アリーナを借りることができた。流石、2ヶ月前に予約を入れておいただけある。
(流石相棒だ、ネットワークを経由してアリーナ使用の申請をするなんてな)
私と打鉄はアリーナに直立不動で日本刀【流水】、そして太刀【明星】を両手に構える。
この二つの得物は家の蔵にあった。
一応私にもこいつを扱える事には扱えるが、やはり大きすぎるので一本が限界だ。
他にも短刀【幻影】、砲陸火矢【天候災害】等もあるが……幻影の方は単に巨大な短刀なのだが、天候災害は親父曰く1m30cmバトルランチャーだとかなんとか……私ならともかく一般人が生身で使おうものなら(この場合砲台として使う)衝撃で使用者がミンチになってしまう様な代物だ。
ISと比べてもかなり巨大な為、構えると言うよりも、抱えて使うと言った方が正しい。
使用したらしたで擦っただけでも相手は吹き飛ぶし、こちらもこちらでシールドが削れてしまう。諸刃の剣ってやつだな。
とてもではないが打鉄の武装としては使えそうにもない。
そんなわけで、一番使い易い太刀の明星と、日本刀の流水、短刀の幻影を私と打鉄の標準武装としたわけだ。
勿論、元々装備されていた太刀も標準武装としてはいる。使わないだろうが。
(さて、では修行だ……)
あくまで打鉄に経験を積ませる事がアリーナを借りた理由でもある。
先ずは北海家に伝わる様々な型で素振りをする……代々伝わる人を殺す為だけの型……憎き敵国の主君の首を討ち取る型……挑んできた流浪人を二度と挑めない体にしてしまう型……今では美しい競技になっている剣術、剣道も、基を正せば人を殺す為の技、技術。
覚悟がなければ花道を掲げる事は許されない……しかし!!!
(…………思わず強く振りすぎてしまったか)
地面が大きく抉れてしまった。
教師から大目玉を食らうな……これは。
(補修しておこう、そうしとけば罰も軽くなるだろう……)
打鉄も賛成している……よし。
結局その日は補修で終わってしまった。
まぁちょくちょく予約は入れてあるし、大丈夫だとは思う。
はぁ……お兄様格好良い!!!
「彼処に私も居れたら良いのに……」
お兄様には危ないからってアリーナの観客席に居るようにと言われてしまった。
私は、お兄様の良き妹で居たいから……それに従って此処に居るけど、それに満足できてない嫌な私が居るのも確かで……
「良いな……うちがねさんは……」
お兄様とあんなに体を密着させて……お兄様とあんなに稽古に励んで……
でも、私は確かにお兄様の言う覚悟ってモノがあまり分かってないからお兄様と稽古できないのは当たり前で……
一緒に居れない理由は分かってるけどそれでも分かってなくて……納得できてなくて……
「凄く……もやもやする!!!」
何だかお兄様と一緒に居るのに寂しい……嫌だな……
「姫娘、起きろ……朝だぞ……」
「うぅぅ……んぅ?は!?お、お兄様、おはようございます……!!!」
「おはよう……さ、準備して……朝御飯を食べに行くぞ……」
最近、姫娘の様子がおかしい。
やはり慣れない場所での生活が響いているのか……元気がない。
元々大人しい子ではあったが、最近は目に余るほどに元気がない。
いつもなら一本だけぴんっと跳ねている髪の毛も、萎れている。
これは早急に何とかせねば……
…………久しぶりに姫娘の好きな義鷹特製鍋を作ってやるかそれとも……さて、そんなこんなで私は授業中もこうして姫娘の元気を取り戻すべく作戦を練っている訳だが……どうもこれといった良い作戦が、思い至らない。
打鉄に姫娘と同じ女性としての知恵を貸してほしいと頼み込んでみたが、私はお主と同じ武人ではあるが策士ではない。と、突っぱねられてしまった。
足下が燃えてきたと言う表現が私としては正しいが、ここは手詰まりと言った方が宜しいだろう。
さて私から見て右前方と左後方が惜しげもなく煩いが、私は策を練らねばならない。煩い!!!と普段の私ならば一言言う所なのだろうが、今の私にはその様な時間はない。
故に私はこうして脳の屑入れに“煩い”と言う単語を掃き捨て、姫娘の好きな食べ物についての脳内ファイルを全てダブルクリックで開け、あいうえお順に整理されたデータを読み上げている。
