……そう」

 

「ムシャーナやムンナの、夢を具現化する力が関わっていたようです」

 

「──」

 

 察したニオさんは言葉を失い、流石のサイトウさんも青ざめていた。

 

「……つまり集めさせた私のせいってことでしょ」

 

「ユウリさん、それは違──」

 

「重要なのは、これまでの一連の騒動を画策できる相手について、です」

 

 委員長が私達の言葉を遮る。

 

「ダイマックスの暴走、フーリガンの扇動、アルトマーレでの事件。願い星の流出。これらはマクロコスモスと敵対する団体によるものと考えてもおかしくはない……ですが、少々不思議な点があります」

 

「それで?」

 

「我々の行動や内容、そして結果が把握されすぎているのです。ムンナやムシャーナを集めさせたのはニオ君の判断でしたが、それを利用してダイマックス暴走を引き起こそう、という考えに至るのは……」

 

「……普通、思いつかない?」

 

「ええ。イッシュ地方の研究者によれば、夢を具現化する能力が関わっているのは間違いないそうですが……ただ意図的に起こすならば、よほどダイマックスとポケモンの夢、その両方に精通した者か……それこそラプラスの悪魔くらいではないかと」

 

「ラプラス……?ポケモンじゃなくて?」

 

「ありとあらゆる現象を知覚し、観測している存在のことですよ。未来も過去同様に見えているので何でもわかります……あらゆる答えが」

 

「…私が見てるものと似たようなもの?」

 

「瞬時に正しい答えを導くのとは異なります、最初から未来を知っているという意味です」

 

「知ってるなら専門知識もいらないか。まあ、そんなのはいないっていう冗談なんだろうけど──」

 

 ……未来を知っている存在?

 

 アルトマーレで受信した10年後からのメール。

 あれが本当に未来から送られてきたのなら……

 

「……やっぱり、ありえないでしょ」

 

「この世に絶対はありません」

 

 未来から過去を改変しようとしている存在がいるなら、すべて把握されていてもおかしくない。

 そうなら既に過去改変は始まっている……それだけじゃない。

 

 タイムマシンの研究に関して最も実現に近くて、かつ私達の事情を知ってるのなんて、

 

──私達以外にいないじゃないか。

 

「もっとまともな話ないの?」

 

 マリィの冷ややかな言葉は至極真っ当な意見だと思う。もし、過去改変の可能性を知らないのなら。

 

「……そうですね。相手は非常に専門的な知識を持ち、我々にも詳しい存在です。今後も注意が必要になるでしょう。連絡手段や情報の共有に関しては、新規のものに変更します。詳細は追ってお知らせします」

 

 委員長が夢想家だったとしても、こんな真面目な場面に冗談だけでこんなことは言わないだろうし。

 

 遠回しに伝えてるんだろう。

 相手は10年後の私達で、何らかの理由で今を改変しようとしている。そんな可能性の話を。

 

 でも、過去を改変できるのに、どうしてシャクヤを見殺しに……過去を改変した結果その先が"全てなかった"ことになるのなら、20年前の実験の成功させれば良いだけじゃ?

 それに、今を改変して未来が変わるなら、それを計画する相手も変化に巻き込まれる筈だし、継続的に私達に何かを仕掛けることなんてできない。

 

 未来側に変化がないなら、干渉し続けられる……?つまり未来の技術でも決定的な改変は出来ていない?

 確かにあんな情報量の少ないメールだけで何かが変わるとは思えない。

 

 そして、もし仮に実験でもしてるっていうなら、未来で研究した内容とかを今のホップとかに渡せばその完成を早められ……る……

 

 ……そうだ……何百年もかかる計画が、突然10年に短縮されるなんて、あまりに不自然だ…

 

「ユウリ?どしたと?」

 

「……何でもないよマリィ」

 

 なんで、気がつかなかったんだ私は。

 

 ホップが私に何か隠しているとは思わないけれど……自分の子供の命が関わっているんだしあり得なくはない。

 

 私が計画を続ければ、子供の命はないのだから。

 

「ほら拭かないと」

 

 マリィが私の頬をハンカチで拭う。

 

「え、あれ、なんで」

 

 別に今は平気な筈なのに。

 

 泣いてる場合じゃないのに、なんで。

 

「私、違う…そんなんじゃ…」

 

「……話はこのくらいにして、ゆっくりと休んだ方がいいでしょう。ユウリさん、少なくともこの場にいる者は味方です、安心してください」

 

 委員長はそう締めくくった。

 

 ……少なくとも、"この場にいる人間は"という但し書きをつけて。

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