夕空ア・ラ・カント~中山律の普通な日常~   作:小林司

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 『なかよし川』は今も?

 

夏紀(なつき)電話(スマートフォン)が鳴る。

 

本当によく鳴る電話だ。

 

「もしもし? げっ、優子(ゆうこ)……」

 

しかも、また弟の嫁から電話のようだ。

 

明らかに嫌そうな声。

 

「えっ? 今……名古屋南JCT過ぎたところだけど」

 

どうやら、今どこにいるのか、といった話だろう。

 

「は? 何処って言った? 刈谷(かりや)?」

 

夏紀の素っ頓狂な声に、律はちょうど見えていた道路標識を見る。

 

刈谷 といえば、次のパーキングエリアだ。

 

「来てるの! 分かった。停めてもらうから、話はそこで。いや。あんたは酔ってるんでしょ!」

 

夏紀が電話を切る。

 

「中山さん。次、刈谷パーキングエリアに停めてください」

 

「刈谷ですね。分かりました」

 

ちょうど休憩しようと思っていたタイミングだ。

 

 

 

 

夏紀の指示で、律は車を刈谷パーキングエリアに向けた。

 

分岐して下り坂を下っていく。

 

下りきった分岐のところにある植栽帯に、人の姿があった。二人居る。

 

しかも、内一人の頭には猫耳の如く大きなリボンが、遠くからでも確認できた。

 

「あのリボン。あれが弟の嫁です。隣が弟……」

 

「あー。あの二人ですね」

 

夏紀が恥ずかしそうに言ったので、軽く流す。

 

植栽帯の近くは駐車場ではないので、横を素通りし、正規の駐車場に車を止める。

 

横を通り過ぎるとき、二人は特に何もしなかったが、車が止まり夏紀と律が降りると、こちらへ歩いてきた。

 

「夏紀おかえりー」

 

弟の嫁、確か優子といったか? 彼女が夏紀に声掛けた。

 

電話口では酔っていた感じだったが、素面に見える。

 

「優子、酔ってるんじゃなかったの?」

 

「飲んでないけど? あれは会社でやる一発芸の練習よ」

 

律が気になったことは、二人の会話を聞いて解決した。

 

「一発芸って。それに何でこんなところに……」

 

「休みの日なんだからいいじゃない。夏紀を迎えに来たんだよ。春臣(はるおみ)と一緒にね」

 

「優子さんに言われたら逆らえないの、姉貴なら知ってんだろ……」

 

そう言った人物、夏紀の弟が車から降りている律に気付く。

 

「わざわざ送っていただいてありがとうございます。中川 春臣(なかがわはるおみ)といいます」

 

弟……春臣が、車の反対側にいる律のもとへ来た。

 

中川 優子(なかがわゆうこ)と申します。夏紀がお世話になりました」

 

優子も続いた。

 

「あ、私は中山 律(なかやまりつ)です。たまたま黄前(おうまえ)さんのお宅でお会いして、方向が近かったので送らせてもらいました」

 

二人のあとに続いた。

 

電話口で聞こえてきた話の限り、ここでも律が最年長だろう。

 

「あ、立ち話もなんですから、お昼御飯にしませんか?」

 

 

 

刈谷パーキングエリアは、『上り線』『下り線』『ハイウェイオアシス』と、三ヶ所の施設が徒歩で行き来できるので、オアシス側にあるファストフード店に入る。

 

夏紀と春臣が適当な席を確保し、律と優子が注文に向かう。

 

『バーガーメトロ』。全国展開中のハンバーガーショップだ。

 

先に優子が注文する。

 

「テリヤキバーガーセット三つで」

 

「ドリンク三点お選びください」

 

「全部ウーロン茶」

 

「他にご注文はございませんか?」

 

「以上で。カードで支払います」

 

優子の注文が終わる。

 

次は律。

 

「えっと、ダブチのセット。サイドはチキンで」

 

「ドリンクをお選びください」

 

「ゼロコーラで」

 

「チキンのソースは……」

 

「両方ください」

 

慣れたものだ。当然だろう。

 

律が注文を告げると、対応していたスタッフが、厨房に顔を向ける。

 

「ポテト揚げて!」

 

「オーケー!」

 

スタッフの声に、律が反応する。

 

スタッフが驚いた顔で律を見る。

 

「あ……何でもないです……」

 

しまった。今は仕事中ではない。

 

 

 

 

