そして、何度目か分からない時間は巻き戻った。
ユウリの自宅を改造した病室には、様々な機械の管に繋がれたユウリが眠り続けている。
もうじき、目覚めるだろう。
そして、あたしは何度も、何度でもユウリを抱きしめるのだ。
そしていつか救える……信じていれば、夢はきっと叶う。
だから繰り返そう、何度も、何度でも。
◆◆◆◆◆◆◆◆
初めからあたしは"そう"だったわけじゃない。
ユウリはあたしの人生を変えたわけでもないし、何か凄いことがあったわけじゃなかった。
最初は違和感があった。チャンピオンの弟と一緒に居る理由がよく分からなかった。チャレンジに参加してた他の選手とも雰囲気が違った。もちろんあたしとも。
あの子には何かを背負っているような重みは全くなかった。
唯一、ホップのことを見る目だけが印象に残って、調べたらチャンピオンの推薦枠だって分かって、余計不思議だった。
だからホテルのロビーでまた会った時、勝負で確かめようとした。だけど。
「ちょいと付き合ってよ、あたしがジムチャレンジで勝てるか試しておきたいし」
「……」
そうしたら、心底どうでも良さそうな顔でどっか行こうとした。なんなんこいつって。
「ちょっと待ちなって!」
「……わかった、やればいいんでしょ」
かなり投げやりで、あたしは眼中にないみたいだったし、少しムカついた。
あたしは負けた。
でも、この時のユウリの手持ちの練度はそこそこだった。一方的に負けたわけじゃなかったし、チャンピオンが推薦する程なのかは分からなかった。
次の日の朝、ホップを探してるのを見て何となく分かった。
もう先に行ったって言ったら、これまで何もかも興味ないみたいな顔だったのに、急に不安そうな顔するし、かと思えばあたしが話したって分かるとムスッとするし。
そんな様子を見ればユウリの"理由"はすぐに分かった。
ああ、一緒に旅するためなんだ、って分かって。
同じ選手なのにおかしいけど応援したくなった。
チャレンジを続けて欲しくなった。
だから、カブさんの情報があるリーグカードもあげたし、ユウリを試すためにやった試合なのに、お礼って誤魔化して火傷治しまであげた。
カードは正直エンジンジムくらいだったら、大したもんじゃない。
でも、ユウリはそれをすごく大切そうに受け取って、ぎゅっと胸に抱えた。
「……ありがと」
多分、ホップが持ってたものって言ったからで、あたしに向けられたものじゃない。
でもあたしの胸はキュッとなった。
そのくらい、ユウリは嬉しそうな顔をしてた。
それだけ。何かすごいことがあったわけじゃない。
何も特別なことなんてない。
あたしにとってユウリは、最初からただの女の子だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ユウリは次第にバトルで頭角を現していった。
何度か会う内にユウリの思いが恋心じゃないことが分かった。
あたしにとってのアニキやモルペコが、ユウリにはホップだったんだろう。
でも、アニキは最初から家族だしモルペコだってポケモンだ。
家族だって何か足りないものを求めたり、思い通りになるわけじゃないのに、ユウリは他人のホップにそれを求めていた。
あの子の目の中にあるのは、孤独と紙一重の執着でしかなかった。
報われて欲しかったけど、彼は自分のことで一杯だったみたいで、彼女も他のものが見えてなかった。
二人の間には、見えない距離と認識の差があった。
なのに、お互い通じ合っていると思い込んでいて、何も気が付いてなかった。
ユウリ自身も自分の願いを見ていなかった。
あたしは負けるわけにはいかなかった。
応援したい気持ちもあったけれど、それ以上にあたしはいくつも背負っていた。
あたしには譲れない夢があった。
スパイクタウンの復興、そしてあたし自身がチャンピオンになること。
だから、あたしはユウリを倒すべきだった。
ギリギリでチャレンジを進めているホップと、全く負ける気配のないユウリがトーナメントで戦えば、結果は見えている。
対等な……対等だと思っている相手はいなくなり、二人の旅はそこで終わる。
彼らはチャンピオンがなぜ孤独じゃないのか、理解していないように見えた。
"10年間無敗のチャンピオン"と、"それに挑み続けられる相手"の関係なんて、当たり前じゃないってことを。
ホップが挑み続けなければ、ユウリの理由は失われる。
仮に負けたとしても、またチャレンジに参加したって良い、諦めなければ彼らは続く。
"全ての願い"を叶えるために、あたしは勝ちたかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
あたしは負けて、ユウリはチャンピオンになった。
あたしはジムを継いで、ホップは研究の道に進んだ。
ユウリは結局、"一人"になった。あたしが何度バトルを挑んでもそれは変わらなかった。
チャレンジの頃からライバルだと言っていたのも、思っていたのもあたしだけだった。
あたしには、ユウリは救えない。それが分かった時、自分が何にショックを受けているのか分からなかった。ただもどかしかった。
あたしは何も出来ないまま、ヨロイ島に行った後、ユウリはあっさり立ち直った。彼女を救ったのはやっぱりホップだった。
望んでいた筈の解決なのに、あたしは純粋に喜ぶことが出来なかった。
ユウリを一人にして泣かせたクセに、何も理解してないクセに、平気な顔をして"自分がユウリのことを一番分かってる"なんて言って隣にいるのが許せなかった。
そんな風に思う自分に、その気持ちに気がついた頃には、何もかもが手遅れだった。
あたしは……嫉妬していただけだった。
応援してるつもりで、いつのまにか自分が一番ユウリを見ているつもりになって。
隣に立ちたいと思ってしまっていた。
ユウリが立ち直って、ようやくあたしは"友達"として認識させるようになった。
あたしは……友達にしか、なれなかった。それ以上でも、以下でもなかった。