夕空ア・ラ・カント~中山律の普通な日常~   作:小林司

2 / 11
 彼女の今

 

岐阜県坂元市。

 

駅前商業ビルにある食品スーパー『はらまる坂元駅前店』

 

「いらっしゃいませ。お預かりいたします」

 

レジから女性の元気な声が聞こえてくる。

 

「お待たせしました」

 

「ありがとうございました」

 

今は夕方なので、四台あるレジの内、三台が稼働しており、その三台にそれぞれ女性が入っている。

 

「以上で580円です!」

 

3番レジにいるのは名札に『金山です』と書かれている、大学生くらいの女性。

 

「ありがとうございました~!」

 

元気よく(良すぎる?)レジをこなしている。

 

 

「えっと。大根一本ですね……。釦どれだっけ……これか」

 

2番レジの彼女は、『市川です』と書かれた名札の下に『研修中』の札もぶら下がっている。

 

スピードは早くないが、ゆっくり確実に進めている。

 

 

「お待たせ致しました」

 

1番レジにいるのは、おそらくこの三人の中では1番経験が長そうな人。

 

名札には『レジ 中山です』と書かれている。

 

「はい。あ、そちらの商品券はご利用頂けません」

 

自分のレジだけでなく、隣の市川をフォローしながら進めている。

 

 

夕方ピークが訪れ、三台のレジがそれぞれお客様を捌いている。

 

多少列になるが、スピードはやはり、1→3→2といった具合。

 

「村上くん! かご回収お願い!」

 

「はい。今行きます」

 

レジと別で、サービスカウンター業務、カゴの回収やゴミの片付けを行っている、『村上です』という名札をつけた大学生ぐらいの男性がいる。

 

中山の指示でカゴを集めて各レジへ渡す。

 

この四人が協力してピークのお客様を捌く。

 

 

夕方ピークが過ぎ去り、お客様が途切れた。

 

「中山さん、ちょっといいですか?」

 

「いいよ。何かな?」

 

市川が分からないところを中山に尋ねる。

 

「この場合はどの釦を押せば良いんですか?」

 

「えっと? どれって言った? あ……これね。難しいよね」

 

口で説明するのは少し難しい。

 

しかもそれで覚えられるかも微妙な感じのもの。

 

「あ、村上くん! ちょっとレジお願いね」

 

村上に代わりにレジに入ってもらい、市川の元へ行く。

 

「その時はこれ。先にこれを押してから……」

 

こうして一人前へと成長してゆく。

 

微笑ましい光景だ。

 

「ありがとうございます。そういえば中山さん」

 

「なに?」

 

「あ……でもこれ、聞いていいんでしょうか? 仕事とは関係ないんですが」

 

「別にいいよ」

 

「前から思ってたんです。中山さんって放課後ティータイムの田井中律さんに似てますよね」

 

「……まあね。よく言われる」

 

似ていないわけがない。本人なんだから……。

 

そう思っても言わない。

 

正体がバレたのならまだしも。自らバラすようなことはしない。

 

 

彼女……中山律(なかやまりつ)こと田井中律。

 

放課後ティータイムのリーダーも、今はしがないアルバイト。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。