ちなみに私の脳内ファイルは約50%が姫娘についての事で埋まっている。
残りの50%については生きる為の活動方法や一般常識(少々足りないとは思っているが……)、お金の貯金の仕方、料理のレシピ(これは姫娘の好物以外のレシピだ)、姫娘を守るには国際的なアレも必要だろうとその手の専門知識から十三の国の言葉、何かにモノを教える為の知識(つまり言語能力……普段は適当に流すのであまり発揮されることはないが)、最近覚えさせられたISの予備知識や専門知識、打鉄から教えてもらった知識と……まぁこんなものである。
ん?様々な武術の型はどうなのか?。
本能……だと言い過ぎだが、受け継いだ血が覚えている。故に脳内ファイルにその項目はない。
話や思考が思いっきりずれている……さぁ、考えよう、姫娘の元気を取り戻す為の策を……。
いけない……少々熱が入りすぎた様だ、頭から煙が立ち上っている感覚がする。
「貴女、言って良い事と悪い事がありますよ!!!」
はて……姫娘の珍しくも可愛い怒号が聞こえた気がするが……どうなのだろうか……。
「別にこの国を馬鹿にしようとも……別にこの国の人間を猿だと申されても構いません……しかしながら……っ」
はて……再び姫娘の可愛い声が……
「しかしながらっ、私のお兄様をバカにするような発言、行動、表情、仕草、呼吸、それら全て私は許しません!!!」
ペチーン……、となんとも可愛らしい何かをとても小さな力で叩いた様な音……
もうこれは間違いなく姫娘……では姫娘は何を?
「あ……あ……あなた……わ、私を誰だとっ……」
ふと見るとそこには今まで私に見せたことのない表情、目が暗く、焦点が合っていない姫娘と、頬を押さえる生徒…………待て、いったい全体どういうことだ?
「貴女が誰だなんてそんな小さな事などどうでも良いのです私は貴女のそのお兄様を愚弄する妙な態度が気に入らないそれだけなのですお兄様を他の戦の場で逃げ出し残党狩りで斬られた落武者以下と同じ扱いをしないで欲しいですお兄様は貴女程度には負けません貴女はお兄様よりも劣っているお兄様は貴女よりも優れているそんな貴女がお兄様を愚弄しても良いのか?そんな馬鹿な話あってはならないのです私は貴女を叩きましたが私は貧弱なので貴女は然程痛くもないでしょう昔は叩く以前に私は動けなかったのですここまで私が動けるようになったのもお兄様が毎日私を大切にしてくれていたからなのですこんな私の為に毎日お話をしてくれるんですこんな私の為に悩んでくれるんですお兄様は貴女なんて目じゃない貴女がお兄様を愚弄するならお兄様と一戦交えて叩き潰されなさいお兄様の偉大さが分かる良い機会ですお兄様が私の事を考える時間が減ってしまうのは嫌だけど貴女が居るから仕方ない事です諦めますそうですね貴女が負けたらこんなのはどうです?知ってますか?日本では落武者の首を切り落として城下町に晒しておく晒し首なんてのもあるんですよ?悔しいけど貴女は綺麗だから城下町の人間に人気な晒し首になりますね……ふふっ…………」
「ひっ……」
おおぅ……姫娘が暴走してる……以前似たような事もあったが……ここまではなかったぞ。
姫娘は息継ぎなしであんなに喋ることがでいるのか……
「ん゙、ん……晒し首は頂けんが……良いだろう、オルコットと北海兄は来週の月曜、試合をすること。勿論織斑とオルコットには代表決定試合をしてもらうので、織斑、生き恥を晒すなよ……」
「…………え゙、私試合するんですか?」
「やりましたねお兄様、お兄様の強さを見せつけてやりましょう!!!」
「…………何てことだ……これでは姫娘を元気に……ん?」
はて、待てよ……
「どうかしましたか?お兄様?」
今の姫娘は限りなく元気だ。
「お兄様、うちがねさんと頑張ってください!!!」
この案件は今のところは保留で良いのではないか?
「お兄様、この姫娘、できうる限り応援しますよ!!!」
目も輝いているし、例の一本もぴんっと跳ねている……問題は……無さそうだ。
「お兄様♪」
では、この案件は保留と言うことで……次の機会に回すとしておこう。
できれば次の機会なぞ来てほしくないが。