久美子が玄関をくぐると、「あれ?」と声を上げ、「
「帰ってるよ。LINEしただろ」
そう言いながら、奥から男性が現れた。
久美子と同じくらいの年齢に見える。
「ごめん。見てないから」
「ひでぇ……」
「乗務中に見れるわけないじゃん。またSNSで叩かれたら困るし」
二人のやり取りには違和感が全く無い。自然。
「えっと、旦那さんですか?」
律は気になってそう尋ねる。
「まさか」
久美子はそう言い、手を振る。すかさず、「それはないだろ」という突っ込みが入る。
本当に会話が自然体だ。
結婚していないのなら、同棲中だろうか。
それよりも、律は秀一と呼ばれた人物に見覚えがあるらしい。
「あの……。もしかして、
某有名楽団で活動しているトロンボーン奏者、塚本 秀一。
「えっ? はい……塚本 秀一です」
やはり。
「こんな所でお会いするとは……。驚きです」
「ねえ秀一。この人誰か分かる?」
律が感動している横で、久美子は秀一に問いかけている。
「えっと。どちら様?」
「分からないの?」
二人は顔を見合わせている。
「田井中 律さん」
「田井中って、放課後ティータイムの? まさか……」
こんな所に居るわけがない、秀一はそう言いたげだ。
「本人だよ。ですよね?」
否定され頬を膨らませた久美子が律の方を見て言った。
そういえば、さっきの問いに対して何も言っていないので、誤魔化そうと思えば誤魔化せる。
しかし、ここまで言われて認めないわけにもいかないだろう……。
「その通りです。元
トロンボーン奏者 塚本 秀一、元放課後ティータイムリーダー 田井中 律。
有名人が揃っている……。
食卓のテーブルに、律 久美子 秀一が座る。
「放課後ティータイムって、解散に関していろいろな噂がありますけれど、実際のところどうなんですか?」
さっき、久美子が言っていた『聞きたいこと』とは、このことだろう。
今まで週刊誌やSNSなどで解散に関する様々な噂が流れているが、その真相は本人たちしか知らないのだ。
「解散の本当の理由……。折角なのでお話ししましょうか……」
今まで誰にも話したことのないこと。
「お茶でも
話が長くなりそうだと思ったのか、久美子がそう言って立ち上がる。
「そうだ。夕方
続いて秀一も立ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
一人だけ座ったままの律は、そう言うしかなかった。
お茶が入り、お菓子も並んだ。
「放課後ティータイム解散の本当の理由は、私が結婚する事だったんです」
律が、今まで当人たちしか知り得なかった事実を打ち明けた。
「結婚。だから中山さん なんですね」
「もう離婚してるけどね……」
お茶を少し飲む。
「私に原因があって離婚してるから……。理由は詳しく言いたくないんだけど、自分の都合で放課後ティータイムを解散して結婚したから、離婚したことは他の誰にも話してないし、ずっと会ってないんだ。あと、身分がバレないように姓もそのまま。旦那とは嫌いになって別れた訳じゃないからね……」
律は顔を見上げた。
天井を見ているわけではない、近いようで遠いところ……。
そう。離婚してからメンバーとは会っていない。
しかし、彼女たちは有名人だから、会わなくても現況は分かっている。