ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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文章を書くリハビリが順調なので、完結へ向けて頑張ります


77 透明飛行船

 

 

 明け方のハロンタウン。

 

「隠し事は、ない?」

 

 瓦礫の陰に立つ私は、朝日に目を細めるホップに聞く。

 

 その目にはクマが出来ていた。

 

「……ない」

 

「あるんだ」

 

「…何もないよ」

 

 私に隠し事があるのは間違いなさそうだ。

 

「……委員長の話は聞いてるんだよね?」

 

「分かってる」

 

「目的は私が過去を目指すことで達成される。言ってる意味、分かるよね」

 

「……そうか…」

 

「未来の私達だよ。タイムマシンの完成を早めようとしてるんだよ」

 

「結局俺はユウリを止められないってことか」

 

「私にはそのつもりないよ」

 

「……ユウリ?」

 

「代わりのものはあるんだってさ、どんなものにも」

 

「……すまなかった……」

 

「でも続けないといけない。タイムマシンを完成させないと、私たちの中の誰かが見せしめに殺される。シャクヤはそうだった」

 

「……続けないといけないのか?」

 

「どういうこと?」

 

「干渉が出来なくなるようにする方法が何かあるはずだ……」

 

「……この話を出すだけでどうなるか分からない」

 

「俺たちは……干渉される恐れを抱いて生きていかなきゃいけないのか……?」

 

「分かってる」

 

 アーゴヨンの入ったボールを握りしめ、ハロンを後にする。

 

「そうならないように、祈ってるよ。私も」

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 下見と、打ち合わせのためにエンジンスタジアムに降り立つ。

 

 ここに来るまでに届いたメールは1通。

 

『ずっと、見てるから』とだけ。

 

 また、10年後からだ。

 

 ……気が狂って幻覚でも見てるなら、その方が遥かにマシだったと思う。

 薬でも飲んで精神科にでも通えば万事解決だ。誰も死んだりしない。

 

「久しぶりだね、ユウリ君」

 

「お元気そうで何よりです、カブさん」

 

「死ぬまでは修行だからね」 

 

 変わらず背筋の伸びたカブさんは、そう言って笑う。

 同じようにユニフォームを着ていても、かなり年老いたように見える。

 

「対戦、楽しみにしています」

 

「こちらこそ。……相手は僕じゃないけれど」

 

 チャレンジャーの相手をするのは別人だと言う噂は本当らしい。

 

「ジムトレーナーで私の相手が?」

 

「まさか。君の相手は──」

 

「──俺だ」

 

 長身に赤いスーツの男が、芝生に似合わない革靴で現れた。

 

「キバナ……さん?」

 

「修行に行ってる間に起きるなんてな」

 

「雰囲気…変わりました?」

 

「20年だ。いつまでもパーカー着てるわけには行かないからな」

 

「……ダンデさんとは大違いですね」

 

「見せ方の違いだ。俺の方向性と、あいつの、な。そう変わらない」

 

「……そんなものですかね」

 

「カイオーガを捕まえたってのは本当か?」

 

「……そうですけど」

 

「なら本気を出して問題ないな」

 

「何の関係が?」

 

「俺の最強の晴れパーティに、最も相応しい一匹を捕まえたってことだな」 

 

「雨の方が強いですよ」

 

「戦ってみれば分かる。ああ、そうだ。ちょっとこっち来いよ」

 

「何ですか?」

 

 彼の手招きに従う。

 

「動くなよ」

 

 キバナさんは不敵に笑い、青い宝石が嵌められた首飾りを私の首にかけた。

 

「……これは?」

 

「お土産。ホウエン地方の」

 

「お土産って割には…」

 

 値段が高すぎるんじゃないかな。

 

「いいだろ、俺とおそろいだ」

 

 首から下げた涙型の赤い宝石を見せる。

 

「……誰かに渡すように言われました?」

 こころの雫を送ってきた相手なら、やりそうな気がする。

 

「いや?なんでだ?」

 

「こういうものを突然送ってくる相手がいるもので」

 

「そいつにとって価値があるってことだな」

 

「……どうですかね」

 

「俺は貢いでるわけじゃないぜ」

 

「なっ、そんなこと考えるわけ」

 

「フられちまったみたいだなぁ、これは参った」

 

「揶揄わないで下さい。これが何の役に」

 

「バトルには必ずカイオーガ出せよ。じゃあな」

 

「え、あの」

 

 好き勝手に言うだけ言って歩き去っていくキバナさん。

 

「……調整に可能な限り時間を使いたいみたいなんだ、許して欲しい」

 

