夕空ア・ラ・カント~中山律の普通な日常~   作:小林司

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『バーガーメトロ』について。実在の企業名は出せないので、架空の名前にしてあります。

出店数・知名度はモスバーガー、お店のスタイルはマクドナルド をイメージして頂けると良いです。


私も某ファーストフード店で働いていましたが、非番の日に他所の店に行ったとき、従業員の声に反応しそうになったことがあります(笑)



 迎えの理由

 

「ところで。なぜお二人は芳川(よしかわ)さんを迎えに来たんですか? ……えっと、言い方が悪いかな。その……。まるで測ったようなタイミングだったよね」

 

言葉が上手く出てこなかったが、(りつ)が言わんとしていることは伝わったようだ。

 

「それは俺にも分からないです。急に出かけるって優子(ゆうこ)さんに引っ張り出されて……」

 

首を傾げつつ、夏紀(なつき)と優子の方を見る春臣(はるおみ)

 

つられて律もそちらを見る。

 

「だからってね……ん?」

 

夏紀は二人の視線に気づいたようで、二人のほうを見る。

 

「そういえば、何で?」

 

再び優子の方を見て言った。

 

律と春臣の話は聞いていたようだ。

 

「何が?」

 

「私がここに来るのをどうやって知ったのか」

 

鳥居(とりい)専務から聞いた」

 

「専務から? あ、朝方電話有ったわ……」

 

車の中で電話していた相手のことのようだ。

 

夏紀の会社の専務のよう。

 

「携帯のGPSが新名神の甲南(こうなん)辺りを東進してるって教えてくれたから」

 

なるほど。あの携帯電話にはGPSが搭載されているらしい。

 

「誰かに乗せてもらうって言ってたし、新名神を通ってるってことは、刈谷(かりや)辺りなら待ち合わせ出来るかなって思って」

 

そうしたら見事に落ち合えたわけか。

 

「近くだからって名古屋国際会議場(全国大会の会場)に寄ったりはしないだろうし」

 

う……。

 

そういう会話はしていたけれど……。

 

 

 

「そういえば、さっき中山さん店員の声に反応してましたけど、何でですか?」

 

そこを触れてくるのか……。

 

恥ずかしいから忘れたいというのに。

 

「職業病みたいな感じ。つい反応してしまったな……」

 

「それじゃあ、中山さんはメトロで働いてるんですか」

 

「はい」

 

「あれ? さっきスーパーで働いてるって言ってませんでしたか?」

 

律がメトロで働いていると聞き、さっき車内でスーパーで働いていると言っていたのを知っている夏紀は首を傾げた。

 

「昼はスーパーで、夜はファストフード店で働いてます」

 

「Wワークなんですね」

 

黄前(おうまえ)ちゃんはスーパーで仕事中の中山さんに出会ったんですね」

 

そう。久美子(くみこ)と出会った時は仕事中だった。

 

「ファーストコンタクトは、彼女が運転する電車の行く手を塞いでしまったことだったけど」

 

逆に久美子が仕事中だった。

 

「えっと、どういうことですか?」

 

春臣はそのことが気になるらしい。

 

掻い摘まんで説明した。

 

「なるほど……。しかしまあ、怪我なくて良かったですね」

 

「ありがとう」

 

「黄前さんは京阪(けいはん)に居るのね」

 

優子は久美子の働いている場所を知れて、どことなく喜んでいる。

 

 

 

 

 

春臣の発案で、観覧車に乗ることになった。

 

四人が乗り込んだゴンドラが、ゆっくりと上がってゆく。

 

「観覧車なんて久し振りね。ひらパー(ひらかたパーク)でロシアン観覧車乗った以来だから、何年前?」

 

「乗った乗った! 懐かしいなぁ」

 

「確か三人で乗ったんだよね。俺が『ロシアン観覧車当ててやる』って言ったら本当に当たった奴だ」

 

律を除く三人で盛り上がっている。一人置いてけぼり。

 

「えっと、そのロシアン観覧車って何ですか?」

 

律の場合、話に加わろうとすると、まずそこから。

 

「あ、そっか。ロシアン観覧車というのはですね、ここの『シースルー観覧車』の逆で、外が見えないんです。全面隠れてまして、外は全く見えないんです」

 

シースルー観覧車とは、全面が透明で、床と天井からも外が見える構造だ。

 

地上から見れば、乗っている人の靴の底まで見える。

 

対して、ロシアン観覧車は、全面がフィルムで覆われていて、外は一切見えない。

 