愛知県(あいちけん)刈谷市(かりやし)。伊勢湾自動車道、刈谷パーキングエリア。一見、何の変哲もないパーキングエリアに見えるが、実は。日本で三番目にお客さんが多いテーマパークなのだ」

 

「因みに、一番目は浦安鼠帝国(うらやすねずみていこく)、二番目は桜島(さくらじま)国際撮影所(こくさいさつえいじょ)だね」

 

「変哲もないといったけど、あんなに目立つ観覧車あるから」

 

「いや、それ全部パーキングエリアじゃなくてハイウェイオアシスのことだからね。って、何の話だよ……」

 

優子(ゆうこ) 春臣(はるおみ) 夏紀(なつき) (りつ)の順に喋った。

 

最初の3人がボケで、律がツッコミだろうか。

 

「浦安鼠帝国って……。言わんとしていることは分かるけど。桜島国際撮影所って何?」

 

「USJです」

 

「なるほど。その例え初めて聞いた」

 

 

「中山さん上手いですね。しっかりツッコミ入れれてます。俺初めてお会いした気がしません」

 

春臣が感動している……。

 

「春臣の言うこと分かるな。私も初めての気がしませんよ。なんとなく夏紀に似てない?」

 

「そう? 私に聞かれても……」

 

夏紀に似てる?

 

「そういえば、同じようなこと、黄前さんにも言われたような気がする。黄前さんが言ってた『高校時代の夏紀先輩』って芳川さんのことだよね?」

 

律は昨日初めて久美子と会ったときのことを思い出した。

 

「黄前ちゃんまでそう言ってたの?」

 

「ほら、黄前さんがそう言ってたんならそうでしょう」

 

なんだか優子は嬉しそうだ。

 

「って、夏紀黄前さんに会ってきたの?」

 

食らいついた。

 

「昨日の夜言ったじゃん。黄前ちゃんとこに泊まるって」

 

「ごめん。昨日は本当に酔ってたの……。電話のこと覚えてない……」

 

「電話したことは?」

 

「電話があったことも全部……」

 

「記憶飛ばないタイプの優子がなにも覚えてないって……。相当酔ってたじゃん。呑まされたの?」

 

「係長にね。昇進祝いって」

 

「全く。ハル大変だったでしょ?」

 

「まあね。てか、俺と中山さんの存在忘れてると思ってた」

 

「仲良いね。二人とも」

 

夏紀と優子だけが盛り上がり、春臣と律は蚊帳の外。

 

と思ってたが、夏紀が春臣に話し掛けた。

 

しかし、春臣と律が何を言っても、それ以上夏紀と優子が返事をすることはなかった。

 

「別に夏紀には迷惑かけてないから良いでしょ」

 

「そういう問題?」

 

結局、二人は二人だけの世界へ突入してしまった。

 

 

残された春臣と律。

 

「普段もこうなの?」

 

「そうですよ。『なかよし川』ですから……」

 

「え? なにそれ」

 

『なかよし川』に律が食らいつく。

 

「『中川 夏紀』に『吉川 優子』で、『中吉川』です。高校時代から続いてるんですよ。凄いですよね」

 

川が付く苗字どうしの愛称か……。あれ?

 

「ということは、今は逆転してるってことだよね?」

 

夏紀の現姓は芳川、優子は中川。

 

芳川の字は違えど、『中吉川』は『中芳川』として健在、ということか。

 

「こうして話を聞いてると、その頃の北宇治高校吹奏楽部ってかなり濃いんじゃない?」

 

「でしょうね。俺は年の差がありますから、詳しいことは知らないんですが」

 

「あ。そういうことか……」

 

律があることに気づき声を上げた。

 

「何ですか?」

 

「昨日の夜ね。芳川さんに初めて会ったとき、芳川さんが『もう中川先輩じゃない』って言ったあと、黄前さんが『吉川先輩?』って言ったの。そういうことだったんだ……」

 

もし仮に、夏紀が優子と結婚したとしたら、吉川 夏紀になった。

 

あのボケは、そういうことなのか……。

 

「しかしまあ。片方は字は違えど、中川先輩と吉川先輩が入れ替わってるなんて、誰も想像していないでしょうね。黄前先輩は分かんないけど……」

 

春臣が呟く。

 

「確かに……」

 

律もそれには同調せざるを得ない。

 

彼女に正体を見破られたのだから。

 

 

 

 

 

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