 いなくなったキバナさんの代わりに弁解するカブさん。

 

「そういうことなら……」

 

「君と戦うために戻ってきたんだ。それだけ本気ってことだよ」

 

 私が一度逃げなければ、彼らが先に帰還して、この街の被害も少なく済んだかも知れないのか……いや、もう悔やんでも仕方ない。

 

「……あの人の専門ってドラゴンじゃ」

 

「天候を首軸にするなら何のタイプでも良いって方針なんだ」

 

「ああ……だから」

 

 殆ど前のナックルジムってことか。

 

 この間のオリヒメとかいう人、水タイプとか言ってたのはそういう……

 

「……ジムを離れていたのは何でですか?」

 

「修行だよ。マリィ君に勝つために」

 

「マリィに?」

 

「彼女がチャンピオンになってから殆ど勝ててないからね。彼女だけには」

 

「……マリィってそんなに強かったんですね」

 

「強いね。ジムリーダーを突然辞めた時はどうしたのかと思ったけれど……格段に強くなったよ。本当に別人みたいにね」

 

「……皆、変わったんですね」

 

「物事は変わっていくものだよ。君だってそうだろう?」

 

「私は……世の中の速度に置いていかれたような気分です」

 

「走って追いつくしかないね」

 

「走るって、そんな」

 

「僕らの若い頃と比べても、ずっと変わり続けてる。良い面も悪い面もあるけど、僕は置いていかれないように、走ってるよ」

 

「あっさりしてますね」

 

「人生に必要な事は単純だから、陳腐に聞こえるんだよ。みんな同じことを言うからね」

 

「……そうですか」

 

「走ってみれば分かるさ」

 

 歳を取っても背を曲げる事なく堂々と言う。

 

 私の体は衰えることはないだろうけれど、同じように、心を若く保っていられる気はしない。

 

「僕は引退してるけど、試合だけが道じゃない。後任を育てるのも役目だ。……ジムトレーナー達も鍛え直さないとね」

 

「やること、沢山ですね」

 

「だから、次の試合は僕からの挑戦だよ。僕と彼の考えうる最強を君で試させてもらう」

 

「……受けて、立ちますよ」

 

「ユウリ君?大丈夫かい?」

 

「え?」

 

 また、勝手に涙が垂れていたらしい。

 

「大丈夫、です」

 

「くれぐれも無理はしないようにね」

 

「はい」

 

 私は今、初めて負けることが怖いと思ったんだ。

 

 これまでは勝負にそんな感情はなかった。

 

 ここで負ければ、何が犠牲になるか分からない。

 願い星が集まる効率が落ちれば、未来にとっては不都合だ。より必死になるように仕向けるだろう。

 誰かの命が失われるかも知れない。

 見知らぬ誰かじゃなく、私の知る誰かの。

 

 そんな恐れが、頭から離れない。

 

 ホップが言っていたことはこう言うことなんだと理解させられた。

 根本の原因を断たないなら、私達の自由なんて、もう心の中にすらない。

 

 未来に追いつくまで、いつまでも。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「──?」

 

 マクロコスモスの地下施設。

 ボールから出したアーゴヨンは私を眺めていた。

 

 タイムマシンが成立するには絶対に不可欠な存在がある。ムゲンダイナだ。

 

 だから、もし未来からの干渉を完全に断ち切るのなら、その方法は演じ続けることでも、タイムマシンを開発することでもない。

 

 幸か不幸か、私はその方法を知っている。

 なんせ、一度完全に死んでいたのだから。

 

 私達を殺す剣は、願えばそれを叶えてくれる。避けようのない理由があるのなら。

 

「──」

 

 何も覚えていないのに、それは私をただ眺めている。

 

「……出来ないよ」

 

 今のムゲンダイナは私自身だ。

 

 誰一人知る存在のいない世界に放り出された、なんの繋がりも持たない、目覚めたばかりの私。

 

 それを、手にかけるなんて私には出来ない。

 

 私には出来ない。だから、いずれタイムマシンは完成する。未来からの干渉は始まる。

 だから、シャクヤは殺された。

 

「……覚えてないかも知れないけどさ、ずっと私を守って、それで……」

 

 どれだけ話しても、それはただ独りよがりにしかなからなかった。

 

 アーゴヨンは他人を見るように、私を眺めるだけだった。

 捕まえたばかりのポケモンのようだった。

 まるで、知らない人から預けられただけの、おやの違うポケモンみたいだった。

 

「一人にしないで……生かしたなら……勝手にいなくなったりしないで……」

 

 分かるはずもないのに、私は話しかけ続けていた。

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