「それ、乗ってる意味あるの?」

 

観覧車 なんだから、見えなければ意味ないのでは? というのが、律の率直な感想だ。

 

「ちゃんとリーフレットがあって、案内に合わせて見るんです。『今見えていたはずの景色』が乗ってました」

 

「楽しいの……?」

 

感想は人それぞれだろう……。

 

「でも、乗るのを拒否する事は出来るんですが、指定することは出来ないので、乗れるかは運次第って奴です。運試しですね」

 

運試しなのか。

 

「まあ、閉所恐怖症の人には拷問でしょうね。逆に、高所恐怖症の人には良いかも知れませんね。だって、外見えないわけなので。ね、優子さん」

 

えっ? 優子は高所恐怖症なの?

 

しかし、見た感じ問題なさそうだが。

 

「いつの話してんの。もうとっくに克服したわよ」

 

つまり、昔はそうだったのか……。

 

 

 

国際会議場(全国大会の会場)ってどっちの方角?」

 

「北西じゃない?」

 

やっぱり探すのか……。

 

このメンバーはどこへ行っても『全国大会の会場(名古屋国際会議場)』を探すらしい。

 

「どんな形だっけ?」

 

「一回だけしか行ってないからうろ覚えだからね……」

 

「あら、夏紀(なつき)は一回だけなのね。私は三回行ってるけど」

 

そこ競うところ?

 

「三回も何しに来たの? 私らの代じゃあ全国出場は一回だけだし」

 

さっき、車内で夏紀がそう言っていたし、(りつ)の記憶も同じだ。

 

「全国だけが名古屋国際会議場じゃないでしょ。私はライブに行ったの」

 

ライブか……。

 

放課後ティータイムも数回ライブを行った。律にとっても思い出の場所。

 

「ライブって? 優子(ゆうこ)誰か推してる人いたっけ?」

 

「放課後ティータイムのね」

 

あれま。放課後ティータイムのライブに来ていたのか……。

 

「わざわざ?」

 

「親がチケット持ってきてね。みんなで行ったのよ。高一の冬だったから、解散の前年だっけ……?」

 

2015年の名古屋ライブだな。

 

あのライブといえば……。

 

「あ!」

 

律は思い当たる節があり、思わず声を上げてしまった。

 

「中山さん?」

 

三人とも律の方を見ている。

 

「いえ。何でもありません」

 

誤魔化す。

 

思い出した。

 

名古屋ライブで頭に一際大きなリボンを付けていて、他の誰よりも目立つ人がいたことを。

 

あの子が優子なのか……!

 

一方的な部分があるとはいえ、優子とは初めて会ったわけではないんだ。

 

「あ、そうだ。折角だし写真撮りましょう!」

 

感動している律を余所に、優子が言った。

 

仕方ない、優子にはその理由は知り得ないのだから……。

 

 

 

「はい。記念にどうぞ」

 

優子が観覧車の中で撮った写真を律に渡す。

 

「ありがとう。今はスマホで撮ってコンビニですぐに印刷出来るから便利ね。昔はフィルムだったから……。みんなデジカメ世代か」

 

下手をしたらフィルムを知らない世代かもしれない。

 

「流石にフィルムカメラは知ってますよ。触ったこと無いですけれど……」

 

優子の世代はそんな感じなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏紀たち三人と別れ、律は一人車を走らせる。

 

ここまで来たのであれば、半分も残っていない。

 

 

豊田(とよた)ジャンクションから東名高速へ入る。

 

東海環状道(とうかいかんじょうどう)という選択もあったが、災害復旧工事で渋滞が発生しているとのことで、東名を選んだ。

 

律一人になったので、助手席に鞄を置いている。

 

鞄の隣に、先程四人で撮った写真がある。

 

「おもしろい人達だったなぁ……」

 

自分以外誰もいない車内で、一人呟く。

 

「リボンの子に会えるとはね……」

 

リボンを付けていた子。優子のことを見つけたのは律だけではなかった。

 

(みお)(つむぎ)も見つけていたし、(ゆい)に至っては『リボン小町』と名付けていた。

 

こんな形で(一方的とはいえ)再会できるとは思わなかった。

 

また、いつか会えるだろうか……?

 

会えるよね。

 

そのためにも、まずはこの道中無事に帰ることから。

 

疲れは出ているが、ハンドルを握る手に意識を集中させる。

 

 

 

愛しの我が家まで、もう少しだ。

 

 

 

 





長くなってしまいました……。

滋賀への応援パートは今回で終わります。

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