「……君がチャンピオンになる、と言うのですか?」
「それだけじゃありません、貴方が昔しようとした事を、私がしようと思うんです」
「はて……どれのことかな……関わった仕事があまりにも多くてね」
とぼけたような顔をして白く伸びた髭を触る。
「そもそも、ジムチャレンジは、願い星を集める為のものですよね」
「……というと?」
「願い星は強い願いを持つ人の元に集まってくる。そしてダイマックスの制御に必要なあの腕輪は、願い星を材料にしている」
「そうですね、ガラルの住人なら誰でも知っている事です」
「ジムチャレンジは一部の人間、それこそジムリーダーから推薦状を貰ったトレーナーしか参加できない」
「はい、その通りです」
「そして、ジムチャレンジャーにはホテルの無償提供や無料のタクシー、手厚い補償がある」
「それが何か?チャレンジには必要なものでしょう?」
「確かにそうかも知れません、ですが明らかに手厚過ぎる。何らかの見返りが無ければそんな事はしない、企業なんだから」
「ふふ、子供にそんなことを言われる日が来るとは」
「推薦状が必要とはいえ、最初は大量の選手が出場する、だけど最後には5人も残らない。なら、他の選手達はどうなったのか」
「諦めてリタイアしたのでしょう」
「その選手達のバンドは、どうなったのですか?」
「危険性の面から、マクロコスモスが加工を施して、きちんとお返ししていましたよ」
「ダイマックス出来なくなるように、ですよね?」
「そうです」
「理屈をつけて願い星を回収しているわけですよね、それが見返り。だから手厚いサポートがある」
「確かにそう言った見方もできるかも知れませんね、ですが、根拠が無い。それに願い星が現れる条件だって噂に過ぎない」
「いいえ、絶対に願いに呼応して現れる筈です」
強い願いがあるから願い星が現れるのだ。
私は確信している。
だけど自分がそれを望んだのではなく、誘導され、願わされているのだとしたら。
「ローズさん、昔のチャンピオンリーグに八百長があったのは知ってますか?」
「大変遺憾な話です、ですが、ショービジネスにはよくある話でしょうね。彼の時代にそんなものは必要ありませんでしたが」
「ショービジネス、そうですよね。チャンピオンはガラル中のトレーナーが憧れるスター。トレーナーなら一度は目指したくなる」
「ふふ、彼は素晴らしいチャンピオンでしたよ」
「……だから、誰もが"チャンピオンになりたい"と言う強い願いを抱いた」
「──!」
老人は驚きに目を見開いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「全部、筋書き通りだった。子供達に強力なエネルギーを持つ願い星を降ろさせ、挑戦者にして、その願い星を回収する」
「……」
「試合に出ない者にはダイマックスを使わせない方が、人々の憧れは強まる」
「誰も損をしていないではありませんか、経済は潤う、挑戦者達は思い出が出来る。"誰もが"得をするシナリオでしょう」
「……ッ!」
歯を食いしばった、感情が喉元から口へ溢れ出してしまいそうだった。
「一日待てなかった理由、アレは演出ですね」
「ははは、分かってしまいましたか、会話が通じる人は君で二人目ですよ!」
「笑い事じゃない!」
ヘラヘラと笑う老人に摑みかかる。
「年長者はもう少し優しく扱うべき……」
「黙れ!ダンデさんを……ガラルを救った英雄を作るつもりだったんだろう!そうすれば更に憧れる子供は増えて、願い星を集めやすくなる!その踏み台になる為と言われて、冷静でいられるか!」
「想定外でした、ムゲンダイナはダンデ君を選ぶ筈だった」
「選ばれた訳じゃない!捕まえたのはホップから譲られたからだ!演出というなら、ホップでも良かった!兄を超えて頂点に立つ物語でも!」
「…君が倒したのでしょう?」
「私達の物語が、大人達に作られた茶番だと言われて納得できるか……何の為にホップが苦しんだと思ってる」
分かってしまったことがある。
恐らくホップは願い星を回収されていて、もうダイマックスを使うことが出来ない。
私と同じ土俵で戦うことは、もう有り得ない。
「人の、彼の夢を利用しやがって!」
「彼は夢を叶えましたよ?貴女の言う"彼"は20年以上も過去の少年の話だ、今じゃない」
「私には昨日のことだ!返せよ時間を!事故の大元の原因は目覚めさせたお前らだろ!お前らが引いた道筋の所為でこうなったんだぞ!何が思い出だ!勝手に思い出にしてんじゃねぇよ!」
「……そう……でしたか。私は皆が幸福になるように……いえ、初めて知りましたよ……ユウリさん、謝って許されることか分かりませんが、何度でも謝りましょう」
「謝罪はいらない…お前らが大人で、私を子供だと言うなら、責任を果たせよ……私の時間を返してよ……」
「いくら私でもそれは……」
「……ならせめて……私の願いを叶える手伝いくらい簡単だろ……」
「ユウリさん?」
「……私の思い出作り、手伝って下さい。拒否権、ありませんからね」
私の願いは、チャンピオンになることなんかじゃない。それは今でも変わらない……変わらない筈なのに。