ムゲンの果てで、愛を唄う少女ユウリ   作:銀杏鹿

81 / 83
∞話 月虹-0

 

 そして、何度目か分からない時間は巻き戻った。

 

 ユウリの自宅を改造した病室には、様々な機械の管に繋がれたユウリが眠り続けている。

 

 もうじき、目覚めるだろう。

 

 そして、あたしは何度も、何度でもユウリを抱きしめるのだ。

 

 そしていつか救える……信じていれば、夢はきっと叶う。

 

 だから繰り返そう、何度も、何度でも。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 初めからあたしは"そう"だったわけじゃない。

 

 ユウリはあたしの人生を変えたわけでもないし、何か凄いことがあったわけじゃなかった。

 

 最初は違和感があった。チャンピオンの弟と一緒に居る理由がよく分からなかった。チャレンジに参加してた他の選手とも雰囲気が違った。もちろんあたしとも。

 あの子には何かを背負っているような重みは全くなかった。

 唯一、ホップのことを見る目だけが印象に残って、調べたらチャンピオンの推薦枠だって分かって、余計不思議だった。

 

 だからホテルのロビーでまた会った時、勝負で確かめようとした。だけど。

 

「ちょいと付き合ってよ、あたしがジムチャレンジで勝てるか試しておきたいし」

 

「……」

 

 そうしたら、心底どうでも良さそうな顔でどっか行こうとした。なんなんこいつって。

 

「ちょっと待ちなって!」

 

「……わかった、やればいいんでしょ」

 

 かなり投げやりで、あたしは眼中にないみたいだったし、少しムカついた。

 

 あたしは負けた。

 

 でも、この時のユウリの手持ちの練度はそこそこだった。一方的に負けたわけじゃなかったし、チャンピオンが推薦する程なのかは分からなかった。

 

 次の日の朝、ホップを探してるのを見て何となく分かった。

 もう先に行ったって言ったら、これまで何もかも興味ないみたいな顔だったのに、急に不安そうな顔するし、かと思えばあたしが話したって分かるとムスッとするし。

 そんな様子を見ればユウリの"理由"はすぐに分かった。

 

 ああ、一緒に旅するためなんだ、って分かって。

 同じ選手なのにおかしいけど応援したくなった。

 チャレンジを続けて欲しくなった。

 

 だから、カブさんの情報があるリーグカードもあげたし、ユウリを試すためにやった試合なのに、お礼って誤魔化して火傷治しまであげた。

 

 カードは正直エンジンジムくらいだったら、大したもんじゃない。

 でも、ユウリはそれをすごく大切そうに受け取って、ぎゅっと胸に抱えた。

 

「……ありがと」

 

 多分、ホップが持ってたものって言ったからで、あたしに向けられたものじゃない。

 

 でもあたしの胸はキュッとなった。

 

 そのくらい、ユウリは嬉しそうな顔をしてた。

 

 それだけ。何かすごいことがあったわけじゃない。

 何も特別なことなんてない。

 

 あたしにとってユウリは、最初からただの女の子だった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ユウリは次第にバトルで頭角を現していった。

 

 何度か会う内にユウリの思いが恋心じゃないことが分かった。

 

 あたしにとってのアニキやモルペコが、ユウリにはホップだったんだろう。

 でも、アニキは最初から家族だしモルペコだってポケモンだ。

 家族だって何か足りないものを求めたり、思い通りになるわけじゃないのに、ユウリは他人のホップにそれを求めていた。

 

 あの子の目の中にあるのは、孤独と紙一重の執着でしかなかった。

 報われて欲しかったけど、彼は自分のことで一杯だったみたいで、彼女も他のものが見えてなかった。

 

 二人の間には、見えない距離と認識の差があった。

 なのに、お互い通じ合っていると思い込んでいて、何も気が付いてなかった。

 ユウリ自身も自分の願いを見ていなかった。

 

 あたしは負けるわけにはいかなかった。

 応援したい気持ちもあったけれど、それ以上にあたしはいくつも背負っていた。

 あたしには譲れない夢があった。

 

 スパイクタウンの復興、そしてあたし自身がチャンピオンになること。

 

 だから、あたしはユウリを倒すべきだった。

 

 ギリギリでチャレンジを進めているホップと、全く負ける気配のないユウリがトーナメントで戦えば、結果は見えている。

 

 対等な……対等だと思っている相手はいなくなり、二人の旅はそこで終わる。

 

 彼らはチャンピオンがなぜ孤独じゃないのか、理解していないように見えた。

 "10年間無敗のチャンピオン"と、"それに挑み続けられる相手"の関係なんて、当たり前じゃないってことを。

 

 ホップが挑み続けなければ、ユウリの理由は失われる。

 仮に負けたとしても、またチャレンジに参加したって良い、諦めなければ彼らは続く。

 

 "全ての願い"を叶えるために、あたしは勝ちたかった。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 あたしは負けて、ユウリはチャンピオンになった。

 

 あたしはジムを継いで、ホップは研究の道に進んだ。

 ユウリは結局、"一人"になった。あたしが何度バトルを挑んでもそれは変わらなかった。

 チャレンジの頃からライバルだと言っていたのも、思っていたのもあたしだけだった。

 

 あたしには、ユウリは救えない。それが分かった時、自分が何にショックを受けているのか分からなかった。ただもどかしかった。

 

 あたしは何も出来ないまま、ヨロイ島に行った後、ユウリはあっさり立ち直った。彼女を救ったのはやっぱりホップだった。

 

 望んでいた筈の解決なのに、あたしは純粋に喜ぶことが出来なかった。

 ユウリを一人にして泣かせたクセに、何も理解してないクセに、平気な顔をして"自分がユウリのことを一番分かってる"なんて言って隣にいるのが許せなかった。

 

 そんな風に思う自分に、その気持ちに気がついた頃には、何もかもが手遅れだった。

 

 あたしは……嫉妬していただけだった。

 

 応援してるつもりで、いつのまにか自分が一番ユウリを見ているつもりになって。

 

 隣に立ちたいと思ってしまっていた。

 

 ユウリが立ち直って、ようやくあたしは"友達"として認識させるようになった。

 

 あたしは……友達にしか、なれなかった。それ以上でも、以下でもなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。