ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

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致命的なミスに気がついたので一部書き直しました。


78 月虹-1

 アーゴヨンに話しかけていると、背後で扉が開く音がした。

 

「ユウリ、違う方法を考えたんだ」

 

「え……?」

 

 クマだらけのホップだった、でも自信に満ちた表情をしている。随分と久しぶりに見た顔だった。

 

「演じ続ける必要なんてない」

 

「……どうして?」

 

「じゃあ、聞くが、わざわざユウリを追い詰める理由がどこにある?」

 

「私が決めなかったら、ホップだってやらないでしょう」

 

「……最終的にタイムマシンの開発がより進んだ形になれば、干渉してくる未来とは大幅に変わってるはずだ。自分達が無かったことになるんだぞ?」

 

 ……考えていなかったわけじゃない。

 

「……彼らの想定してるタイムマシンだと、完成して、本当に20年前の事件を無かったことにできても、同じことだからだよ」

 

 過去改変の後、今の自分がそのまま存在できないことだってある、改変した日から続く世界がそのまま手に入るとは限らない。

 

 今みたいに間接的にしか過去に関われないのなら、改変に巻き込まれて自分達も消えるだろう。

 

「……ああ、そうだよな」

 

「たとえ過去を変えたとしても私が幸せになるわけじゃない、それでもいいって思ってるんだよ。前の私ならそう思ったかも知れない」

 

「だったら。いや、だからこそ、演じ続けるなんて消極的な発想は必要ないんだ」

 

「……どういうこと?」

 

「──タイムマシンの完成を早める。それが確定的になれば、その時点で干渉しようとしている未来は消滅する」

 

「……いいの?」

 

「…良いんだ。タイムマシンさえ完成させれば、使い方に文句を言うような未来の連中は消える。……まあ、ユウリが望むなら使っても良いけどな」

 

「どうするの?だって完成するには10年かかるんでしょ?」

 

「研究を公表して、あの日失敗した実験をもう一度行う」

 

「……え?」

 

「ああ、なにもタイムマシンを作りますなんて言うわけじゃない。あの実験は、ムゲンダイナのエネルギーを励起させるものだ」

 

「でも、願い星がなければそんなの」

 

「……出来るさ。俺を誰だと思ってる」

 

「ホップは……ホップでしょ?」

 

「俺はもう、あの頃の無力だった俺じゃない。信じてくれ。必ず出来る」

 

「……本当に、出来るの?」

 

「ああ、出来る。二人一緒なら」

 

「一緒に?」

 

「だって、ユウリは俺の……」

 

「ライバル、だからね」

 

「……ああ。そうだ」

 

「分かった」

 

「未来に逆襲するんだ」

 

 ホップの表情は、彼が道を決めた時のものと同じだった。

 

「私はどうすれば良い?」

 

「俺を信じて、試合に勝ってくれ。それだけでいい」

 

「……言ってくれるじゃん」

 

 負ける恐怖が、誰かを失うかも知れないなんて不安が、すっかり何処かに行ってしまった。

 

 こんなことで救われてしまうなんて、我ながら単純過ぎて笑えてくる。

 

 これは……負けられないなぁ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「グラードン!断崖の剣!」

 

「カイオーガ!根源の波動!」

 

 "ファイナルトーナメント"の試合終盤、"シュートスタジアム"のフィールドは原型を留めないほど荒れ果てていた。

 

 地面から吹き出す溶岩と、それを飲み込もうとする津波が衝突し、陸地と海が生まれては上書きされていく。

 異常な熱気と止むことのない雨が互いの陣地を奪い合う。

 

「はははっ!スタジアムごと吹っ飛びそうだなぁ!」

 

 赤いスーツのキバナさんは気取った服に似合わない凶暴な笑みを浮かべる。

 

「チャレンジの時と同じく瞬殺してあげますよ!」

 

「やってみせろよ!さあ、今度こそ修行の成果を見せるぜ、グラードン──」

 

 キバナさんが首から下げた赤い宝石が強い輝きを放つ。

 

「──!!」

 

 咆哮したグラードンが真紅に煌めく宝石に覆われる。

 

「またメガシンカですか!させるか──」

 

「──ゲンシカイキだ!」

 

 宝石は黒く染まり、中央に燃えるようなオメガの紋章が現れ──

 

「カイオーガ!!根源の波動だぁぁ!」

 

 放たれた水流が真紅の宝石に殺到し、そして砕けた。

 

「はっ、変身する前に倒せば大した──」

 

 しかし。

 

「──!!!!」

 

 瞬間、熱波がカイオーガの生み出した雷雲を掻き消し、殆どの水場が蒸発した。

 

「これが"終わりの大地"だ!」

 

 揺らめく陽炎の中に立っていたのは、数倍の体躯へ変化した赤黒い身体。

 

 体表の紋様には溶岩のような光が巡っている。

 

 強い日差しなんてものじゃない。

 手を伸ばす不遜な者を悉く焼き尽くす、大地の業火がそこにあった。

 

「変身したからなんだ!カイオーガ!根源の波動!」

 

 微動だにしないグラードンへ──水流は到達する前に消え失せた。

 

「なに……それ……」

 

「ゲンシカイキしたグラードンに、水は届かねぇ」

 

「……本当に大人気ない」

 

 封じられた水タイプ以外の技でグラードンを倒せるようには思えない。

 

「ユウリなら"分かる"だろ」

 

 赤い宝石を指さすキバナさん。

 

「さあ!ついてこいよ!グラードン──」

 

 もう手持ちはカイオーガしかいない。

 

「……貴方達に出来て、私にできないことなんて、ない」

 

 時間が静止する。

 

 胸元の青い宝石とダイマックスバンドを見比べる。

 

 知らない未来と私の過去。

 

 皆が使ってくるメガシンカなんて、未来なんて使いたくなかった。私はそれを否定したかった。

 

 もう、私は今を否定しない。

 

「カイオーガ──ゲンシカイキ」

 

「──!!!」

 

 青い宝石にエネルギーが流れ込み、呼応したカイオーガは群青の鏡面に覆われた。

 

「──断崖の剣!」

 

 溶岩と切り立った巨石の群れが、黒く染まっていく鏡面に突き刺さり、砕け散る。

 

 そして。

 

「──!!!!」

 

 カイオーガの咆哮が鳴り響いた。

 

 数倍になったその体躯に走るのは、眩い光の文様、フィールド上空からは叩きつけるような雨が、あらゆるものを洗い流すように降り頻り、暗雲が竜巻を巻き起こす。

 

 そして、水の中を泳ぐように、当然のことのように空へ舞い上がった。

 

「そうだ!俺が待ってたのはそれだ!」

 

「……そんなに嬉しいですか?」

 

「ああ、これで本気を対等に──」

 

「それならごめんなさい。キバナさん。カイオーガ──ダイマックスだよ」

 

「……は?」

 

 ボールに戻す。答えは私に告げている。ゲンシカイキも、メガシンカとかと同じで、ボールに戻して解除されることはない。

 

 それなら、ダイマックスとも両立する筈だ──

 

「──!!!」

 

 さらに巨大化したカイオーガは、スタジアムの開かれた天井すら覆うほどまでの大きさに達した。

 

「遊びはもう終わりなんです。カイオーガ!ダイストリーム──」

 

 決壊したように、途方もない水量がグラードンの"終わりの大地"を塗り替え、スタジアムを海に変え、何もかも押し流した。

 スタジアムに張り巡らされた観戦用のバリヤーすら一つ残らず木っ端微塵に破壊し、観客席さえ水浸しにして。

 

 

 

 水没して音の割れたスピーカーが試合終了を告げる。

 

「勝者、チャレンジャー、ユウリ!」

 

 そして、最後に立っていたのは私とカイオーガだった。

 

 歓声も非難の声も聞こえなかった。

 

 私が見ていたのは、来賓席から私に手を振っていたマリィだけだったから。

 

 最後に越えなければならない壁は、私を最初に保護した他ならない彼女。

 

 いつか、星を眺めるように見つめた彼女の元まで、私はようやく戻ってきた。

 

 私は負けない。勝って先に進むために。

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